スパダリCEOの甘々囲い込み

なの

文字の大きさ
22 / 23

第21話:世界でいちばん幸せな産声

財津グループが誇る最新鋭のクリニック。その最上階にある、ホテルのスイートルームと見紛うほどの豪華な分娩室に、恵介の苦しげな呼吸音だけが響いていた。

「……っ、はぁ……っ、はぁ……っ!」

定期的に襲ってくる、身を裂くような痛み。恵介はベッドのシーツを固く握りしめ、必死にそれに耐えていた。

「恵介!しっかりしろ!俺がここにいる!」

隼人は、恵介の隣で、その汗で濡れた手を固く握りしめていた。
その顔は、普段の冷静沈着さが嘘のように、不安と心配で歪んでいる。完璧だったはずの「オペレーションXデー」も、愛する番の苦しむ姿を前に、彼の頭からは完全に抜け落ちていた。

「そうだ、呼吸をしろ!吸って、吐いて……!俺に合わせて!」
「む、りですっ、そんな、冷静に……っ!」
「そうか!なら俺が代わりに産む!どうすればいい!?」
「できるわけないでしょう!」

痛みの中、思わずツッコミを入れてしまう。あまりにもトンチンカンな狼狽ぶりに、一瞬だけ痛みが和らいだ気がした。

そんな二人の横で、陽は与えられた「最も重要な任務」を、忠実に、そして健気に果たしていた。

「ママ、がんばって……!がんばって!」

陽は恵介のもう片方の手を小さな両手で包み込み、涙をいっぱいに溜めた瞳で必死に母を励まし続けている。その姿は、どんな特撮ヒーローよりも、頼もしく輝いて見えた。

数時間に及ぶ死闘の末、ついにその瞬間が訪れた。
医師の力強い声が、部屋に響く。

「財津さん、もうすぐですよ!次が最後です、いきんで!」

「―――っ!!!!」
恵介はありったけの力を振り絞った。隼人と陽の手を、今にも握り潰さんばかりに強く握りしめる。

そして―――

「オギャー!オギャー!オギャー!」

力強く、生命力に満ち溢れた産声が、部屋中に響き渡った。

その瞬間、あれほど恵介を苛んでいた痛みが、嘘のようにすうっと引いていく。

「おめでとうございます!元気な、元気な男の子ですよ!」
助産師が、綺麗に体を拭かれた小さな赤ちゃんを、恵介の胸元へそっと運んでくる。

「……あ」
初めて見る我が子の顔。

ふにゃふにゃで、しわくちゃで、まだ目も開いていない。けれど紛れもなく、自分と、愛する隼人との子。
恵介は震える手で、その柔らかな頬にそっと触れた。

温かい、生きている。
その事実が、どうしようもないほどの感動となって胸いっぱいに広がった。

涙が後から後から、止めどなく溢れてくる。
ふと隣を見ると、隼人がその大きな体で声を殺して泣いていた。
α界の頂点に君臨する男が、まるで子どものようにしゃくりあげて。

「……恵介……ありがとうっ!よく、頑張った……!ありがとう!」
隼人は恵介の髪を、その額を何度も何度も優しく撫で、感謝の言葉を繰り返す。

そして、小さなヒーローもまた、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしていた。

「ママ……っ、あかちゃん……!」

「陽。ありがとうね。ずっと手を握っててくれて、心強かったよ」
恵介がそう言うと、陽はしゃくりあげながらも誇らしげに胸を張った。

「……弟、だぞ。お前の」
隼人が涙で濡れた声で陽に言う。
陽はおそるおそる、ベッドに横たわる小さな弟の顔を覗き込み、そして小さな指でそっとその手に触れる。

すると赤ちゃんが、きゅっ、と陽の指を握り返した。

「わっ……!」
陽の顔が驚きと喜びでぱあっと輝いた。

世界でいちばん、幸せな産声。
世界でいちばん、美しい涙。

かつて、孤独の淵でたった一人で陽を産んだ日。あの日の絶望が、今、この輝くような幸福で、完全に上書きされていく。

隼人は泣き濡れた顔のまま恵介に深いキスを落とした。

「愛してる、恵介」
「俺も……愛してます、隼人さん」

新しい家族の誕生。
腕の中にある、二つの、かけがえのない宝物。

神崎恵介改め、財津恵介の、世界でいちばん甘くて温かい物語は、これからも、ずっと続いていくだろう。


【完】


お読みいただきありがとうございました。





感想 2

あなたにおすすめの小説

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。