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「お嬢様、不吉な知らせです。今すぐお茶を吹く準備をしてください」
お茶会から戻り、余韻に浸っていた私の部屋に、マーサが真顔で飛び込んできた。
「失礼ね。私は公爵令嬢よ? そんなに簡単にお茶を吹くはずが……」
「セドリック様が、『やっぱりルルノが恋しい』と泣き言を言っているそうです」
「ぶふっ!!」
私は、飲みかけのハーブティーをマーサの予想通りに豪快に吹き出した。
慌ててハンカチで口元を拭う。
「な、なんですって!? 聞き間違いじゃないわよね? あの筋肉王子、今さら何を言っているの!?」
「本当です。今、マリアンヌ様が裏口から忍び込んでいらしています。詳しい話は彼女からどうぞ」
マーサが扉を開けると、地味なマントを羽織ったマリアンヌちゃんが、オドオドしながら入ってきた。
「ルルノ様! 大変なんです! セドリック様が……セドリック様が、急に『ルルノは僕を愛しすぎていたんだ』とか言い出して!」
「……はあ? 愛しすぎていた? どの口が言っているのよ」
私はマリアンヌちゃんを椅子に座らせ、詰め寄った。
「ええ。彼曰く、『あんなにひどい嫌がらせをしたのは、僕の気を惹きたかったからに違いない。マリアンヌをいじめたのは、嫉妬で狂っていたからなんだ。ああ、僕はなんて残酷なことをしてしまったんだ!』だそうです……」
「…………」
私は天井を見上げた。
あの男の脳内、お花畑を通り越して筋肉の迷宮になっているんじゃないかしら。
「あのね、マリアンヌちゃん。私があなたの教科書を売ったのも、ドレスを魔法薬漬けにしたのも、全部『嫌われて婚約破棄されるため』だって、あなたは知っているわよね?」
「もちろんです! でも、セドリック様の中では、それがすべて『歪んだ愛の表現』に変換されちゃったみたいで……」
「最悪だわ。最悪のポジティブ変換だわ」
私はこめかみを押さえた。
せっかくアラルク様に「本物の悪女」として認められかけているのに、元婚約者が「彼女は僕を愛している」なんて触れ回ったら、私の計画が台無しになってしまう。
「それで、彼は今どうしているの?」
「毎日、ルルノ様との思い出の品(※私がわざと置いていった、センスの悪い手編みのマフラーなど)を抱きしめて、『やり直したい』って呟いています。マリアンヌ様に対しても、『君は真実の愛だと思っていたが、ルルノの情熱には勝てない』とか失礼なことを言い出す始末で……」
「マリアンヌちゃん、ごめんなさいね。あんなバカを押し付けてしまって」
「いえ、私はケーキセットさえいただければ大丈夫なんですけど……。でも、このままだと本当にルルノ様のところに謝罪に来ちゃいますよ?」
それは絶対に阻止しなければならない。
アラルク様に「やっぱり弟とよりを戻します」なんて思われたら、今度こそ地下牢行きだ。
「マーサ、今すぐ手紙を書くわ。……宛先はアラルク様よ!」
「お嬢様、何を書くつもりですか?」
「『害虫駆除のお願い』よ! ……いえ、もっとスマートに。
『アラルク様。弟君の様子がおかしいようです。どうやら頭に筋肉が回りすぎて、現実と幻想の区別がつかなくなっているご様子。早急な再教育をお願いいたします』」
「……それ、アラルク様に丸投げするだけじゃないですか」
「いいのよ! あの方は弟さんのこととなると、なんだかんだ言って厳しいんだから!」
私はガシガシとペンを動かしながら、マリアンヌちゃんに言った。
「いい、マリアンヌちゃん。あなたはもっと『悲劇のヒロイン』を演じるのよ。セドリック様が私のことを口にするたびに、涙を浮かべて『私はルルノ様には敵いませんわ……。身を引きます……』って言いなさい」
「ええっ、身を引いちゃっていいんですか?」
「いいのよ! 彼、追われると逃げるけど、逃げられると追うタイプだから! あなたが身を引こうとすれば、また必死にあなたを繋ぎ止めようとするはずよ!」
「なるほど……。恋愛って難しいですね」
マリアンヌちゃんを送り出した後、私は深くため息をついた。
「……はぁ。どうして私の周りには、まともな男がいないのかしら。アラルク様以外」
「お嬢様、そのアラルク様も、相当性格に難があると思いますけど」
「それがいいんじゃない! あの氷のような眼差しで『君は救いようのない馬鹿だな』って蔑まれた時の快感……。マーサ、あなたも一度経験してみるべきよ」
「……遠慮しておきます」
私は窓の外、王宮の方角を見つめた。
セドリック様の勘違いを粉砕し、アラルク様の隣を不動のものにする。
