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温泉地での二日目。
私は、人生で最も贅沢で、そして最も心臓に悪い朝を迎えていた。
「……おはよう、ダリア。よく眠れたか」
目を開けると、目の前には鎖骨があった。
男の、逞しい、白磁のような肌の鎖骨だ。
視線を上げると、少し濡れた銀髪をかき上げた、浴衣姿のルーカスが私を見下ろしていた。
「……おはようございます」
私は布団を頭まで引き上げた。
ここは旅館の離れ。
昨夜、あの露天風呂事件の後、私たちは「健全に」同じ部屋で寝た。
もちろん布団は別々だったが、朝起きたら私の布団がなぜかルーカスの布団のすぐ隣に移動していた(たぶん寝相のせいではなく、誰かの策略だ)。
「朝食の用意ができている。君の希望通り、部屋食だ」
ルーカスが立ち上がる。
その浴衣姿の破壊力が凄まじい。
普段の軍服や礼服の、あのかっちりとした「氷の公爵」ではない。
帯を少し緩めに締め、胸元がはだけた姿は、無駄に色気がダダ漏れである。
(見ない。私は見ないわよ。あれは高度な視覚的罠だわ)
私は自分に言い聞かせ、ノロノロと布団から這い出した。
「今日の予定はどうする? 卓球のリベンジか? それとも温泉街の視察か?」
ルーカスが焼き魚をほぐしながら尋ねてくる。
彼は箸使いまで完璧だ。
「いいえ。今日の予定は『何もしない』です」
私は宣言した。
「何もしない?」
「はい。昨日、卓球で貴方にコテンパンにされたせいで、筋肉痛なのです。今日はこの部屋から一歩も出ず、縁側で空を眺め、お茶を啜り、眠くなったら寝る。これぞ究極のバカンスです」
「……なるほど。あえて活動を停止することで、心身のオーバーホールを行うわけか」
「いちいち理屈をつけないでください。ただの怠惰です」
朝食を終えると、私たちは縁側へと移動した。
日本庭園風の中庭には、鹿威し(ししおどし)がカコーン、と涼やかな音を立てている。
秋風が心地よい。
私は座布団の上に寝転がり、羊枕(マークスリー)に頭を乗せた。
ルーカスも私の隣に座り、文庫本(私の持ち込んだ詩集)を読み始めた。
静かだ。
城での喧騒が嘘のようだ。
書類の山も、アレン王子の騒音も、ここにはない。
「……平和ですね」
「ああ」
ルーカスがページをめくる音がする。
私は横目で彼を見た。
彼はリラックスしているように見えるが、その背筋はピンと伸びたままだ。
本を持つ指にも、微かな緊張感がある。
この人、本当に休むのが下手なんだな。
「公爵様」
「ルーカスでいいと言っただろう。今は公務ではない」
「では、ルーカス様。……肩に力が入っていますよ」
私は起き上がり、彼の背後に回った。
そして、彼の広い肩に手を置いた。
筋肉が岩のように硬い。
「これでは、せっかくの温泉効果が台無しです。もっと力を抜いてください」
「……そう言われてもな。常に敵襲や緊急事態を想定して生きるのが癖になっている」
「今は敵なんていません。いるのは、やる気のない私と、庭の鯉くらいです」
私は彼の方をグイグイと揉んだ。
整体師のような真似事だが、彼の凝りは相当なものだ。
一国の宰相として、常に国の重圧を背負ってきた証だろう。
「……うっ」
ルーカスが小さく呻く。
「痛いですか?」
「いや……効く。君は、マッサージのツボまで心得ているのか」
「いいえ。ただ、私が凝った時に押して気持ちいい場所を押しているだけです」
私は無心で彼の肩を揉みほぐした。
次第に、彼の方から力が抜けていくのが分かる。
岩のようだった筋肉が、少しずつ緩んでいく。
「……ダリア」
「はい」
「君といると、調子が狂う」
ルーカスが本を閉じ、庭に視線を向けたまま呟いた。
「俺は今まで、休むことは『罪』だと思っていた。止まれば国が傾く、思考を止めれば誰かが死ぬ。そう自分を追い込んで生きてきた」
「ワーカホリックの典型ですね」
「だが、君を見ていると……その強迫観念が馬鹿らしくなってくる」
彼は少し振り返り、私を見た。
「君は、全力でサボろうとする。全力で自分を甘やかす。その姿があまりに潔くて、見ている俺まで『まあ、いいか』と思わされてしまう」
「それは、私が貴方を堕落させているということでしょうか」
「いいや。浄化しているんだ」
ルーカスは私の手を取り、自分の隣に座らせた。
そして、そのまま私の膝に頭を乗せてきた。
膝枕だ。
逆バージョンだ。
