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『鉄壁の騎士団長、アリア嬢に陥落』
『王子か騎士団長か、令嬢の心を射止めるのは』
あの衝撃的な建国記念舞踏会から数日、王都のサロンはアリアとゼノンに関する甘い(?)噂で持ちきりだった。
当のアリアは、会う人会う人に「あれは団長様の暴走ですわ! 断じて、わたくしの意思ではございません!」と必死に弁明して回ったが、時すでに遅し。
彼女の抗議は、周囲の貴族たちには「まあ、照れ隠しをなさって。可愛らしいこと」としか受け取られず、噂はますます真実味を帯びて広まっていくのだった。
そして、この状況を、公爵令嬢にあるまじき形相で苦々しく見つめている人物がいた。
リリアナ・ローズである。
(なんなのよ、一体……!)
リリアナは自室で、手にした扇をギリギリと音を立てて握りしめた。
アリアの評判を落とそうとすれば、逆に彼女の奇人伝説に箔がつき、注目度が上がる。
エリオット王子は、あの一件以来、どこか上の空で、明らかにアリアのことばかり気にしている。
そして今度は、あの堅物で鳴らしたゼノン騎士団長までが、アリアの「駒」に加わった(ように見える)。
焦りと屈辱で、リリアナの可憐な顔が歪む。
(このままでは、本当にわたくしの居場所がなくなってしまう……!)
彼女は、これまでの回りくどいやり方を捨てより直接的でより確実な方法でアリアに屈辱を与えることを決意した。
「次の夜会……あそこで、アリア・フォン・クライネルトの息の根を、完全に止めてあげるわ」
◇
リリアナの計画は、用意周到に進められた。
まず、クライネルト公爵家に出入りする小間使いの一人を買収し、アリアが次の夜会で着用するドレスの情報を手に入れる。
次に、その情報を元に懇意にしている仕立て屋に裏から手を回した。
「……よろしいですね? 決して、見た目では分からないように。ですが、ダンスで体を大きく捻ったり、腕を上げたりした瞬間に、肩や背中の縫い目が綺麗に裂けるように、細工をしていただきたいの」
仕立て屋に渡された分厚い金袋が、リリアナの計画の邪悪さを物語っていた。
「衆人環視の中、ドレスがはだけて肌を晒す……。公爵令嬢として、これ以上の恥辱はないはずよ。ふふ、ふふふ……!」
リリアナは、アリアが泣き叫びながら会場を逃げ出す姿を想像し恍惚の笑みを浮かべた。
◇
そして、運命の夜会当日。
会場に現れたアリアは、リリアナの筋書き通り、例のドレスを身にまとっていた。
夜空を思わせる深い青色のシルクに、星のように銀糸の刺繍が施された、実に美しいドレスだ。
「まあ、アリア様! なんて素敵なドレスなのでしょう!」
リリアナは、純真無垢な笑顔を浮かべてアリアに駆け寄る。
「ありがとう、リリアナさん。父が新調してくれたのだけれど少し派手すぎやしないかしら?」
アリアはそう言いながらも、まんざらでもない様子でくるりと一回転してみせる。
その動きで、細工された縫い目が微かにきしむのを、リリアナは見逃さなかった。
(かかったわね……!)
リリアナは、心の中で勝利の笑みを浮かべると、取り巻きの令嬢たちに「今夜は、きっと面白いものが見られるわよ」と、意味深に囁いた。
夜会が始まり、優雅なワルツの調べが会場に流れ始める。
いよいよ、計画実行の時だ。
リリアナは、エスコート役であるエリオット王子の腕にそっと手を添えた。
「エリオット様。あちらにいらっしゃるアリア様、今日はお一人で寂しそうですわ」
「……そう、だな」
エリオットの視線が、壁際でデザートのムースを吟味しているアリアへと注がれる。
「よろしければ、ダンスに誘ってみてはいかがかしら? 先日の舞踏会でのこともありましたし、きっと仲直りの良いきっかけになりますわ」
聖女のような微笑みで、リリアナは王子をけしかける。
もちろん、その心の内はアリアが晒すであろう恥を、最高の特等席で王子に見せつけたいという黒い欲望で満ちていた。
「……分かった。少し、誘ってみる」
エリオットは、リリアナの言葉に背中を押され少し緊張した面持ちでアリアの方へと歩き出した。
アリアは、チョコレートムースとベリーのムースどちらを先に食べるべきか、人生最大級の選択を迫られているところだった。
そんな彼女の前に、すっと影が差す。
「アリア」
顔を上げると、そこにはどこかぎこちない表情のエリオットが立っていた。
「……一曲、踊ってはくれないか?」
そう言って、彼は白い手袋に包まれた手を、アリアへと差し出した。
アリアの顔には、(ええー……今からムースのクライマックスですのに…)と、ありありと書いてある。
しかし、王子の申し込みを無下に断るわけにもいかない。
アリアは、後ろ髪を引かれる思いでデザートテーブルに別れを告げると、小さなため息と共に、エリオットの手を取ろうとした。
その瞬間を、リリアナは、遠くからほくそ笑みながら見つめていた。
悲劇の舞台の幕が、今静かに上がろうとしていた。
『王子か騎士団長か、令嬢の心を射止めるのは』
あの衝撃的な建国記念舞踏会から数日、王都のサロンはアリアとゼノンに関する甘い(?)噂で持ちきりだった。
当のアリアは、会う人会う人に「あれは団長様の暴走ですわ! 断じて、わたくしの意思ではございません!」と必死に弁明して回ったが、時すでに遅し。
彼女の抗議は、周囲の貴族たちには「まあ、照れ隠しをなさって。可愛らしいこと」としか受け取られず、噂はますます真実味を帯びて広まっていくのだった。
そして、この状況を、公爵令嬢にあるまじき形相で苦々しく見つめている人物がいた。
リリアナ・ローズである。
(なんなのよ、一体……!)
