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事件
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あいつに電話をかける。呼び鈴が3回鳴った時につながった。「もしもし、やったわよ。」「そうか、ご苦労さま。」相変わらず変声機を使っている。気にくわない。「これで君の目的は達成されたのかい?」「ええ、まあね。」電話が切れる。
これで良かったのだ。これで私の望むようになる。
ドン。
応接室のソファから転げ落ちて目が覚めた。
結局、新入生用の準備は午前2時までかかった。沙奈を起こしてはいけないし、何より50分もかけて帰る気力がなく、泊まることにしたのだった。いわゆるお金持ちの相手をするにふさわしいソファを応接室にこしらえているので泊りがけの仕事になった時でも寝る分には文句は無い。時計をに目をやる。7時45分。普段ならとっくに家を出て、まもなくこの場に到着するという時間だ。ということは新井先生ももうすぐ来る。デスクの上を片付けるかと思い腰を上げた。
片付けも終盤に差し掛かった頃、新井先生がやってきた。「おはよう、康二くん。昨日は遅くまでお疲れ様。」「あぁ、おはようございます。」自分の口から出た言葉の弱さにびっくりした。「大丈夫?顔色悪いわよ。今日は何コマ入ってるの?」「4つです。」「じゃあ代わってあげるから今日は帰って寝なさい。」「いや、でも…」「上司からの命令が聞けないの?」「すみません。お言葉に甘えさせてもらいます。」家に帰る支度をする。ひと休みしたら事務仕事でもしようと、パソコンに入っているデータをUSBに移し、資料をまとめてファイルに入れる。「急にできた休みなんだからしっかり休みなさい。奥さんと食事にでも行ったら?」「それもいいなー。でも、あいつも予定あるんじゃないかな。あ、これ、少し進めておきますね。」タクシーを呼ぶかと聞かれたが、そこまでしてもらうのは気がひけるので断った。「じゃあお疲れ様です。何かあったらすぐ呼んでください。」最後の試練だと自分にムチを打って、長い帰路へとついた。
インターホンを鳴らす。応答は無い。もう一度鳴らしてみる。やっぱり応答なし。どこかへ出かけたのだろうかと思い、カバンから家の鍵を取り出して玄関を開ける。靴がない。やはり出かけているようだった。荷物を自室に置き、すぐさまシャワーへと向かう。シャワーで睡魔が倒されてしまうのではないかという、ロクでもない心配をはねのけて、熱い湯を浴びる。疲れ切った体にしみる。ぱぱっと髪と身体を洗い、浴室から出て、コンビニで買ってきた軽食を食べ、すぐさま寝室へと入る。思っていたよりも疲れていたようでベッドに横たわると、すぐに眠ってしまった。
目が覚める。16時。かなり眠ってしまった。持って帰ってきた仕事を済ませておかないとと眼を覚ますために顔を洗う。水を飲もうとリビングに入る。沙奈はまだ帰っていないようだった。コップいっぱいに水を注ぎ、それをいっきに飲み干す。そういえば昨日からろくに水分もとっていなかったことに気づき、自分に注意を促した。自室に戻り、パソコンを起動させて仕事に取り掛かる。自分以外の誰もいない家。作業をするにはうってつけの状況だった。
とりあえず仕事にきりがついた。
時計を見ると20時半すぎを指していた。「4時間くらいか…。」あの量にしては早い方だった。「人間、やればできるもんだな。」なんてことを思っていると、空腹感が襲ってきた。夕食を食べようとリビングに降りる。誰もいない。まだ沙奈は帰ってきていないようだ。携帯を見ても沙奈からの連絡はない。それどころか昨晩送ったメールを見た様子もなかった。嫌な感じがしたが、沙奈も当然人から心配されるような年ではないので特に気にしないようにした。そのうち帰って来るだろうと気楽に考えていた。
テレビを見ながらゆっくりと夕食を食べる。
家での1人きりの食事なんて何年ぶりだろうか。たまにはこんな時もあってもいいか、なんてことを考えるが、心のどこかに引っかかるものがあった。時計を見ると21時40分。
「いくらなんでも遅くないか…」携帯を見る。連絡はない。嫌な感じが大きくなっていく。沙奈の行きそうなところを考える。連絡先がわかるのは実家くらいだが、余計な心配をかけるわけにもいかない。沙奈が仲良くさせてもらっている隣の三枝さんはどうか。いや、あの世話焼きさんのことだ、話が無駄に大きくなってしまうかもしれない。そもそも、引っ越してきた時に挨拶して以来、会話をした覚えがない。どうすることもできずにあたふたしているうちに時間だけが過ぎていく。時計は22時10分を告げる。「一旦落ち着かないと。」自分に言い聞かせる。椅子に座って冷静になろうとする。テレビが目に入った。「つけっぱなしだった、消さないと。」と主電源に手を伸ばした時、アナウンサーがあるニュースの原稿を読み始めた。
“次はA市で起こった奇妙な事件についてです。”
自分の住む街で起こった“奇妙な事件”
“1日午前、A市在住の沖田雄三さん34歳が自宅から忽然と姿を消しました。当初、警察は単なる家出として捜査していましたが、沖田さんは一人暮らしで近隣への書き込みでも特に家出をするような理由がないことから、現在は何かの事件に巻き込まれたものとして捜査をしているということです。職場関係者のはなしだと、沖田さんとは先月末から連絡が取れなくなったということです。”
これだ。
直感がそう告げた。
