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第十四章:因果応報
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結婚式でのアレクシスの爆弾発言は、アルビオン王国に巨大な波紋を呼び起こした。
エリアスの過去と、彼が受けた非道な裏切りの真実が白日の下に晒された今、彼を奈落の底に突き落とした者たちへの静かで、しかし容赦のない報いが始まろうとしていた。
式の直後、アレクシスは凍りついたように立ち尽くすジークフリート王子とオリヴァーを、笑顔で別室へと招いた。
「王子、そしてアシュフォード子息。
遠路はるばる、我々のためにご足労いただき、心から感謝申し上げる」
表面上は完璧に礼儀正しい挨拶だった。
しかし、その言葉とは裏腹に、アレクシスの銀灰色の瞳には、絶対零度の氷のような冷たさが宿っていた。
「公爵、先ほどの発言は一体どういうおつもりか……!」
ジークフリートが震える声で詰問するが、アレクシスは優雅に肩をすくめるだけだった。
「何か聞き捨てならないことでもありましたか?
私はただ、愛する伴侶の数奇な運命と、我々二人がいかにして結ばれたかという真実を述べたまで……。
問題でもございましたか?」
ジークフリートは言葉に詰まった。
エリアスを陥れ、無実の罪を着せて追放したのは、紛れもない事実だったからだ。その隣で、オリヴァーは恐怖のあまり唇をわなわなと震わせ、一言も発することができない。
「今後、ルミナス王国とアルビオン王国の関係については、じっくりと、そして根本から話し合う必要がありそうです。
我が伴侶の『恵みの魔法』という、計り知れない価値を持つカードを、どちらが有効に活用できるか……。も含めて」
アレクシスの言葉には、もはや隠す気もない明確な脅しが込められていた。
ジークフリートは、自分がチェス盤の上で完全に詰まされていることを悟り、絶望に顔を歪めた。
まず最初に、ラティス公爵家に激震が走った。
息子を勘当し、その力を軽んじたことで、今や最も重要な隣国との関係が悪化し、国家間の問題にまで発展する可能性が生まれたのだ。
「父上、どうなさるおつもりですか!このままでは、ラティス家は……!」
長男ベルトランの悲鳴に近い声に、ラティス公爵は怒りを爆発させた。
「黙れ!そもそもお前たちが、あの時エリアスを庇わなかったからこうなったのだ!」
責任を転嫁し、息子を怒鳴りつけたが、もはや手遅れだった。
結婚式の翌日、レイヴン公爵家からの公式な通告が、ラティス公爵家に冷たく突きつけられた。
『今後、レイヴン公爵家及び、その影響下にある全ての商会、ギルドは、ラティス公爵家との一切の商取引を無期限に停止する』
この一方的な通告は、ルミナス王国だけでなく、大陸中の貴族や商人たちにも絶大な影響を与えた。
氷血公爵の意向に逆らうことを恐れた彼らは、雪崩を打ったように次々とラティス家との取引を停止していった。
「父上、小麦の買い手がどこにも見つかりません!」
「我が家の特産であるワインも、全ての輸出販路を断たれました!」
領地からの悲痛な報告を聞くたびに、公爵の顔は土気色になっていった。
さらに追い打ちをかけるように、アレクシスの差し金で、アルビオン王国内の他の有力貴族たちもラティス家を見限り始めた。
彼らは、王国の恥を晒したラティス家と関わることで、自らに火の粉が降りかかることを恐れたのだ。
「このままでは、領民たちが飢えてしまう……!」
ついに、ラティス公爵は領地の一部を売却せざるを得なくなった。
先祖代々受け継いできた美しい森や、肥沃な農地が、二束三文でハイエナのような商人たちに買い叩かれていく。
「エリアス……エリアスさえ、家にいてくれれば……」
公爵は何度も後悔の言葉を口にしたが、もう取り返しはつかなかった。
結局、ラティス家は爵位こそ保ったものの、その財産と権威のほとんどを失い、見る影もなく没落していった。
