婚約破棄された悪役令嬢は美味しい人生を手に入れた

夏乃みのり

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11話

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一件以来、グルメアは少しだけ自分の振る舞いを改めるようになった。
相変わらず態度は尊大だが、無用なトラブルを避ける分別くらいは身につけたのだ。

そして、彼女の情熱は、新たな方向へと向かい始めた。

「マスカル。あなたのピザは、紛れもなく天上の味ですわ」

「……おう」

「ですが、まだ伸びしろがあります」

「伸びしろ?」

グルメアは、まるで高名な評論家のような口調で続けた。

「素材ですわ、マスカル。あなたの腕は完璧。ですが、その腕を振るうべき最高の素材が、まだ足りていませんのよ!」

「最高の素材、ねぇ……。この村で手に入るものにも、限りがあるんだが」

「いいえ、それはあなたの思い込みですわ! この村には、まだ眠れる宝が隠されているはず! わたくしの『神の舌(ゴッド・タン)』がそう告げています!」

そう宣言すると、グルメアは翌日から、村の市場へと繰り出すようになった。
目的は、マスカルのピザをさらなる高みへと押し上げるための、食材探しだ。

「そこのチーズ職人の方!」

グルメアは、市場で自家製チーズを売っていた老人の前で、ぴたりと足を止めた。

「あなたの作るチーズ、悪くはありませんわ。ですが、熟成の最後の段階で、ほんの少しだけ塩が足りていませんの。それ故に、ミルクの甘みが完全に引き出されていない。惜しいですわね」

「な、なんだと……!?」

老人は、何十年もチーズを作り続けてきたプライドを傷つけられ、色をなして反論しようとした。
しかし、グルメアに言われた通りに、チーズの味を確かめてみて、絶句した。
確かに、ほんのわずかだが、味がぼやけている気がする。

「次に、そちらの農家の方!」

グルメアは、ハーブを売っている女性に声をかける。

「そのバジル、収穫の時期が半日早いですわ。葉が最も香り高くなるのは、朝日を浴びてすぐ。昼に収穫しては、香りが飛んでしまいます」

「そんな馬鹿な……」

言われた相手は、誰もが最初は「貴族崩れの小娘が何を」と馬鹿にした。
しかし、グルメアの指摘は、あまりにも的確で、具体的だった。
彼女は、ただ味を批評するだけではない。どうすればもっと良くなるかという、明確な改善案まで示してみせるのだ。

その噂は、あっという間に市場中に広まった。
最初は遠巻きに見ていた職人たちも、いつしか自分の商品をグルメアに味見してもらおうと、列を作るようになった。

「グルメア様、うちの燻製はどうでしょう!」
「この蜂蜜の味を見てくだせえ!」

「ふん、仕方ありませんわね。このわたくしの神の舌を、あなたたちのために貸してさしあげますわ」

グルメアは、得意満面に、しかし真剣に、一つ一つの食材を吟味していく。
その姿は、もはやただの元令嬢ではなかった。
食を愛し、食に愛された、絶対的な味覚を持つ、気高き「食の女王」そのものだった。

マスカルは、そんな彼女の姿を、少し離れた場所から驚きと尊敬の念を持って眺めていた。
自分が何気なく使っていた村の食材たちが、彼女の手にかかれば、次々と秘められた可能性を開花させていく。

「……すげえな、あいつ」

グルメア・カーネルという女は、自分が思っていた以上に、とんでもない才能の持ち主なのかもしれない。
マスカルは、自分のパートナーに対する認識を、また一つ新たにするのだった。
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