鬼上司と秘密の同居

なの

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透さんの正体は………!

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空気が重く感じて何か話しないと…と思いながらも何も言葉にすることができず…部長から何を言われるのか…どうしたらいいのか不安になった頃、ログハウス風の建物が見えてきた。

「着いたぞ」
そう言われて外に出ると、店の前には花壇があって色とりどりの花が咲いていた。

「ほら…」
花に見とれてる俺に声をかけ、お店のドアを開けた。

「うわぁー」

そこはアンティークの家具が置かれオルゴールの優しい音色が響いていて、とても居心地良さそうな空間だった。

「いらっしゃいませ。おー透じゃないか久しぶりだな。どうした?」
そこには黒いベストにネイビーの蝶ネクタイをつけ口髭を貯えたダンディーな男性がいた。

「お久しぶりです…ゆっくり話ができる場所はここかな?って…」

「あぁ…そうなんだ。今日は空いててよかったな。あれ?初めまして…だよね?オーナーの里中です。」そう声をかけられ

「里中さん?…っ初めまして、小沢海斗です。よろしくお願いします」いつもの営業の癖で90度でお辞儀をすると…

「ぷ…っはっはっはっ…営業マン?お辞儀の仕方がさぁー透の後輩?何、仕事できたの?」と苦笑されてしまった。恥ずかしくなって俯いてると

「いやっ…プライベートです。とりあえず…奥の席空いてますか?」と言いながら俺の肩を抱いてくれた。

「は?プライベートって…?珍しいな。後で詳しく聞かせろよ。奥空いてるよ」

透さんに肩を抱かれたまま奥に進むとソファーとテーブルが置いてある席で周りからは見づらい場所があった。

「どうぞ」そう言ってレモン水とメニュー表を置いてってくれた。

「海斗は何食べたい?」

メニュー表は手書きのイラストでとても可愛かった。
〝おすすめ〟と書いてあるページには透さんが言っていたハンバーグが書いてあった。俺はその中のハンバーグランチにすることにした。カレーハンバーグセットも気になってると「カレー少し食べてみるか?」と声をかけてくれた。

ハンバーグランチとカレーハンバーグセットを頼んだ透さんはレモン水を一口飲んで、こう切り出した。
「これから話すことは他言無用で頼む。その代わり海斗の質問には全部答えるから…」そう切り出され姿勢を正すと「いやっ…リラックスして聞いて欲しい。そんな身構える話じゃないから…」

「まぁー俺の親父は…うちの会社の社長だ…」

「えっ…社長っ……」

「まぁ…そうだな…」

「でも名字が…」

「あぁ…名字が一緒だと面倒だから親父の籍を外れて母の祖父母の家に養子縁組をした。面倒だったが仕方がない。名字を変えた方がいいと話合った結果だ。まぁーこのことを知ってるのは上の人間だけだ」

「なんで?別に社長の息子なら…」

「社長の息子って言われるのが嫌だったんだ。他の企業にも行こうかと悩んだんだが、やっぱりいずれは跡を継ぐことになると思う…でもコネ入社なんて思われたくなくて実力で勝負した。普通に採用試験受けて、面接も受けた」


「社長の息子…なんだ…そうか…それで…」

「何、納得してるんだ?」

「社長の息子さんだからいいマンションに住んでて、車も…お金も持ってるんだ…」

「俺を幾つのガキだと思ってる。親の金でもなんでもない。大学の時にバイトのお金で投資の勉強をして貯めてマンションも車も買った。今も投資は続けてる…海斗1人くらい充分養える蓄えはあるから、金の心配はするな」

「えっ…と、そうなんだぁ…凄いですね。でも…俺も働いてるし…」

「まぁ…そうだな。でも内緒にする話でもないだろ、今の俺とお前の仲じゃ…」

「仲って…」思わず照れてしまい俯いてると

「お待たせいたしました。あと…秘密にしてるのは俺が会社の顧問弁護士をしてて透の叔父という事でしょうか…」
そう言ってオーナーの里中さんがサラダを持ってきていた。

「だから里中さん…えっでも弁護士さんって」

「社長の弟なんだよ。顧問弁護士ってもあんまり会社行かないから知らないよね。弁護士も夢だったんだけど、昔から喫茶店もやりたいと思っててね。ここは趣味のような店だから…だから毎日はやってないんだ。ハンバーグはもう少し待っててね」そう言って戻って行った。

「ここの野菜は無農薬でドレッシングも手作りでうまいんだ」

「いただきます」手を合わせてきゅうりを食べた。
「美味しい」すりおろした人参のドレッシングが甘みもあり、きゅうりとよく合っていた。サラダがなくなりそうな頃「お待たせ」と熱々の鉄板の上にハンバーグが乗ってやってきた。デミグラスの匂いがますます食欲をそそる。
「熱いから火傷しないでね」そう言われて、ナイフで小さめに切って「ふうふう」と息を吹きかけ口に入れるとふわふわなお肉とデミグラスのコクが合わさり、とても美味しい。「こんな美味しいハンバーグ初めてです」そう言って食べてると「カレーもうまいぞ」と小皿にカレーを入れてくれた。

ふと…思い出してしまった…
ああ…俺、あの日ハンバーグにしようとしてたんだっけ…材料、全部ベットに居た2人に投げつけて…きっとあの食材は全部ゴミ箱に入れられたんだよな…せっかく作ろうと思って買ったのに…
俺は情けなくなって膝の上で手を握りしめていた。

「海斗…海斗…」そう呼ばれハッとして顔を上げると正面にいた透さんが心配そうに俺を見つめていた。

「すみません…」

「いや…何か嫌なこと思い出させたか?」

「大丈夫です。食べましょ」そう言ったが透さんは…

「そんな辛そうな顔して大丈夫なんて言うな。言いたくないなら言わなくていい…ただ…海斗の辛さ俺にも分けてくれないか?それとも俺は…頼りないか?」

「いやいやいや…そんなことないです。ただ俺が惨めで、情けなくて…かっこ悪いだけですっ」

「海斗…」

「俺、あの日、ハンバーグ作ろうと思ったんです。久しぶりに残業なくて…雨、降りそうだから早歩きで帰って…残業してれば…あんな場面…見なかった。買ってきた食材、2人に投げつけて…材料、無駄にしてしまったのに…なのに…なのに俺は…透さんに助けてもらった。服もたくさん買ってもらって、こんなに美味しいお店に連れてきてもらった…なのに俺、透さんに何にも返せない。しかも、こんな時に心配させるような顔見せちゃってすみませんっごめんなさいっ」俺は居た堪れなくなって席を立ちそのまま走って店を出た。当てもなくただ走った。

「あーあー俺、社会人として失格だなっ」勢いで店を飛び出しちゃうなんて最低だっ情けなくて涙が溢れた。でも自分でもどうしていいかわからなかった。




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