そして、エリアスの心を最も深く傷つけた裏切り者、オリヴァーにもまた、相応の報いが訪れた。
親友を裏切り、その愛と信頼を踏みにじったという事実が明るみに出ると、彼は社交界から完全に排斥されたのだ。
「あの男、親友を陥れて恋人の座を奪おうとしたんですって。なんて卑劣なのかしら」
「美しい顔をしているけれど、心は蛇のように醜いのね」
かつて彼を「社交界の華」と持ち上げていた貴婦人たちは、手のひらを返したように冷たい視線を向け、あからさまに彼を避けるようになった。
「オリヴァー様、マリアンヌ様からのお茶会は、急なご病気とのことで延期に……」
「ヴィクトル様も、今後はご一緒できないとのお言葉が……」
次々とキャンセルされる招待。向けられる侮蔑の視線。そして、背後で囁かれる悪意に満ちた陰口。
完全に孤立したオリヴァーは、精神の均衡を失い始めた。
「僕は……僕はただ、エリアスが持っているものすべてが欲しかっただけなんだ……彼のように愛され、注目されたかっただけなのに……!」
自室に閉じこもり、泣き叫ぶ彼の姿には、かつての輝きは微塵も残っていなかった。
結局、見かねた彼の父親によって、オリヴァーは人里離れた田舎の領地へと送られ、そこで静かに余生を送ることを余儀なくされた。
二度と華やかな社交界に戻ることは許されず、彼の名は人々の記憶から忘れ去られていった。
最後に、この悲劇の元凶であるジークフリート王子にも、最大の制裁が下された。
アレクシスは、ジークフリートが犯した不正と裏切りの詳細を、確固たる証拠と共に各国へ通達したのだ。
『アルビオン王国、第二王子ジークフリートは、政略の番契約を利用して相手の特殊能力を奪おうと画策し、事が露見することを恐れて無実のΩに不貞の濡れ衣を着せ、追放した。これは国家間の信頼を著しく損なう、断じて許されざる背信行為である』
この情報は、外交ルートを通じて各国の王室に瞬く間に伝わった。
ジークフリートの評判は地に落ち、彼は「卑劣な嘘つき王子」として、国際的な信用を完全に失った。
「殿下、もはや王子としての威信は失墜いたしました……」
側近の報告に、ジークフリートは怒りのあまり玉座の肘掛けを叩き割った。
「黙れ、黙れ、黙れ!」
しかし、どれだけ怒りをぶつけても、失われた現実は変わらない。
各国からの外交的孤立は深刻化し、アルビオン王国全体の国益にも多大な損害を与え始めていた。
「殿下、近隣諸国との婚姻話は、すべて破談となりました」
「重要な貿易協定の更新も、各国から拒否されております」
失った信頼は、二度と取り戻すことはできなかった。
ジークフリートは王太子としての地位を兄に譲ることを余儀なくされ、政治の表舞台から完全に姿を消した。
彼は、自分が犯した一つの過ちが、自らの人生と王国の未来までも狂わせたことを、失意の底でようやく理解したのだった。
――因果応報。
悪事を働いた者たちには、それぞれに相応しい結末が訪れた。
それは憎しみによる復讐ではなく、彼ら自身の行いが招いた、必然的な結果だった。
一方、エリアスとアレクシスの結婚は、各国から心からの祝福を受けた。
「恵みの聖人」と、公正にして最強の「氷血公爵」
真実の愛で結ばれた二人の絆は、どんな困難にも揺るがず、より一層強固になっていった。
エリアスの過去と、彼が受けた非道な裏切りの真実が白日の下に晒された今、彼を奈落の底に突き落とした者たちへの静かで、しかし容赦のない報いが始まろうとしていた。
式の直後、アレクシスは凍りついたように立ち尽くすジークフリート王子とオリヴァーを、笑顔で別室へと招いた。
「王子、そしてアシュフォード子息。
遠路はるばる、我々のためにご足労いただき、心から感謝申し上げる」
表面上は完璧に礼儀正しい挨拶だった。
しかし、その言葉とは裏腹に、アレクシスの銀灰色の瞳には、絶対零度の氷のような冷たさが宿っていた。
「公爵、先ほどの発言は一体どういうおつもりか……!」
ジークフリートが震える声で詰問するが、アレクシスは優雅に肩をすくめるだけだった。
「何か聞き捨てならないことでもありましたか?