「ちょ、ルーカス様!?」
「貸し借りなしだ。行きの馬車では俺が貸しただろう」
彼はそう言って、目を閉じた。
長い睫毛が頬に影を落とす。
無防備だ。
あまりにも無防備すぎる。
もし今、刺客が現れたらどうするつもりなのだろう。
「……俺の目の前で、堂々と寝た女は君が初めてだ」
「それは貴方が怖すぎるからでは?」
「かもな。だが、俺も……こうして誰かの前で目を閉じるのは、初めてだ」
彼の声が、柔らかく溶けていく。
「君の匂いがする。君の体温がある。それだけで、城壁の中にいるよりも安心できる。……不思議だな」
「……」
私は返す言葉が見つからなかった。
私の心臓が、トクン、と大きく跳ねた。
彼は私を「有能な軍師」として評価していたはずだ。
私の「効率化」を愛していたはずだ。
でも、今の彼は違う。
ただの男として、私という人間に安らぎを求めている。
「サボり魔」の私を、許し、受け入れ、そして必要としてくれている。
「……ダリア」
「はい」
「俺と結婚してくれという話、あれは契約云々と言ったが……」
ルーカスが目を開け、下から私を見上げた。
その赤い瞳には、いつもの鋭さはなく、ただ穏やかな光が宿っていた。
「本音を言えば、俺がただ、君と一緒にいたいだけなんだ」
「……っ」
「仕事ができなくてもいい。君が一日中寝ていても構わない。ただ、俺が帰る場所に、君がいてほしい。……君がいない世界など、もう考えられない」
反則だ。
そんなストレートな言葉、契約書のどこにも書いてなかった。
私は、顔が熱くなるのを感じた。
温泉のせいじゃない。
間違いなく、この男のせいだ。
私は彼の目から逃げるように、彼の手で目を覆った。
「……条件があります」
「またか。今度はなんだ」
ルーカスが嬉しそうに笑う。
「私の睡眠時間を守ること。おやつを欠かさないこと。そして……」
私は小さな声で付け加えた。
「……たまには、こうして二人で『何もしない時間』を作ること」
ルーカスが私の手を取り、指の隙間からキスをした。
「誓おう。公爵家の名にかけて」
「……契約成立、とみなします」
私は溜息交じりに言ったが、口元が緩むのを止められなかった。
その時。
カコーン、と鹿威しの音が響いた。
風が吹き、紅葉した葉がハラハラと舞い落ちる。
「……寝ていいか」
「どうぞ。私も寝ますから」
「ああ。……おやすみ、ダリア」
ルーカスは本当に、数秒で寝息を立て始めた。
私の膝の上で、子供のように安心しきった顔で。
私は彼に自分の羽織をかけ、庭を眺めた。
(ああ、ダメだわ)
私は悟ってしまった。
私は逃げられない。
物理的な警備網や契約書に縛られているからではない。
この、不器用で仕事人間な男が、私に見せるこの「隙」に、どうしようもなく愛着を感じてしまっているからだ。
彼を支えてあげたい、とか、そんな高尚なことじゃない。
ただ、この人の隣でなら、私も自然体でいられる気がする。
お互いにダメな部分を晒して、背中合わせでサボれる関係。
それは、私が求めていた「理想の平穏」に近いのかもしれない。
「……仕方ないですね」
私は彼の髪をそっと撫でた。
「覚悟を決めますよ。貴方を、世界一幸せな『愛妻家』にしてあげますから」
もちろん、私のニートライフを死守した上で、だが。
私たちはそのまま、縁側で数時間の昼寝をした。
旅館の仲居さんが夕食の時間を聞きに来て、私たちの姿を見て「あらあら、お熱いこと」と赤面して去っていったことなど知らずに。
この二日間の逃避行は、私の完全敗北で終わった。
だが、敗北の味は、温泉饅頭よりも甘く、そして温かかった。
翌日。
私たちは城へ戻る馬車に乗っていた。
行きとは違い、今度は二人並んで座り、手をつないでいた。
「戻ったら忙しくなるぞ、ダリア。結婚式の準備がある」
「……地味婚でお願いします。派手なのは疲れます」
「善処する。だが、国中が祝いたがるだろうな」
ルーカスが苦笑する。
私は窓の外を見ながら、これから始まる「公爵夫人」としての生活を思った。
きっと忙しく、騒がしく、睡眠不足の日々が待っているだろう。
でも、まあいい。
隣には、世界一有能で、世界一の「太もも枕」を持つパートナーがいるのだから。
「……とりあえず、帰ったらまず寝ます」
「ああ。俺も付き合うよ」
馬車は帝都へ向かう。
私の定時退社ライフは、ここから「定時退社(夫婦の時間確保)」ライフへと、その形を変えて続いていくのだった。
