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待合室で
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バスターミナルの待合室の活気は強過ぎもせず弱くも無く、気持ちを少しずつ前に向けるのに丁度良い。
繁華街の喧騒の中、鉄道の線路が重なる高架の下にあるバスターミナル。広くはないけれど開放感のある空間がある。
待合室の椅子は、これから何処かに旅出る若者やカップル、家族連れで埋まっていて、皆がこれからの旅の楽しみや興奮を少し抑えながら笑顔を見せている。
面談の日の終わりに、谷口さんもバスツアーに行きたい、と言ってくれた。後になって強引な自分の行動にびっくりして、嫌になりかけたけれど、会社を辞めたら谷口さんに会う事は出来なくなる。じゃあ、最初で最後のデートのつもりでも良いじゃない。嫌なほど開き直っている自分がいた。
バスツアーの集合場所はバスターミナルの直ぐ隣のビルの前。私と谷口さんはバスターミナルの待合室で集合時間前に待ち合わせることにした。
私は待合室のエントランスを入って直ぐの一番目立つ椅子に陣取った。谷口さんが迷わずに、直ぐに私を見つけてくれますように。久しぶりにつけた胸元のペンダントの位置を何度も確かめる。
待ち合わせ時間よりも随分と早く来てしまって、待合室にいる人達の顔はどんどんと入れ替わっていく。色んな人の話し声や歩く音が絶え間なく続いていて、一番目立つ所に長時間陣取っている自分が少しずつ居づらくなってくる。本当に谷口さんは来てくれるのかな。心配にもなってきた。
谷口さんが来なかったら、こんな所にいる私は馬鹿みたいじゃないか。やっぱり、ここは自分のいる場所でないような気がしてきて、後ろの方の余り目立たない椅子に目を向けた。あっちに移ろう。そう思って席を立つ。
するとエントランスから小さな子供がはしゃいで凄い勢いで走って来た。危ない。ぶつかる。私は子供を避けて身体をくねらせた。そしたらバランスを崩して地面へ倒れそうになる。わあ……。
地面に倒れるはずの私の身体。それが誰かの腕に掴まれて軽くなる。
谷口さん?
谷口さんの横顔がはっきりと見えた。私は谷口さんの腕にしっかりと掴まれていた。谷口さんが私の身体を抱きかかえて起こしてくれた。私は目を瞑った。その瞬間、待合室の全ての音が消えたような気がした。
「あー。お姉さんとお兄さん、仲良ししてる」
さっきの小さな子供だろうか。声が聞こえた。同時に「シー」とお母さんの声だろうか、子供の声を制止する。待合室の人達の視線がこちらに向いているように感じる。
私は恥ずかしくて目を瞑ったまま俯いていた。恐る恐ると顔を上げながら目を開けると、真っ赤になった谷口さんの顔が直ぐ間近にあった。
「大丈夫?」
谷口さんの唇が不器用に動く。私は首を縦に振った。真っ赤な顔の谷口さんは笑ってくれた。私はもう一度大きく首を縦に振る。
待合室の人達が皆、私と谷口さんを微笑ましく見ていた。小さな子供がパチパチパチと拍手していた。強く波打つ鼓動と伝わって来る温もりが、私に力を与えてくれていた。そして今までの事、何もかも全てが嘘だったみたいに、私の心は穏やかに凪いでいた。
繁華街の喧騒の中、鉄道の線路が重なる高架の下にあるバスターミナル。広くはないけれど開放感のある空間がある。
待合室の椅子は、これから何処かに旅出る若者やカップル、家族連れで埋まっていて、皆がこれからの旅の楽しみや興奮を少し抑えながら笑顔を見せている。
面談の日の終わりに、谷口さんもバスツアーに行きたい、と言ってくれた。後になって強引な自分の行動にびっくりして、嫌になりかけたけれど、会社を辞めたら谷口さんに会う事は出来なくなる。じゃあ、最初で最後のデートのつもりでも良いじゃない。嫌なほど開き直っている自分がいた。
バスツアーの集合場所はバスターミナルの直ぐ隣のビルの前。私と谷口さんはバスターミナルの待合室で集合時間前に待ち合わせることにした。
私は待合室のエントランスを入って直ぐの一番目立つ椅子に陣取った。谷口さんが迷わずに、直ぐに私を見つけてくれますように。久しぶりにつけた胸元のペンダントの位置を何度も確かめる。
待ち合わせ時間よりも随分と早く来てしまって、待合室にいる人達の顔はどんどんと入れ替わっていく。色んな人の話し声や歩く音が絶え間なく続いていて、一番目立つ所に長時間陣取っている自分が少しずつ居づらくなってくる。本当に谷口さんは来てくれるのかな。心配にもなってきた。
谷口さんが来なかったら、こんな所にいる私は馬鹿みたいじゃないか。やっぱり、ここは自分のいる場所でないような気がしてきて、後ろの方の余り目立たない椅子に目を向けた。あっちに移ろう。そう思って席を立つ。
するとエントランスから小さな子供がはしゃいで凄い勢いで走って来た。危ない。ぶつかる。私は子供を避けて身体をくねらせた。そしたらバランスを崩して地面へ倒れそうになる。わあ……。
地面に倒れるはずの私の身体。それが誰かの腕に掴まれて軽くなる。
谷口さん?
谷口さんの横顔がはっきりと見えた。私は谷口さんの腕にしっかりと掴まれていた。谷口さんが私の身体を抱きかかえて起こしてくれた。私は目を瞑った。その瞬間、待合室の全ての音が消えたような気がした。
「あー。お姉さんとお兄さん、仲良ししてる」
さっきの小さな子供だろうか。声が聞こえた。同時に「シー」とお母さんの声だろうか、子供の声を制止する。待合室の人達の視線がこちらに向いているように感じる。
私は恥ずかしくて目を瞑ったまま俯いていた。恐る恐ると顔を上げながら目を開けると、真っ赤になった谷口さんの顔が直ぐ間近にあった。
「大丈夫?」
谷口さんの唇が不器用に動く。私は首を縦に振った。真っ赤な顔の谷口さんは笑ってくれた。私はもう一度大きく首を縦に振る。
待合室の人達が皆、私と谷口さんを微笑ましく見ていた。小さな子供がパチパチパチと拍手していた。強く波打つ鼓動と伝わって来る温もりが、私に力を与えてくれていた。そして今までの事、何もかも全てが嘘だったみたいに、私の心は穏やかに凪いでいた。
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