私はただ、愛する伴侶の数奇な運命と、我々二人がいかにして結ばれたかという真実を述べたまで……。
問題でもございましたか?」
ジークフリートは言葉に詰まった。
エリアスを陥れ、無実の罪を着せて追放したのは、紛れもない事実だったからだ。その隣で、オリヴァーは恐怖のあまり唇をわなわなと震わせ、一言も発することができない。
「今後、ルミナス王国とアルビオン王国の関係については、じっくりと、そして根本から話し合う必要がありそうです。
我が伴侶の『恵みの魔法』という、計り知れない価値を持つカードを、どちらが有効に活用できるか……。も含めて」
アレクシスの言葉には、もはや隠す気もない明確な脅しが込められていた。
ジークフリートは、自分がチェス盤の上で完全に詰まされていることを悟り、絶望に顔を歪めた。
まず最初に、ラティス公爵家に激震が走った。
息子を勘当し、その力を軽んじたことで、今や最も重要な隣国との関係が悪化し、国家間の問題にまで発展する可能性が生まれたのだ。
「父上、どうなさるおつもりですか!このままでは、ラティス家は……!」
長男ベルトランの悲鳴に近い声に、ラティス公爵は怒りを爆発させた。
「黙れ!そもそもお前たちが、あの時エリアスを庇わなかったからこうなったのだ!」
責任を転嫁し、息子を怒鳴りつけたが、もはや手遅れだった。
結婚式の翌日、レイヴン公爵家からの公式な通告が、ラティス公爵家に冷たく突きつけられた。
『今後、レイヴン公爵家及び、その影響下にある全ての商会、ギルドは、ラティス公爵家との一切の商取引を無期限に停止する』
この一方的な通告は、ルミナス王国だけでなく、大陸中の貴族や商人たちにも絶大な影響を与えた。
氷血公爵の意向に逆らうことを恐れた彼らは、雪崩を打ったように次々とラティス家との取引を停止していった。
「父上、小麦の買い手がどこにも見つかりません!」
「我が家の特産であるワインも、全ての輸出販路を断たれました!」
領地からの悲痛な報告を聞くたびに、公爵の顔は土気色になっていった。
さらに追い打ちをかけるように、アレクシスの差し金で、アルビオン王国内の他の有力貴族たちもラティス家を見限り始めた。
彼らは、王国の恥を晒したラティス家と関わることで、自らに火の粉が降りかかることを恐れたのだ。
「このままでは、領民たちが飢えてしまう……!」
ついに、ラティス公爵は領地の一部を売却せざるを得なくなった。
先祖代々受け継いできた美しい森や、肥沃な農地が、二束三文でハイエナのような商人たちに買い叩かれていく。
「エリアス……エリアスさえ、家にいてくれれば……」
公爵は何度も後悔の言葉を口にしたが、もう取り返しはつかなかった。
結局、ラティス家は爵位こそ保ったものの、その財産と権威のほとんどを失い、見る影もなく没落していった。
そして、エリアスの心を最も深く傷つけた裏切り者、オリヴァーにもまた、相応の報いが訪れた。
親友を裏切り、その愛と信頼を踏みにじったという事実が明るみに出ると、彼は社交界から完全に排斥されたのだ。
「あの男、親友を陥れて恋人の座を奪おうとしたんですって。なんて卑劣なのかしら」
「美しい顔をしているけれど、心は蛇のように醜いのね」
かつて彼を「社交界の華」と持ち上げていた貴婦人たちは、手のひらを返したように冷たい視線を向け、あからさまに彼を避けるようになった。
「オリヴァー様、マリアンヌ様からのお茶会は、急なご病気とのことで延期に……」
「ヴィクトル様も、今後はご一緒できないとのお言葉が……」
次々とキャンセルされる招待。向けられる侮蔑の視線。そして、背後で囁かれる悪意に満ちた陰口。
完全に孤立したオリヴァーは、精神の均衡を失い始めた。
「僕は……僕はただ、エリアスが持っているものすべてが欲しかっただけなんだ……彼のように愛され、注目されたかっただけなのに……!」
自室に閉じこもり、泣き叫ぶ彼の姿には、かつての輝きは微塵も残っていなかった。
結局、見かねた彼の父親によって、オリヴァーは人里離れた田舎の領地へと送られ、そこで静かに余生を送ることを余儀なくされた。
二度と華やかな社交界に戻ることは許されず、彼の名は人々の記憶から忘れ去られていった。
最後に、この悲劇の元凶であるジークフリート王子にも、最大の制裁が下された。
アレクシスは、ジークフリートが犯した不正と裏切りの詳細を、確固たる証拠と共に各国へ通達したのだ。
『アルビオン王国、第二王子ジークフリートは、政略の番契約を利用して相手の特殊能力を奪おうと画策し、事が露見することを恐れて無実のΩに不貞の濡れ衣を着せ、追放した。これは国家間の信頼を著しく損なう、断じて許されざる背信行為である』
この情報は、外交ルートを通じて各国の王室に瞬く間に伝わった。
ジークフリートの評判は地に落ち、彼は「卑劣な嘘つき王子」として、国際的な信用を完全に失った。
「殿下、もはや王子としての威信は失墜いたしました……」
側近の報告に、ジークフリートは怒りのあまり玉座の肘掛けを叩き割った。
「黙れ、黙れ、黙れ!」
しかし、どれだけ怒りをぶつけても、失われた現実は変わらない。
各国からの外交的孤立は深刻化し、アルビオン王国全体の国益にも多大な損害を与え始めていた。
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ジークフリートは王太子としての地位を兄に譲ることを余儀なくされ、政治の表舞台から完全に姿を消した。
彼は、自分が犯した一つの過ちが、自らの人生と王国の未来までも狂わせたことを、失意の底でようやく理解したのだった。
――因果応報。
悪事を働いた者たちには、それぞれに相応しい結末が訪れた。
それは憎しみによる復讐ではなく、彼ら自身の行いが招いた、必然的な結果だった。
一方、エリアスとアレクシスの結婚は、各国から心からの祝福を受けた。
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