婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~

なの

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第十六章:新たな始まり

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アレクシスとエリアスの結婚生活は、穏やかで幸福な光に満ちていた。

季節は巡り、かつて荒れ果てていた屋敷の庭園は、今や大陸一と謳われるほどの美しさを誇っている。
春の柔らかな陽光が庭園を優しく照らし、エリアスが心血を注いだ花々が、生命の喜びに満ちて色鮮やかに咲き誇っていた。

「今日も、この庭はお前のように美しいな」

アレクシスは書斎の窓辺に立ち、庭で花の手入れをする愛しい伴侶の姿に目を細めていた。
白いシャツに身を包んだエリアスが、薔薇のアーチの下で微笑む姿。彼の一挙手一投足を見つめるアレクシスの瞳には、もはや「氷血公爵」と呼ばれた頃の冷たさはなく、ただ深く蕩けるような愛情だけが宿っていた。
その姿を見ているだけで、胸の奥が温かいもので満たされていく。

執務を中断し、アレクシスは吸い寄せられるように書斎を出て、庭へと向かった。音もなくエリアスの背後に近づき、その華奢な体を後ろから優しく抱きしめる。驚いて振り返ろうとするエリアスの耳元に、彼は愛を込めて囁いた。

「お前の姿を見つめているのが、俺にとって一番の幸福な時間だ」

彼の逞しい腕がエリアスの腰をしっかりと包み込む。その温かさと、背中に感じる力強い心臓の鼓動に、エリアスの心もまた、安らぎと喜びに満たされて静かに高鳴った。

「アレクシス……」

エリアスは彼の腕の中で、安心しきった表情を浮かべた。彼の広い胸に背中を預け、その安定した鼓動に耳を澄ませる。この腕の中こそが、彼が幾多の苦難の果てに手に入れた、世界で一番安全な場所だった。

「お前がいない人生など、もう考えられん。一日たりともだ」

アレクシスはエリアスの柔らかな髪に顔を埋め、その陽だまりのような香りを深く吸い込んだ。彼の存在そのものが、アレクシスの生きる意味となっていた。

「今日は何をするんだ?」

「午後から、街の孤児院を訪問する約束をしています。子供たちが、僕の魔法で咲かせたお花畑が見たいと、手紙をくれたんです」

「そうか。ならば、俺も一緒に行こう」

「えっ?ですが、アレクシスは今日も執務が山積みだと伺いました。僕のことはお気になさらず……」

「お前の方が大切だ」

アレクシスの即答に、エリアスは驚いて振り返った。彼の真剣な眼差しに、冗談の気配は微塵もない。

「国務など後回しで構わん。俺の番の慈善活動に同行し、その安全を守るのも、公爵としての最優先事項だ」

彼の言葉は、表面上は公務を装っているが本当は、一瞬でも長く愛する伴侶のそばにいたいという、純粋で独占欲に満ちた気持ちからだった。
その不器用な愛情表現に、エリアスは思わず笑みをこぼした。

「ありがとうございますアレクシス。あなたと一緒なら、とても心強いです」

そう言った彼の頬には、幸せそうな紅潮が差していた。二人の間に、もはやかつての主従関係はない。
対等な魂の伴侶として、深く、そして強く愛し合っていた。

午後の日差しが暖かく降り注ぐ中、二人は孤児院を訪れた。エリアスが子供たちの前で「恵みの魔法」を使うと、何もない地面から色とりどりの小さな花が一斉に芽吹き、咲き誇った。子供たちは目を輝かせ、大きな歓声を上げる。

「わあ、きれい!」
「エリアス様、すごい!まるで魔法使いだ!」

その光景を、少し離れた場所から見つめるアレクシスの表情は、普段の冷静沈着な姿とは程遠い、慈愛に満ちたものだった。
彼は、エリアスが子供たちに見せる天使のような微笑みから、一瞬たりとも目を離すことができない。