私の悪道は、まだまだ険しそうだった。
お茶会から戻り、余韻に浸っていた私の部屋に、マーサが真顔で飛び込んできた。
「失礼ね。私は公爵令嬢よ? そんなに簡単にお茶を吹くはずが……」
「セドリック様が、『やっぱりルルノが恋しい』と泣き言を言っているそうです」
「ぶふっ!!」
私は、飲みかけのハーブティーをマーサの予想通りに豪快に吹き出した。
慌ててハンカチで口元を拭う。
「な、なんですって!? 聞き間違いじゃないわよね? あの筋肉王子、今さら何を言っているの!?」
「本当です。今、マリアンヌ様が裏口から忍び込んでいらしています。詳しい話は彼女からどうぞ」
マーサが扉を開けると、地味なマントを羽織ったマリアンヌちゃんが、オドオドしながら入ってきた。
「ルルノ様! 大変なんです! セドリック様が……セドリック様が、急に『ルルノは僕を愛しすぎていたんだ』とか言い出して!」
「……はあ? 愛しすぎていた? どの口が言っているのよ」
私はマリアンヌちゃんを椅子に座らせ、詰め寄った。
「ええ。彼曰く、『あんなにひどい嫌がらせをしたのは、僕の気を惹きたかったからに違いない。マリアンヌをいじめたのは、嫉妬で狂っていたからなんだ。ああ、僕はなんて残酷なことをしてしまったんだ!』だそうです……」
「…………」
私は天井を見上げた。
あの男の脳内、お花畑を通り越して筋肉の迷宮になっているんじゃないかしら。
「あのね、マリアンヌちゃん。私があなたの教科書を売ったのも、ドレスを魔法薬漬けにしたのも、全部『嫌われて婚約破棄されるため』だって、あなたは知っているわよね?」
「もちろんです! でも、セドリック様の中では、それがすべて『歪んだ愛の表現』に変換されちゃったみたいで……」
「最悪だわ。最悪のポジティブ変換だわ」
私はこめかみを押さえた。
せっかくアラルク様に「本物の悪女」として認められかけているのに、元婚約者が「彼女は僕を愛している」なんて触れ回ったら、私の計画が台無しになってしまう。
「それで、彼は今どうしているの?」
「毎日、ルルノ様との思い出の品(※私がわざと置いていった、センスの悪い手編みのマフラーなど)を抱きしめて、『やり直したい』って呟いています。マリアンヌ様に対しても、『君は真実の愛だと思っていたが、ルルノの情熱には勝てない』とか失礼なことを言い出す始末で……」
「マリアンヌちゃん、ごめんなさいね。あんなバカを押し付けてしまって」
「いえ、私はケーキセットさえいただければ大丈夫なんですけど……。でも、このままだと本当にルルノ様のところに謝罪に来ちゃいますよ?」
それは絶対に阻止しなければならない。
アラルク様に「やっぱり弟とよりを戻します」なんて思われたら、今度こそ地下牢行きだ。
「マーサ、今すぐ手紙を書くわ。……宛先はアラルク様よ!」
「お嬢様、何を書くつもりですか?」
「『害虫駆除のお願い』よ! ……いえ、もっとスマートに。
『アラルク様。弟君の様子がおかしいようです。どうやら頭に筋肉が回りすぎて、現実と幻想の区別がつかなくなっているご様子。早急な再教育をお願いいたします』」
「……それ、アラルク様に丸投げするだけじゃないですか」
「いいのよ! あの方は弟さんのこととなると、なんだかんだ言って厳しいんだから!」
私はガシガシとペンを動かしながら、マリアンヌちゃんに言った。
「いい、マリアンヌちゃん。あなたはもっと『悲劇のヒロイン』を演じるのよ。セドリック様が私のことを口にするたびに、涙を浮かべて『私はルルノ様には敵いませんわ……。身を引きます……』って言いなさい」
「ええっ、身を引いちゃっていいんですか?」
「いいのよ! 彼、追われると逃げるけど、逃げられると追うタイプだから! あなたが身を引こうとすれば、また必死にあなたを繋ぎ止めようとするはずよ!」
「なるほど……。恋愛って難しいですね」
マリアンヌちゃんを送り出した後、私は深くため息をついた。
「……はぁ。どうして私の周りには、まともな男がいないのかしら。アラルク様以外」
「お嬢様、そのアラルク様も、相当性格に難があると思いますけど」
「それがいいんじゃない! あの氷のような眼差しで『君は救いようのない馬鹿だな』って蔑まれた時の快感……。マーサ、あなたも一度経験してみるべきよ」
「……遠慮しておきます」
私は窓の外、王宮の方角を見つめた。
セドリック様の勘違いを粉砕し、アラルク様の隣を不動のものにする。
私の悪道は、まだまだ険しそうだった。
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