僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの

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準備

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しばらく抱きしめていたが卓也がいることを思い出した。なんとなく離れがたかったがそっと手を離して部屋を見てみると壁に背を預けて腕を組んでる卓也が見えた。
「もういい?」

「あぁ…悪い」

「奈月くん、こんばんわ俺はね、この的場の秘書をしている上原って言います。よろしくね」

「はい。お願いします」
そう言って卓也にも笑顔で挨拶をする奈月くんが可愛いかった。でも卓也にまで笑顔を見せることはないのにと思ってしまう心の狭い自分もいる。

「おぉ樹、帰ってきたのか」

「相原先生、先ほど帰ってきました」

「そうか、ちょうどいい。話があるんだが」
きっと奈月くんの退院の話だろう。確かに少しずつだが回復してきている。これ以上病院には入院はできないのだろう。

「奈月くんはまだご飯は食べる量は少ないけど、怪我も頭の方も回復してきたから、そろそろ退院してもいいと思っているけどどうかな?」

「退院ですか?」

「そう。退院してからも通院は必要だけど、病院にいる必要はないんだよ」

「そうですか…」
だんだん顔がこわばり俯いてきた。もしかして奈月くんは俺の家に来ることが嫌なのか?1人で暮らしたいのか?

「奈月くん?」

「わかりました。退院します。あの…入院してたお金はいくらですか?そんなにないけど、もう少しでお給料も入るので…」

「奈月くん?覚えてないか?俺が入院費を出す。退院したら俺の家で暮らすって言ったこと」
俺がそう言うと思い出したのか、顔を上げて俺と目が合った。

「いいんですか?」

「いいから言ったんだ。嫌だったら最初からそんな提案はしないよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ退院したら樹の家に行くことでいいね」

「はい。でも本当に…」

「いいんだよ。相原先生、奈月くんの退院は?」

「明日もう一度検査して大丈夫なら明後日退院だね」

「わかりました。よろしくお願いします。奈月くん、また明日来るからね」

「わかりました。待ってます」
奈月くんの病室を出て実家に帰ることにした。母さんとお手伝いさん方に説明をするために。

「ただいま」

「樹坊ちゃんおかえりなさいませ」

「ハルさん、坊ちゃんっていう歳じゃないから」

「すみません。つい癖で…お夕飯は?」

「いただこうかな。母さんは?」

「リビングにいらっしゃいますよ」

「ありがとう」
とりあえず自分の荷物を置いて、着替えてからリビングに向かった。

「母さん、色々と申し訳なかったね」

「大丈夫よ。ところで奈月くんは?お見舞いにも行けなくてごめんなさいね」

「いくら働いている病院っていっても、母さんは外来だから…気にしてないよ。ところで前に話した通り奈月くんを家に呼びたいんだけどいい?」

「いいわよ。よかったわね改装しておいて、あの部屋使うんでしょ?あの部屋ならトイレもお風呂もあるから気にしないで使えるものね」

「そうだな。そうさせてもらうよ」

「あらあら楽しみですね。どんな子がいらっしゃるか。このハル、お料理頑張りますよ」
そんなことを言いながら、住み込みのハルさんが中華丼とワンタンスープ、サラダを持ってきてくれた。

「ハルさんありがとう。でも奈月くんはまだあまり食べられないんだ」

「あら、まだお具合が?」
心配そうに言うハルさんに奈月くんの事情を話しをした。母親の彼氏から性的虐待を受けていたせいで、彼氏の前でご飯を食べられなくなったこと。食べてもすぐに吐いてしまうことが続いたせいで胃が小さくなり、あまりご飯を受け付けないこと。栄養失調と診断されたが、点滴とご飯を食べるように改善はしてきているが、今すぐに治るものじゃない。入院生活も不安だろうと相原先生の判断で何もなければ明後日に退院すること。わが家には犬も猫もいるから少しでも奈月くんの癒しになればと思っていることを話すと母もハルさんも涙を流していた。

「かわいそうにね。きっと誰にも言えずに1人で苦しかったわよね」

「なんてことするんだろうね。っこのハルが奈月くんにたくさんの愛情をあげます。きっと心も病んでると思うから」

「母さん、ハルさんよろしくね。通いのお手伝いの金治さんと陽子さんにも言っておいてよ」

「承知いたしました。しっかりとお伝えさせていただきますね」
ハルさんは俺が生まれる前からいてくれてるので安心だ。母さんも今は外来勤務だが、父さんの病気がわかるまでERで働いていた。だから脳外科医の相原先生をよく知ってるし、奈月くんの処置も的確だったんだろう。これで奈月くんが来る準備は整った。奈月くんがこの家を気に入ってくれればいいが…

次の日に病院に行くと検査を終えて疲れたのか眠っている奈月くんがいた。部屋に入る前に相原先生から予定通り明日、退院でいいと許可が降りた。明日からわが家で一緒にいられると思うと嬉しくなった。どうしても会社に戻らないと行けないため、起きてる奈月くんに会えないのは残念と思いながら、明日の着替えとメモを残して病院をあとにした。

〝奈月くん、明日は退院だね。9時ごろに迎えに来るから、着替えて待っててね。わが家の犬も猫も奈月くんに会えるのを楽しみにしてるからね。奈月くんが寝てたから会えなくてごめんね。的場 樹〟


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