「公爵様も、噂とは違って、とてもお優しい方なのですね」

孤児院の院長が、子供たちの輪に入り、ぎこちなくも優しく頭を撫でるアレクシスの姿を見て、感嘆の声を漏らした。

「ええ。彼は、世界で一番優しくて、素敵な僕の自慢の夫です」

エリアスが誇らしげにそう答えるのを耳にしたアレクシスの頬が、わずかに赤く染まった。

帰り道の馬車の中で、アレクシスはそっとエリアスの手を取った。

「お前が純粋な笑顔を向ける相手が、子供たちでさえも妬ましく思う時がある。俺は心が狭い男だな」

「ふふ、そんなことはありません。あなたが僕を大切に想ってくれている証拠ですから、嬉しいですよ」

「お前といると、俺の中の氷が溶けて、ただの男に戻れる気がするんだ」

「あなたは元々、誰よりも優しい方です。
ただ、その優しさを守るために、たくさんの鎧を身に着けていただけ」

「……それもすべて、お前のおかげだ。お前が、俺の心を救ってくれた」

彼はエリアスの手の甲に、敬虔な祈りを捧げるかのように、優しく唇を寄せた。

エリアスは公爵の伴侶として、最初は出自を訝しむ者もいた社交界でも、今や完全に受け入れられていた。彼の生まれ持った気品と優しさ、そして「恵みの聖人」としての数々の慈善活動は、多くの貴族たちの心を動かし、深い尊敬を集めるに至っていた。

しかし、アレクシスのエリアスに対する溺愛ぶりは、時として周囲を驚愕させることもあった。

ある華やかな夜会の席で、他国の若い貴族がエリアスの美しさに惹かれ、話しかけようとした時のことだった。

「レイヴン公爵妃、あなた様の美しさは、まるで夜空に輝く月のようで……」

その青年がエリアスに近づき、その手に触れようとした、まさにその瞬間。
アレクシスが音もなく二人の間に割って入り、その手を阻んだ。

「我が番に、何か御用かな?」

その声は穏やかだったが、瞳の奥には絶対零度の殺気が宿っていた。
圧倒的なαの威圧感に当てられ、青年は悲鳴も上げられずに真っ青になって後ずさり、慌てて人混みの中へと逃げていった。

「アレクシス、あまり露骨だと、皆があなたを怖がってしまいますよ」

エリアスが困ったように、しかしどこか嬉しそうに言うと、アレクシスは不機嫌そうに答えた。

「俺以外の男がお前に近づくこと自体、許し難い。たとえ視線を向けるだけでもだ」

その激しい嫉妬深さに、エリアスは愛おしさが込み上げ、苦笑いを浮かべるしかなかった。

夜、二人きりの寝室に戻ると、アレクシスの独占欲と溺愛ぶりは、さらに顕著になった。

「今日も一日、お疲れ様、エリアス」

エリアスが鏡の前で髪を梳かしていると、アレクシスが背後から彼を優しく抱きしめた。

「俺がやろう」

彼はエリアスの手から柘植の櫛を取り、その絹のように滑らかな髪を、宝物を扱うかのように丁寧に、そしてゆっくりと梳き始める。その手つきは驚くほど優しく、慣れたものだった。

「アレクシスが、僕の髪を梳いてくれるなんて……」

「お前のためなら、俺はなんだってする。皇帝にだって、神にだってなってやろう」

彼の言葉に、嘘や誇張は一切なかった。
公爵としての威厳も、αとしてのプライドも、この腕の中にいる愛しいΩの前では何の意味も持たない。

「お前は俺の魂そのものだ。この世の何物にも代えがたい、俺だけの宝だ。何があっても、絶対に手放さない」

アレクシスは彼の髪に顔を埋め、その甘い香りを恍惚として吸い込んだ。

「僕も……僕も、アレクシスを心から愛しています」

エリアスの愛の告白に、彼の腕に一層力がこもる。

「毎日、お前を愛しているという実感が強くなっていく。これ以上人を愛せるのかと思うほどに、俺の心はお前で満たされる。
エリアス、心から愛してる……」

月光が窓から銀色の光の帯となって差し込み、寄り添う二人を優しく照らしていた。アレクシスの底なしの溺愛と、エリアスの深く静かな愛情に包まれた夜が、甘く、そして静かに更けていく。

かつて絶望の淵で出会った二つの魂は、今や分かちがたく結びつき、互いを照らし合う太陽と月となった。その愛に包まれた幸せな日々は、これからも永遠に、輝きを失うことなく続いていくのだった。


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