【完結】捨てられ兎アルヴァは、黒狼王の運命の番でした ~無能な僕が、最強の獣人に溺愛されるまで~

なの

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魂の刻印

僕が「君を守る」と誓った夜。
カイエンは、王の仮面を完全に脱ぎ捨て、僕の胸の中で、子供のように静かに涙を流した。

永い、永い間、たった一人で耐えてきた孤独と苦痛が、ようやく解放されたかのような、安堵の涙。
僕は、そんな彼の黒髪を、夜が明けるまで、ただ優しく撫で続けた。

その日を境に、僕たちの関係は劇的に変わった。
カイエンは、もう僕に高価なものをやみくもに与えたりはしない。代わりに、僕が庭で育てたハーブで淹れたお茶を「これが一番美味い」と言って毎日飲み、僕が厨房で教わって作った、少し形が不揃いな焼き菓子を「お前の作ったものは、何でも美味い」と嬉しそうに食べてくれた。

僕もまた、彼を恐れることはなくなった。
彼の隣にいることが、僕にとっての自然な居場所になった。彼が僕に向ける、熱を帯びた黄金の瞳も、もう怖くはない。それは、僕という存在を、心の底から愛おしいと思ってくれている証なのだと、素直に受け止められるようになっていた。

そんな、穏やかな日々が続いていた、月の美しい夜だった。カイエンは、僕を連れて城の最上階にあるバルコニーへと向かった。

冷たく澄んだ空気が、心地よい。眼下には、雪と氷に覆われた、彼の治める広大な領地が広がっていた。
背後から僕を抱きしめるようにして立ったカイエンが、僕の耳元で囁いた。

「アルヴァ……今夜、お前と俺の魂を、永遠に結びつけたい。誰にも、何者にも引き裂くことのできない、絶対的な証を刻みたい」

「絶対的な……証?」

僕は、彼の腕の中で振り返った。その黄金の瞳には、いつものような独占欲や熱だけでなく、どこまでも真摯で、神聖な光が宿っていた。

「番同士が交わす、魂の契約『番の刻印』だ」

「……!」

息を呑む僕に、カイエンは続けた。

「以前のお前になら、無理強いはできなかっただろう。だが、今のお前なら、受け入れてくれると信じている」

彼の言葉の通りだった。今の僕は、彼と、もっと深く、もっと強く、繋がりたいと願っていた。

「うん……僕も、君との証がほしい」

僕が頷くと、カイエンは心から嬉しそうに微笑み、僕を軽々と抱き上げた。
彼が向かったのは、城から少し離れた場所にある、凍てついた湖のほとり。月光が湖面の氷に反射して、あたりは幻想的な青白い光に満ちている。

「ここは、俺たちの一族が、古くから神聖な儀式を行ってきた場所だ」

カイエンは僕を優しく地面に降ろすと、僕の前に跪いた。
王である彼が、僕に対して跪いている。その事実に、心臓が大きく鳴った。

「アルヴァ。これは、俺がお前のものであり、お前が俺のものであるという、祝福の儀式だ」

彼の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
黄金の瞳が間近に迫り、僕はその引力に抗うことができない。
やがて、彼の唇が、僕の首筋にそっと触れた。

そして……

「んっ……!」

チクリ、とした鋭い痛みが首筋に走った。カイエンの牙が、僕の柔らかな皮膚を貫いたのだ。
痛いはずなのに不思議と恐怖はなかった。むしろ牙が突き立てられた場所から彼の灼熱の魔力が、僕の身体の中へと直接流れ込んでくるのがわかった。

「ぁ……、カイエ……ン」

熱い。身体中が、彼の力で満たされていく。僕の血と、彼の魔力が混ざり合い、新しい何かが生まれていくような感覚。同時に、僕の【癒やしの波動】も、今まで感じたことのないほど増幅され、カイエンの身体へと流れ込んでいった。

僕の背中は灼けるような熱が走った。まるで、熱した鉄印を押し付けられたかのような痛みと快感が、同時に背骨を駆け上がった。

「あああああっ!!」

どれくらいの時間が経ったのか……
カイエンがゆっくりと牙を抜くと、僕は立っていることもできず、彼の腕の中に崩れ落ちた。
息は上がり、全身が汗で濡れている。身体の奥が、まだじんじんと痺れていた。
カイエンは、そんな僕を愛おしげに抱きしめ、僕の背中に回した手で、そっと何かに触れた。

「見ろ、アルヴァ」

彼の視線の先を追って、僕も自分の背中に手を伸ばした。肩甲骨のあたり。先ほど、灼けるような熱を感じた場所に、何か滑らかな紋様が浮かび上がっているのが、指先でわかった。

「これが『番の証』俺の魂の紋章だ。黒狼の印がお前の背に刻まれた」

「……」

「そして、俺の胸にも」

カイエンは、自らのシャツの胸元を寛げた。
彼の鍛え上げられた胸の中央。そこには、僕の種族である、雪兎をかたどった可愛らしい紋様が、白く輝いて浮かび上がっていた。

「お前の魂が、俺に刻まれた証だ」

僕の背中には彼の印が、彼の胸には僕の印が。
もう、誰が見てもわかる。僕たちが、互いの所有物であり、唯一無二の番であることを示す、消えることのない証。

「これで、もうお前は俺から離れられない。離れさせない」

カイエンは、恍惚とした表情で僕のうなじに残った牙の跡を、舌でそっとなぞった。

「んぅっ……!」

さっきよりもずっと甘く、痺れるような快感が走り、僕は思わず声を上げた。

「これからは、離れていても互いの感情がわかる。居場所もわかる。お前が悲しめば俺も痛み、お前が喜べば俺も満たされる」

「……」

「お前はもう、独りじゃない。永遠にだ」

その言葉は、絶対的な呪縛でありながら、世界で一番甘い福音のように聞こえた。
僕は、この強く恐ろしく、そして誰よりも執着心の強い王に魂ごと捕らえられてしまったのだ。
そして、その事実が、たまらなく嬉しいと感じている自分に、気づいていた。

月明かりの下、僕たちはどちらからともなく、深く、長く、口づけを交わした。
それは、僕たちの魂が、本当の意味で一つになった、祝福のキスだった。


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