スピリチュアル的なことにまったく興味はないが、今回ばかりはどうしてもこの直感を信じて見たくなった。
警察に連絡しないと…
受話器を取った手は微かに震えていた。
これで良かったのだ。これで私の望むようになる。
ドン。
応接室のソファから転げ落ちて目が覚めた。
結局、新入生用の準備は午前2時までかかった。沙奈を起こしてはいけないし、何より50分もかけて帰る気力がなく、泊まることにしたのだった。いわゆるお金持ちの相手をするにふさわしいソファを応接室にこしらえているので泊りがけの仕事になった時でも寝る分には文句は無い。時計をに目をやる。7時45分。普段ならとっくに家を出て、まもなくこの場に到着するという時間だ。ということは新井先生ももうすぐ来る。デスクの上を片付けるかと思い腰を上げた。
片付けも終盤に差し掛かった頃、新井先生がやってきた。「おはよう、康二くん。昨日は遅くまでお疲れ様。」「あぁ、おはようございます。」自分の口から出た言葉の弱さにびっくりした。「大丈夫?顔色悪いわよ。今日は何コマ入ってるの?」「4つです。」「じゃあ代わってあげるから今日は帰って寝なさい。」「いや、でも…」「上司からの命令が聞けないの?」「すみません。お言葉に甘えさせてもらいます。」家に帰る支度をする。ひと休みしたら事務仕事でもしようと、パソコンに入っているデータをUSBに移し、資料をまとめてファイルに入れる。「急にできた休みなんだからしっかり休みなさい。奥さんと食事にでも行ったら?」「それもいいなー。でも、あいつも予定あるんじゃないかな。あ、これ、少し進めておきますね。」タクシーを呼ぶかと聞かれたが、そこまでしてもらうのは気がひけるので断った。「じゃあお疲れ様です。何かあったらすぐ呼んでください。」最後の試練だと自分にムチを打って、長い帰路へとついた。
インターホンを鳴らす。応答は無い。もう一度鳴らしてみる。やっぱり応答なし。どこかへ出かけたのだろうかと思い、カバンから家の鍵を取り出して玄関を開ける。靴がない。やはり出かけているようだった。荷物を自室に置き、すぐさまシャワーへと向かう。シャワーで睡魔が倒されてしまうのではないかという、ロクでもない心配をはねのけて、熱い湯を浴びる。疲れ切った体にしみる。ぱぱっと髪と身体を洗い、浴室から出て、コンビニで買ってきた軽食を食べ、すぐさま寝室へと入る。思っていたよりも疲れていたようでベッドに横たわると、すぐに眠ってしまった。
目が覚める。16時。かなり眠ってしまった。持って帰ってきた仕事を済ませておかないとと眼を覚ますために顔を洗う。水を飲もうとリビングに入る。沙奈はまだ帰っていないようだった。コップいっぱいに水を注ぎ、それをいっきに飲み干す。そういえば昨日からろくに水分もとっていなかったことに気づき、自分に注意を促した。自室に戻り、パソコンを起動させて仕事に取り掛かる。自分以外の誰もいない家。作業をするにはうってつけの状況だった。
とりあえず仕事にきりがついた。
時計を見ると20時半すぎを指していた。「4時間くらいか…。」あの量にしては早い方だった。「人間、やればできるもんだな。」なんてことを思っていると、空腹感が襲ってきた。夕食を食べようとリビングに降りる。誰もいない。まだ沙奈は帰ってきていないようだ。携帯を見ても沙奈からの連絡はない。それどころか昨晩送ったメールを見た様子もなかった。嫌な感じがしたが、沙奈も当然人から心配されるような年ではないので特に気にしないようにした。そのうち帰って来るだろうと気楽に考えていた。
テレビを見ながらゆっくりと夕食を食べる。
家での1人きりの食事なんて何年ぶりだろうか。たまにはこんな時もあってもいいか、なんてことを考えるが、心のどこかに引っかかるものがあった。時計を見ると21時40分。
「いくらなんでも遅くないか…」携帯を見る。連絡はない。嫌な感じが大きくなっていく。沙奈の行きそうなところを考える。連絡先がわかるのは実家くらいだが、余計な心配をかけるわけにもいかない。沙奈が仲良くさせてもらっている隣の三枝さんはどうか。いや、あの世話焼きさんのことだ、話が無駄に大きくなってしまうかもしれない。そもそも、引っ越してきた時に挨拶して以来、会話をした覚えがない。どうすることもできずにあたふたしているうちに時間だけが過ぎていく。時計は22時10分を告げる。「一旦落ち着かないと。」自分に言い聞かせる。椅子に座って冷静になろうとする。テレビが目に入った。「つけっぱなしだった、消さないと。」と主電源に手を伸ばした時、アナウンサーがあるニュースの原稿を読み始めた。
“次はA市で起こった奇妙な事件についてです。”
自分の住む街で起こった“奇妙な事件”
“1日午前、A市在住の沖田雄三さん34歳が自宅から忽然と姿を消しました。当初、警察は単なる家出として捜査していましたが、沖田さんは一人暮らしで近隣への書き込みでも特に家出をするような理由がないことから、現在は何かの事件に巻き込まれたものとして捜査をしているということです。職場関係者のはなしだと、沖田さんとは先月末から連絡が取れなくなったということです。”
これだ。
直感がそう告げた。
スピリチュアル的なことにまったく興味はないが、今回ばかりはどうしてもこの直感を信じて見たくなった。
警察に連絡しないと…
受話器を取った手は微かに震えていた。
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