私は、人生で最も贅沢で、そして最も心臓に悪い朝を迎えていた。
「……おはよう、ダリア。よく眠れたか」
目を開けると、目の前には鎖骨があった。
男の、逞しい、白磁のような肌の鎖骨だ。
視線を上げると、少し濡れた銀髪をかき上げた、浴衣姿のルーカスが私を見下ろしていた。
「……おはようございます」
私は布団を頭まで引き上げた。
ここは旅館の離れ。
昨夜、あの露天風呂事件の後、私たちは「健全に」同じ部屋で寝た。
もちろん布団は別々だったが、朝起きたら私の布団がなぜかルーカスの布団のすぐ隣に移動していた(たぶん寝相のせいではなく、誰かの策略だ)。
「朝食の用意ができている。君の希望通り、部屋食だ」
ルーカスが立ち上がる。
その浴衣姿の破壊力が凄まじい。
普段の軍服や礼服の、あのかっちりとした「氷の公爵」ではない。
帯を少し緩めに締め、胸元がはだけた姿は、無駄に色気がダダ漏れである。
(見ない。私は見ないわよ。あれは高度な視覚的罠だわ)
私は自分に言い聞かせ、ノロノロと布団から這い出した。
「今日の予定はどうする? 卓球のリベンジか? それとも温泉街の視察か?」
ルーカスが焼き魚をほぐしながら尋ねてくる。
彼は箸使いまで完璧だ。
「いいえ。今日の予定は『何もしない』です」
私は宣言した。
「何もしない?」
「はい。昨日、卓球で貴方にコテンパンにされたせいで、筋肉痛なのです。今日はこの部屋から一歩も出ず、縁側で空を眺め、お茶を啜り、眠くなったら寝る。これぞ究極のバカンスです」
「……なるほど。あえて活動を停止することで、心身のオーバーホールを行うわけか」
「いちいち理屈をつけないでください。ただの怠惰です」
朝食を終えると、私たちは縁側へと移動した。
日本庭園風の中庭には、鹿威し(ししおどし)がカコーン、と涼やかな音を立てている。
秋風が心地よい。
私は座布団の上に寝転がり、羊枕(マークスリー)に頭を乗せた。
ルーカスも私の隣に座り、文庫本(私の持ち込んだ詩集)を読み始めた。
静かだ。
城での喧騒が嘘のようだ。
書類の山も、アレン王子の騒音も、ここにはない。
「……平和ですね」
「ああ」
ルーカスがページをめくる音がする。
私は横目で彼を見た。
彼はリラックスしているように見えるが、その背筋はピンと伸びたままだ。
本を持つ指にも、微かな緊張感がある。
この人、本当に休むのが下手なんだな。
「公爵様」
「ルーカスでいいと言っただろう。今は公務ではない」
「では、ルーカス様。……肩に力が入っていますよ」
私は起き上がり、彼の背後に回った。
そして、彼の広い肩に手を置いた。
筋肉が岩のように硬い。
「これでは、せっかくの温泉効果が台無しです。もっと力を抜いてください」
「……そう言われてもな。常に敵襲や緊急事態を想定して生きるのが癖になっている」
「今は敵なんていません。いるのは、やる気のない私と、庭の鯉くらいです」
私は彼の方をグイグイと揉んだ。
整体師のような真似事だが、彼の凝りは相当なものだ。
一国の宰相として、常に国の重圧を背負ってきた証だろう。
「……うっ」
ルーカスが小さく呻く。
「痛いですか?」
「いや……効く。君は、マッサージのツボまで心得ているのか」
「いいえ。ただ、私が凝った時に押して気持ちいい場所を押しているだけです」
私は無心で彼の肩を揉みほぐした。
次第に、彼の方から力が抜けていくのが分かる。
岩のようだった筋肉が、少しずつ緩んでいく。
「……ダリア」
「はい」
「君といると、調子が狂う」
ルーカスが本を閉じ、庭に視線を向けたまま呟いた。
「俺は今まで、休むことは『罪』だと思っていた。止まれば国が傾く、思考を止めれば誰かが死ぬ。そう自分を追い込んで生きてきた」
「ワーカホリックの典型ですね」
「だが、君を見ていると……その強迫観念が馬鹿らしくなってくる」
彼は少し振り返り、私を見た。
「君は、全力でサボろうとする。全力で自分を甘やかす。その姿があまりに潔くて、見ている俺まで『まあ、いいか』と思わされてしまう」
「それは、私が貴方を堕落させているということでしょうか」
「いいや。浄化しているんだ」
ルーカスは私の手を取り、自分の隣に座らせた。
そして、そのまま私の膝に頭を乗せてきた。
膝枕だ。
逆バージョンだ。
「ちょ、ルーカス様!?」
「貸し借りなしだ。行きの馬車では俺が貸しただろう」
彼はそう言って、目を閉じた。
