バグった恋愛ルートは、君だけを選ぶ

なの

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最終話「王子様との初デートは、商店街です」

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俺の人生初の告白から、数日が過ぎた。
四畳半のボロアパートは、リオネルという名の王子様が住み着いたことで、すっかり「家」としての温かみを持ち始めていた。
俺のお古のスウェットを着ていても隠しきれないロイヤルなオーラを垂れ流しながら、リオネルは現代社会のあらゆるものに感動している。

「ユウマ、この『てれび』という箱からは、なぜ人が出てきて話しているんだ?魔法の鏡の一種なのか?」

「ユウマ、この『れいぞうこ』はすごいな!いつでも冷たいものが食べられるなんて、王宮の氷室より便利だ!」

その純粋すぎるリアクションに、俺の心臓は毎日過労気味だ。だが、その隣で笑う自分の顔が、今まで生きてきた中で一番穏やかな顔をしていることにも、気づいていた。

そんなある晴れた日のことだった。
大学の講義を終えて帰宅した俺に、リオネルはキラキラした瞳でこう切り出したのだ。

「ユウマ!君たちの世界でいう『でーと』というものをしてみたい!」

「ぶっ!?」

飲んでいた麦茶を盛大に噴き出した。で、でーと!?

「え、いや、デートって言っても……」

「恋人同士が、二人きりで街に出かける素敵な行事なのだろう?僕もユウマとそれを体験したいんだ」

「そりゃそうだけど……王子様を一体どこに連れて行けって言うんだよ!?」

俺の脳裏に、高級レストランや夜景の見えるバーなどが浮かぶが、そんな場所に行く金などあるはずもない。俺はしがない貧乏大学生だ。

結局、俺がリオネルを連れて行ったのは、活気だけが取り柄の、家の近所の「ふれあい中央商店街」だった。

「わぁ……!」

商店街に足を踏み入れた瞬間、リオネルは子供のようにはしゃぎ出した。
八百屋に並ぶ色とりどりの野菜、魚屋から漂う磯の香り、惣菜屋の威勢のいい呼び込み。そのすべてが、彼にとっては新鮮な驚きらしかった。

「ユウマ、見てくれ!この黄金色に輝く揚げ物は何だ!?とても良い匂いがする!」

リオネルが指さしたのは、肉屋の店先で揚げられている、一個80円のコロッケだった。
俺がポケットの小銭で二つ買うと、リオネルは熱々のコロッケを恐る恐る一口食べ、そして、目を真ん丸に見開いた。

「……おいしい!なんて温かくて、優しい味がするんだ!これが庶民の味か!」

「大袈裟だな……」

そんな俺たちの周りで、「ねえ、あそこの人、めちゃくちゃイケメンじゃない?」
「モデルさんかな?」
「でも、コロッケ食べてる……」と、ひそひそ声が聞こえ始める。まずい、目立ちすぎている。

焦る俺のポケットで、スマートフォンが震えた。画面には、見慣れた保護者たちの顔。

「ユウマさん、初デートが商店街とは、庶民的にもほどがありますわよ!」

ミリアの呆れた声に、俺は小声で反論する。

「しょうがねえだろ、金がないんだから!」

「いえ、殿下はとても楽しそうです。それに、コロッケの成分データ、興味深い……」

「レオン!殿下に変なものを食べさせないでくださいね!」

画面の向こうはいつも通り騒がしい。俺はため息をつき、通信をオフにした。

その後も、リオネルは「がちゃぽん」なるカプセル販売機に感動し、俺のなけなしの小銭で出てきた猫のキーホルダーを宝物のように握りしめたり、たい焼き屋の店主の職人技に「マエストロ(巨匠)だ!」と拍手を送ったりして、商店街の注目を一身に浴び続けた。

日が傾き始めた頃、俺たちは河川敷のベンチに並んで腰掛けた。
夕日に照らされたリオネルの横顔は、やっぱり現実離れしていて、綺麗だった。

「……楽しかったな」

ぽつりと、リオネルが呟いた。

「初めて見るものばかりだった。驚きの連続だったよ。でも……」

彼は、俺の手をそっと握った。

「一番嬉しかったのは、僕の隣で、ユウマがずっと笑ってくれていたことだ」

その真っ直ぐな言葉に、胸が熱くなる。
ああ、そうか。場所なんて、関係ないんだ。この人が隣にいてくれる。ただそれだけで、見慣れたはずの日常が、こんなにも輝いて見える。

アパートに帰ると、二人で買ってきたコロッケの残りを温めて食べた。

「ただいま」
「おかえり、ユウマ」

ごくごく普通の、恋人たちのやりとり。それが、たまらなく愛おしくて、くすぐったい。

バグから始まった俺の恋は、世界の境界線を越え、今、この四畳半の部屋で確かな愛として育まれている。
隣には天然で甘すぎる王子様。スマホの向こうには騒がしい仲間たち。
モブだった俺の灰色の日常は、もうどこにもない。

――この甘くてコミカルな恋物語は、これからも続いていく。この、愛しい人の隣で。


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