天才すぎる王子様を愛でるには、婚約者の座は邪魔なのです!

夏乃みのり

文字の大きさ
13 / 28

13

しおりを挟む
「サヴァラン、勝負だ! 俺が勝ったらブリオッシュちゃんを貰っていくぞ!」

翌日。

王宮のサロンに、エクレア殿下の元気な声が響き渡った。

彼はテーブルの上にバン!と足を乗せ(行儀が悪い)、サヴァラン様を指差して宣戦布告をした。

私はその横で、目を輝かせながら拍手を送った。

「いいですわよエクレア殿下! その意気です!」

ついに来た。

この展開を待っていたのだ。

完璧超人のサヴァラン様といえど、遊び慣れた隣国の王子相手なら、不覚を取ることもあるかもしれない。

もし彼が負ければ、「敗北を知った王子」としてプライドが傷つき、自信を喪失し、私との婚約どころではなくなるはず!

「……ふむ」

サヴァラン様は優雅に紅茶を啜りながら、面倒くさそうにエクレア殿下を見上げた。

「勝負? 君と僕で? ……時間の無駄では?」

「逃げるのかい? 天才王子」

「逃げはしないが、弱い者いじめは趣味じゃない」

「言ったなコノヤロー!」

エクレア殿下がキレた。

「いいだろう、俺が得意な『遊び』で勝負だ! これならお前も未経験だろう?」

エクレア殿下が取り出したのは、見たこともない複雑な盤上ゲームだった。

「これは我が国の裏賭博場で流行している『カオス・チェス』だ! ルールは複雑怪奇、運と心理戦がすべての闇のゲームさ!」

「へえ」

「俺はこのゲームで負けなしだ。さあ、座れよサヴァラン。……ブリオッシュちゃん、俺が勝ったら君を連れてガレット王国でハネムーンだ!」

「行ってらっしゃいませ! 全力で応援しますわ!」

私はポンポン(手作り)を振ってエールを送った。

サヴァラン様がジロリと私を見た。

「ブリオッシュ。僕が負けると思っているのかい?」

「思ってませんけど、たまには負けるところも見てみたいというか、挫折を知って人間的に成長してほしいというか!」

「なるほど。僕に『敗北』という経験をプレゼントしたいという、君なりの教育的配慮か」

「そうです!(嘘です)」

サヴァラン様はふっと笑い、席についた。

「分かった。受けて立とう。ただし、僕が勝ったら……」

彼はエクレア殿下に冷ややかな視線を送った。

「即刻、我が国から退去してもらう。二度とブリオッシュに近づかないと誓ってもらおう」

「上等だ!」

ゲームが始まった。

私は固唾を呑んで見守る。

頼むわエクレア殿下。

あなたのその「百戦錬磨の悪知恵」で、堅物王子の鼻をへし折ってやって!

