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「ルルノ! ルルノ・エルバート! 君に謝らなければならないことがあるんだ!」
公爵家の重厚な玄関扉を突き破らんばかりの勢いで、その男は現れた。
黄金の髪を振り乱し、無駄に鍛え上げられた胸筋を強調するようなポーズで立っているのは、我が元婚約者、セドリック第二王子殿下である。
(……出たわね、筋肉勘違い王子。よりによって、私がアラルク様への献上用刺繍を仕上げている最中に……!)
私は手に持っていた針をクッションに突き刺し、最大限の不快感を顔に張り付けて立ち上がった。
「……セドリック様。謹慎中の身である私に、何の御用でしょうか? 『二度と顔を見せるな』と仰ったのは、どこのどなたでしたかしら」
「ああ、その言葉を撤回させてくれ! 僕は愚かだった! 君がマリアンヌに嫌がらせをした理由……その真実に、僕はようやく気づいたんだ!」
セドリック様はズカズカと部屋に踏み込むと、私の両手をがっしりと掴んだ。
熱い。暑苦しい。そして、アラルク様のような「冬の朝の森」の香りは微塵もしない。あるのは、うっすらとしたプロテインの匂いだけだ。
「真実……? 何のことですの?」
「照れることはない! 君は僕を愛するあまり、マリアンヌに嫉妬して、自分を悪役に仕立ててまで僕の気を惹こうとしたんだろう? あんなに不器用な嫌がらせ……今思えば、すべてが僕へのラブレターだったんだね!」
「…………」
あまりの衝撃に、私の思考は一瞬ホワイトアウトした。
マリアンヌちゃんから聞いてはいたけれど、本人の口から直接聞くと、その殺傷能力は凄まじいものがある。
「見てくれ、このマフラーを! 君が僕の誕生日にくれた、左右の長さがバラバラで、所々ほつれているこのマフラーを! これが君の歪んだ、しかし熱い情熱の証拠だ!」
彼は懐から、私が「いかにセンスがないか」を見せつけるために適当に編んだ、ドブネズミ色のマフラーを取り出して顔に押し当てた。
「……セドリック様。それは、ただ単に私が編み物に向いていなかっただけですわ。あと、それはドブネズミの色をイメージして選んだ毛糸ですのよ?」
「ふふ、強がりを言うところも可愛いぞ、ルルノ。さあ、もう自分を偽る必要はない。マリアンヌとの婚約は白紙に戻す。僕は君の『真実の愛(狂気)』を受け入れる覚悟ができたんだ!」
(……この人、本当に救いようがないわ)
私は掴まれていた手を、全力の筋力(アラルク様への愛で鍛えられたもの)で振り払った。
「セドリック様。一つ、大きな勘違いをされていますわ。私があなたを愛している? ……そんな冗談、バラの品種改良よりも難しい話ですわよ」
「ははは! いいぞ、もっと罵ってくれ! それが君の照れ隠しなんだろう?」
「いいえ。……生理的に無理ですわ」
私は、人生で一番冷ややかな声を絞り出した。
アラルク様に向けられるそれとは真逆の、心の底から「汚物」を見るような目。
さすがのセドリック様も、その冷気に一瞬だけ動きを止めた。
「……え? せ、せいりてき……?」
「はい。あなたのその、事あるごとに筋肉を見せつける仕草も。何でも自分に都合よく解釈するそのお花畑な脳内も。そして、私の大切なマリアンヌちゃんを傷つけたことも。すべてにおいて、私の嫌悪の対象ですの」
「そ、そんなはずは……! 君は僕を愛しているからこそ、悪女を演じて……!」
「私が悪女を演じたのは、あなたとの婚約を破棄するため。それだけですわ。……いい加減に気づいてくださいませ。私は、あなたという男に、これっぽっちも興味がございませんの」
私は一歩詰め寄り、彼の耳元で、かつてないほどはっきりと告げた。
「私が本当に、心の底から、魂を捧げるほどお慕いしているのは……。あなたの兄上、アラルク様だけですわ」
セドリック様の顔から、血の気が引いていくのが分かった。
部屋の中に、凍りつくような沈黙が流れる。
その時。
「――ほう。それは初耳だな、ルルノ嬢」
開けっ放しになっていた扉の向こうから、低く、愉悦に満ちた声が響いた。
私は心臓が口から飛び出しそうになりながら、ロボットのような動きで振り返った。
そこには、腕を組んで壁に寄りかかる、この世で最も美しい「推し」が立っていた。
(……ぎゃああああああ! 聞いてた!? 今、めっちゃ告白したの聞いてたぁぁーー!?)
