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「マスカル、起きていますの? 朝ですわよ」
「まだ夜明け前じゃないか……どうしたんだ?」
マスカルが目を覚ますと、すでにグルメアは一張羅のドレスのまま、腕を組んで仁王立ちしていた。
その姿は、同居人というより、取り立て屋に近い。
「当然ですわ。最高のコンディションで、あなたの朝食をいただくためですもの」
「……夜食の間違えじゃないか?まあいいか……」
グルメアの情熱は、すべて「食」に向けられているらしい。
マスカルは苦笑しながら身支度を整えると、早速厨房に立った。
しばらくして、マスカルが作った簡素な朝食は、
黒パンと卵焼き、それにミルクを前に、グルメアは満足げに頷いていた。
しかし、食べ終わると、ふと何かを思いついたように言った。
「マスカル。わたくし、居候の身です。何かお手伝いをさせてちょうだい」
「手伝い?」
「ええ。わたくしとて、ただ飯食らいの汚名は返上したいのです」
どういう風の吹き回しか。
マスカルは少し驚いたが、彼女なりに気を遣っているのだろうと、その申し出を受け入れることにした。
「じゃあ……悪いが、洗濯を頼めるか」
「洗濯ですって? お安い御用ですわ」
グルメアは自信満々にそう言うと、洗濯物の入ったカゴを持って、家の裏にある井戸へ向かった。
だが、一時間後。
「マスカルー! 大変ですわー!」
悲鳴を聞いて駆けつけると、そこには信じられない光景が広がっていた。
グルメアは、マスカルのシャツのレース部分を、力任せにゴシゴシと洗いすぎた結果、見事に引きちぎっていたのだ。
「あら、ごめんなさい。少し力が入りすぎたようですわ」
悪びれもせずに言うグルメアに、マスカルはこめかみをひくつかせた。
「……もういい。次は掃除を頼む」
「掃除ですわね。任せなさい」
そして、三十分後。
ガッシャーン!
家の中から、盛大な破壊音が響いた。
マスカルが慌てて戻ると、暖炉の前に置いてあった(マスカルにとってはガラクタ同然の)壺が、木っ端微塵になっていた。
「……」
「ほ、埃を払おうとしただけですのよ。まさかこんなに脆いとは……」
「……もういい」
「でしたら、お料理を手伝いますわ! わたくしの神の舌があれば、あなたの料理は更なる高みへ…!」
「絶対にやめろ!」
マスカルは声を大にしてそれを制止した。
この調子でいけば、家中の食材が再起不能(リタイア)に追い込まれるのは目に見えている。
「な……! なぜですの!?」
「いいから、あんたはそこに座ってろ」
結局、グルメアは何もすることができず、しょんぼりとテーブルの椅子に座り込んだ。
プライドの高い彼女にとって、役立たずの烙印を押されるのは、何よりの屈辱だった。
「……わたくし、本当に何もできませんのね」
ぽつりと呟かれた言葉には、いつもの傲慢さはなく、か細い響きがあった。
マスカルは、そんな彼女の姿を見て、少しだけ罪悪感を覚えた。
「……別に、何もしなくていい」
ぶっきらぼうに、マスカルは言った。
「あんたは、そこに座って、俺の作った飯を『美味しい』って顔で食っててくれりゃ、それでいいんだよ」
「マスカル……」
それは、マスカルなりの、不器用な優しさだった。
その言葉に、グルメアの胸が、きゅんと音を立てて締め付けられた。
顔が熱い。きっと暖炉のせいだ。そうに違いない。
グルメアは、ぷいとそっぽを向きながら、消え入りそうな声で答えた。
「……し、仕方ありませんわね。あなたがそう言うなら、座っててさしあげますわ」
その横顔が真っ赤に染まっていることに、マスカルは気づいていないようだった。
「まだ夜明け前じゃないか……どうしたんだ?」
マスカルが目を覚ますと、すでにグルメアは一張羅のドレスのまま、腕を組んで仁王立ちしていた。
その姿は、同居人というより、取り立て屋に近い。
「当然ですわ。最高のコンディションで、あなたの朝食をいただくためですもの」
「……夜食の間違えじゃないか?まあいいか……」
グルメアの情熱は、すべて「食」に向けられているらしい。
マスカルは苦笑しながら身支度を整えると、早速厨房に立った。
しばらくして、マスカルが作った簡素な朝食は、
黒パンと卵焼き、それにミルクを前に、グルメアは満足げに頷いていた。
しかし、食べ終わると、ふと何かを思いついたように言った。
「マスカル。わたくし、居候の身です。何かお手伝いをさせてちょうだい」
「手伝い?」
「ええ。わたくしとて、ただ飯食らいの汚名は返上したいのです」
どういう風の吹き回しか。
マスカルは少し驚いたが、彼女なりに気を遣っているのだろうと、その申し出を受け入れることにした。
「じゃあ……悪いが、洗濯を頼めるか」
「洗濯ですって? お安い御用ですわ」
グルメアは自信満々にそう言うと、洗濯物の入ったカゴを持って、家の裏にある井戸へ向かった。
だが、一時間後。
「マスカルー! 大変ですわー!」
悲鳴を聞いて駆けつけると、そこには信じられない光景が広がっていた。
グルメアは、マスカルのシャツのレース部分を、力任せにゴシゴシと洗いすぎた結果、見事に引きちぎっていたのだ。
「あら、ごめんなさい。少し力が入りすぎたようですわ」
悪びれもせずに言うグルメアに、マスカルはこめかみをひくつかせた。
「……もういい。次は掃除を頼む」
「掃除ですわね。任せなさい」
そして、三十分後。
ガッシャーン!
家の中から、盛大な破壊音が響いた。
マスカルが慌てて戻ると、暖炉の前に置いてあった(マスカルにとってはガラクタ同然の)壺が、木っ端微塵になっていた。
「……」
「ほ、埃を払おうとしただけですのよ。まさかこんなに脆いとは……」
「……もういい」
「でしたら、お料理を手伝いますわ! わたくしの神の舌があれば、あなたの料理は更なる高みへ…!」
「絶対にやめろ!」
マスカルは声を大にしてそれを制止した。
この調子でいけば、家中の食材が再起不能(リタイア)に追い込まれるのは目に見えている。
「な……! なぜですの!?」
「いいから、あんたはそこに座ってろ」
結局、グルメアは何もすることができず、しょんぼりとテーブルの椅子に座り込んだ。
プライドの高い彼女にとって、役立たずの烙印を押されるのは、何よりの屈辱だった。
「……わたくし、本当に何もできませんのね」
ぽつりと呟かれた言葉には、いつもの傲慢さはなく、か細い響きがあった。
マスカルは、そんな彼女の姿を見て、少しだけ罪悪感を覚えた。
「……別に、何もしなくていい」
ぶっきらぼうに、マスカルは言った。
「あんたは、そこに座って、俺の作った飯を『美味しい』って顔で食っててくれりゃ、それでいいんだよ」
「マスカル……」
それは、マスカルなりの、不器用な優しさだった。
その言葉に、グルメアの胸が、きゅんと音を立てて締め付けられた。
顔が熱い。きっと暖炉のせいだ。そうに違いない。
グルメアは、ぷいとそっぽを向きながら、消え入りそうな声で答えた。
「……し、仕方ありませんわね。あなたがそう言うなら、座っててさしあげますわ」
その横顔が真っ赤に染まっていることに、マスカルは気づいていないようだった。
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