長い睫毛が頬に影を落とす。
無防備だ。
あまりにも無防備すぎる。
もし今、刺客が現れたらどうするつもりなのだろう。
「……俺の目の前で、堂々と寝た女は君が初めてだ」
「それは貴方が怖すぎるからでは?」
「かもな。だが、俺も……こうして誰かの前で目を閉じるのは、初めてだ」
彼の声が、柔らかく溶けていく。
「君の匂いがする。君の体温がある。それだけで、城壁の中にいるよりも安心できる。……不思議だな」
「……」
私は返す言葉が見つからなかった。
私の心臓が、トクン、と大きく跳ねた。
彼は私を「有能な軍師」として評価していたはずだ。
私の「効率化」を愛していたはずだ。
でも、今の彼は違う。
ただの男として、私という人間に安らぎを求めている。
「サボり魔」の私を、許し、受け入れ、そして必要としてくれている。
「……ダリア」
「はい」
「俺と結婚してくれという話、あれは契約云々と言ったが……」
ルーカスが目を開け、下から私を見上げた。
その赤い瞳には、いつもの鋭さはなく、ただ穏やかな光が宿っていた。
「本音を言えば、俺がただ、君と一緒にいたいだけなんだ」
「……っ」
「仕事ができなくてもいい。君が一日中寝ていても構わない。ただ、俺が帰る場所に、君がいてほしい。……君がいない世界など、もう考えられない」
反則だ。
そんなストレートな言葉、契約書のどこにも書いてなかった。
私は、顔が熱くなるのを感じた。
温泉のせいじゃない。
間違いなく、この男のせいだ。
私は彼の目から逃げるように、彼の手で目を覆った。
「……条件があります」
「またか。今度はなんだ」
ルーカスが嬉しそうに笑う。
「私の睡眠時間を守ること。おやつを欠かさないこと。そして……」
私は小さな声で付け加えた。
「……たまには、こうして二人で『何もしない時間』を作ること」
ルーカスが私の手を取り、指の隙間からキスをした。
「誓おう。公爵家の名にかけて」
「……契約成立、とみなします」
私は溜息交じりに言ったが、口元が緩むのを止められなかった。
その時。
カコーン、と鹿威しの音が響いた。
風が吹き、紅葉した葉がハラハラと舞い落ちる。
「……寝ていいか」
「どうぞ。私も寝ますから」
「ああ。……おやすみ、ダリア」
ルーカスは本当に、数秒で寝息を立て始めた。
私の膝の上で、子供のように安心しきった顔で。
私は彼に自分の羽織をかけ、庭を眺めた。
(ああ、ダメだわ)
私は悟ってしまった。
私は逃げられない。
物理的な警備網や契約書に縛られているからではない。
この、不器用で仕事人間な男が、私に見せるこの「隙」に、どうしようもなく愛着を感じてしまっているからだ。
彼を支えてあげたい、とか、そんな高尚なことじゃない。
ただ、この人の隣でなら、私も自然体でいられる気がする。
お互いにダメな部分を晒して、背中合わせでサボれる関係。
それは、私が求めていた「理想の平穏」に近いのかもしれない。
「……仕方ないですね」
私は彼の髪をそっと撫でた。
「覚悟を決めますよ。貴方を、世界一幸せな『愛妻家』にしてあげますから」
もちろん、私のニートライフを死守した上で、だが。
私たちはそのまま、縁側で数時間の昼寝をした。
旅館の仲居さんが夕食の時間を聞きに来て、私たちの姿を見て「あらあら、お熱いこと」と赤面して去っていったことなど知らずに。
この二日間の逃避行は、私の完全敗北で終わった。
だが、敗北の味は、温泉饅頭よりも甘く、そして温かかった。
翌日。
私たちは城へ戻る馬車に乗っていた。
行きとは違い、今度は二人並んで座り、手をつないでいた。
「戻ったら忙しくなるぞ、ダリア。結婚式の準備がある」
「……地味婚でお願いします。派手なのは疲れます」
「善処する。だが、国中が祝いたがるだろうな」
ルーカスが苦笑する。
私は窓の外を見ながら、これから始まる「公爵夫人」としての生活を思った。
きっと忙しく、騒がしく、睡眠不足の日々が待っているだろう。
でも、まあいい。
隣には、世界一有能で、世界一の「太もも枕」を持つパートナーがいるのだから。
「……とりあえず、帰ったらまず寝ます」
「ああ。俺も付き合うよ」
馬車は帝都へ向かう。
私の定時退社ライフは、ここから「定時退社(夫婦の時間確保)」ライフへと、その形を変えて続いていくのだった。
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