「あ、ア、アラルク様……!? いつからそこに……!」
「『ドブネズミのマフラー』のくだりからだ。……面白いものを見せてもらったよ、弟」
アラルク様は、絶望の淵に立たされたセドリック様を冷たく見下ろし、不敵に微笑んだ。
公爵家の重厚な玄関扉を突き破らんばかりの勢いで、その男は現れた。
黄金の髪を振り乱し、無駄に鍛え上げられた胸筋を強調するようなポーズで立っているのは、我が元婚約者、セドリック第二王子殿下である。
(……出たわね、筋肉勘違い王子。よりによって、私がアラルク様への献上用刺繍を仕上げている最中に……!)
私は手に持っていた針をクッションに突き刺し、最大限の不快感を顔に張り付けて立ち上がった。
「……セドリック様。謹慎中の身である私に、何の御用でしょうか? 『二度と顔を見せるな』と仰ったのは、どこのどなたでしたかしら」
「ああ、その言葉を撤回させてくれ! 僕は愚かだった! 君がマリアンヌに嫌がらせをした理由……その真実に、僕はようやく気づいたんだ!」
セドリック様はズカズカと部屋に踏み込むと、私の両手をがっしりと掴んだ。
熱い。暑苦しい。そして、アラルク様のような「冬の朝の森」の香りは微塵もしない。あるのは、うっすらとしたプロテインの匂いだけだ。
「真実……? 何のことですの?」
「照れることはない! 君は僕を愛するあまり、マリアンヌに嫉妬して、自分を悪役に仕立ててまで僕の気を惹こうとしたんだろう? あんなに不器用な嫌がらせ……今思えば、すべてが僕へのラブレターだったんだね!」
「…………」
あまりの衝撃に、私の思考は一瞬ホワイトアウトした。
マリアンヌちゃんから聞いてはいたけれど、本人の口から直接聞くと、その殺傷能力は凄まじいものがある。
「見てくれ、このマフラーを! 君が僕の誕生日にくれた、左右の長さがバラバラで、所々ほつれているこのマフラーを! これが君の歪んだ、しかし熱い情熱の証拠だ!」
彼は懐から、私が「いかにセンスがないか」を見せつけるために適当に編んだ、ドブネズミ色のマフラーを取り出して顔に押し当てた。
「……セドリック様。それは、ただ単に私が編み物に向いていなかっただけですわ。あと、それはドブネズミの色をイメージして選んだ毛糸ですのよ?」
「ふふ、強がりを言うところも可愛いぞ、ルルノ。さあ、もう自分を偽る必要はない。マリアンヌとの婚約は白紙に戻す。僕は君の『真実の愛(狂気)』を受け入れる覚悟ができたんだ!」
(……この人、本当に救いようがないわ)
私は掴まれていた手を、全力の筋力(アラルク様への愛で鍛えられたもの)で振り払った。
「セドリック様。一つ、大きな勘違いをされていますわ。私があなたを愛している? ……そんな冗談、バラの品種改良よりも難しい話ですわよ」
「ははは! いいぞ、もっと罵ってくれ! それが君の照れ隠しなんだろう?」
「いいえ。……生理的に無理ですわ」
私は、人生で一番冷ややかな声を絞り出した。
アラルク様に向けられるそれとは真逆の、心の底から「汚物」を見るような目。
さすがのセドリック様も、その冷気に一瞬だけ動きを止めた。
「……え? せ、せいりてき……?」
「はい。あなたのその、事あるごとに筋肉を見せつける仕草も。何でも自分に都合よく解釈するそのお花畑な脳内も。そして、私の大切なマリアンヌちゃんを傷つけたことも。すべてにおいて、私の嫌悪の対象ですの」
「そ、そんなはずは……! 君は僕を愛しているからこそ、悪女を演じて……!」
「私が悪女を演じたのは、あなたとの婚約を破棄するため。それだけですわ。……いい加減に気づいてくださいませ。私は、あなたという男に、これっぽっちも興味がございませんの」
私は一歩詰め寄り、彼の耳元で、かつてないほどはっきりと告げた。
「私が本当に、心の底から、魂を捧げるほどお慕いしているのは……。あなたの兄上、アラルク様だけですわ」
セドリック様の顔から、血の気が引いていくのが分かった。
部屋の中に、凍りつくような沈黙が流れる。
その時。
「――ほう。それは初耳だな、ルルノ嬢」
開けっ放しになっていた扉の向こうから、低く、愉悦に満ちた声が響いた。
私は心臓が口から飛び出しそうになりながら、ロボットのような動きで振り返った。
そこには、腕を組んで壁に寄りかかる、この世で最も美しい「推し」が立っていた。
(……ぎゃああああああ! 聞いてた!? 今、めっちゃ告白したの聞いてたぁぁーー!?)
「あ、ア、アラルク様……!? いつからそこに……!」
「『ドブネズミのマフラー』のくだりからだ。……面白いものを見せてもらったよ、弟」
アラルク様は、絶望の淵に立たされたセドリック様を冷たく見下ろし、不敵に微笑んだ。
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