リリアナは自室で、手にした扇をギリギリと音を立てて握りしめた。
アリアの評判を落とそうとすれば、逆に彼女の奇人伝説に箔がつき、注目度が上がる。
エリオット王子は、あの一件以来、どこか上の空で、明らかにアリアのことばかり気にしている。
そして今度は、あの堅物で鳴らしたゼノン騎士団長までが、アリアの「駒」に加わった(ように見える)。
焦りと屈辱で、リリアナの可憐な顔が歪む。
(このままでは、本当にわたくしの居場所がなくなってしまう……!)
彼女は、これまでの回りくどいやり方を捨てより直接的でより確実な方法でアリアに屈辱を与えることを決意した。
「次の夜会……あそこで、アリア・フォン・クライネルトの息の根を、完全に止めてあげるわ」
◇
リリアナの計画は、用意周到に進められた。
まず、クライネルト公爵家に出入りする小間使いの一人を買収し、アリアが次の夜会で着用するドレスの情報を手に入れる。
次に、その情報を元に懇意にしている仕立て屋に裏から手を回した。
「……よろしいですね? 決して、見た目では分からないように。ですが、ダンスで体を大きく捻ったり、腕を上げたりした瞬間に、肩や背中の縫い目が綺麗に裂けるように、細工をしていただきたいの」
仕立て屋に渡された分厚い金袋が、リリアナの計画の邪悪さを物語っていた。
「衆人環視の中、ドレスがはだけて肌を晒す……。公爵令嬢として、これ以上の恥辱はないはずよ。ふふ、ふふふ……!」
リリアナは、アリアが泣き叫びながら会場を逃げ出す姿を想像し恍惚の笑みを浮かべた。
◇
そして、運命の夜会当日。
会場に現れたアリアは、リリアナの筋書き通り、例のドレスを身にまとっていた。
夜空を思わせる深い青色のシルクに、星のように銀糸の刺繍が施された、実に美しいドレスだ。
「まあ、アリア様! なんて素敵なドレスなのでしょう!」
リリアナは、純真無垢な笑顔を浮かべてアリアに駆け寄る。
「ありがとう、リリアナさん。父が新調してくれたのだけれど少し派手すぎやしないかしら?」
アリアはそう言いながらも、まんざらでもない様子でくるりと一回転してみせる。
その動きで、細工された縫い目が微かにきしむのを、リリアナは見逃さなかった。
(かかったわね……!)
リリアナは、心の中で勝利の笑みを浮かべると、取り巻きの令嬢たちに「今夜は、きっと面白いものが見られるわよ」と、意味深に囁いた。
夜会が始まり、優雅なワルツの調べが会場に流れ始める。
いよいよ、計画実行の時だ。
リリアナは、エスコート役であるエリオット王子の腕にそっと手を添えた。
「エリオット様。あちらにいらっしゃるアリア様、今日はお一人で寂しそうですわ」
「……そう、だな」
エリオットの視線が、壁際でデザートのムースを吟味しているアリアへと注がれる。
「よろしければ、ダンスに誘ってみてはいかがかしら? 先日の舞踏会でのこともありましたし、きっと仲直りの良いきっかけになりますわ」
聖女のような微笑みで、リリアナは王子をけしかける。
もちろん、その心の内はアリアが晒すであろう恥を、最高の特等席で王子に見せつけたいという黒い欲望で満ちていた。
「……分かった。少し、誘ってみる」
エリオットは、リリアナの言葉に背中を押され少し緊張した面持ちでアリアの方へと歩き出した。
アリアは、チョコレートムースとベリーのムースどちらを先に食べるべきか、人生最大級の選択を迫られているところだった。
そんな彼女の前に、すっと影が差す。
「アリア」
顔を上げると、そこにはどこかぎこちない表情のエリオットが立っていた。
「……一曲、踊ってはくれないか?」
そう言って、彼は白い手袋に包まれた手を、アリアへと差し出した。
アリアの顔には、(ええー……今からムースのクライマックスですのに…)と、ありありと書いてある。
しかし、王子の申し込みを無下に断るわけにもいかない。
アリアは、後ろ髪を引かれる思いでデザートテーブルに別れを告げると、小さなため息と共に、エリオットの手を取ろうとした。
その瞬間を、リリアナは、遠くからほくそ笑みながら見つめていた。
悲劇の舞台の幕が、今静かに上がろうとしていた。
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