   ◇

開始から五分後。

「……あ、あれ?」

エクレア殿下の額から、滝のような汗が流れていた。

盤面は、どう見てもサヴァラン様の圧勝ムードだ。

「な、なぜだ……! この手は俺のオリジナル戦法……読めるはずが……!」

「単純な確率論だよ」

サヴァラン様はあくびを噛み殺しながら、駒を動かした。

「君の癖、視線の動き、呼吸の乱れ。すべてが情報を発信している。それに、このルールの欠陥をつけば、必勝パターンが3通りほど構築できるね」

「る、ルールの欠陥……!?」

「ここをこうして……はい、チェックメイト」

コトッ。

サヴァラン様が最後の駒を置くと同時に、エクレア殿下の陣営が崩壊した。

瞬殺だった。

「う、嘘だろ……」

エクレア殿下が灰になった。

私はポンポンを取り落とした。

「弱い! 弱すぎますわエクレア殿下! もっと粘ってください!」

「うるさい! こいつがおかしいんだ! 初めて見るゲームを一瞬で解析するなんて、人間じゃねえ!」

エクレア殿下は涙目でテーブルを叩いた。

「次はこれだ! 『ナンパ対決』! 今から街に出て、どちらが多く女性に声をかけられるか勝負だ! 顔の良さと話術なら負けねえ!」

「……はあ。まだやるのか」

   ◇

場所を移して、王都の中央広場。

エクレア殿下は水を得た魚のように、道行く女性たちに声をかけまくった。

「やあ、お嬢さん。君の瞳は宝石より美しいね」

「あら、素敵な殿方……♡」

さすが「愛の狩人」。

次々と女性たちを虜にし、黄色い歓声を浴びている。

「どうだサヴァラン! 今のところ俺が15人リードだ! お前みたいな堅物に、女性の口説き方なんて……」

「……皆さん」

サヴァラン様が、一歩前に出て、ニコリと微笑んだ。

ただそれだけ。

言葉などいらなかった。

その瞬間、広場にいた全女性(とお婆ちゃんと猫)が、バタバタと失神した。

「キャーーーーッ!! サヴァラン様ぁぁぁ!!」

「尊い……! 目が合った……!」

「妊娠する……!」

広場は阿鼻叫喚の嵐に包まれた。

「……」

エクレア殿下が口をパクパクさせている。

サヴァラン様は涼しい顔で私を振り返った。

「人数を数えるまでもないね。この広場にいる全員だ」

「……反則ですわ」

私は頭を抱えた。

個別の口説きとかじゃない。

存在自体が広範囲魅了魔法(チャーム)なのよ、この人。

「くっそおおおおお! まだだ! 次は『芸術対決』だ! 俺のポエムで……」

「却下だ」

サヴァラン様がついに面倒くさくなったのか、冷たく言い放った。

「君との遊びに付き合うほど、僕は暇じゃない。……そろそろ帰ってもらおうか」

「い、嫌だ! ブリオッシュちゃんを連れて帰るまでは……!」

「往生際が悪いな」

サヴァラン様はため息をつき、指をパチンと鳴らした。

すると、影からシトロン様が現れ、大量の書類をエクレア殿下に突きつけた。

「これは……?」

「ガレット王国との通商条約の見直し案だ」

サヴァラン様は悪魔のような笑顔で告げた。

「君がこの国に滞在している間の『滞在費』『迷惑料』そして『僕の婚約者に色目を使った慰謝料』を換算して、関税を300%上乗せさせてもらった」

「さ、さんびゃく……!?」

「嫌なら今すぐ帰国して、お父上(ガレット国王)に泣きつくといい。『隣国の王子にコテンパンにされました』とな」

「……!」

エクレア殿下の顔色が青から白へ、そして透明へと変わっていく。

完全に詰んだ。

論破とか、勝負とか、そういう次元じゃなかった。

国家権力による制裁だった。

「……覚えてろよサヴァラン!」

エクレア殿下は捨て台詞を吐いて、馬車の方へダッシュした。

「ブリオッシュちゃん! 君は最高だったよ! でも俺の財布が死ぬから帰る! アデュー!!」

土煙を上げて去っていく隣国の王子。

私はその背中を、虚しい気持ちで見送った。

「……行っちゃった」

私の「国際的悪女デビュー」のチャンスが。

「さて」

サヴァラン様は私の肩を抱き、満足げに微笑んだ。

「邪魔者は消えた。これでまた、二人きりだね」

「……サヴァラン様」

「ん?」

「あなた、本当に容赦ないですね」

「君を守るためなら、世界中を敵に回しても構わないからね」

彼は私の頬にキスをした。

「それに、彼には感謝しているんだ」

「感謝?」

「ああ。彼のせいで少し嫉妬したおかげで……君への愛がさらに深まった気がする」

「いりません! その深まりいりません!」

サヴァラン様の瞳が、今まで以上に熱っぽく私を捉えている。

逆効果。

またしても逆効果だった。

ライバルをけしかけて破滅させようとしたら、ライバルが瞬殺された上に、私のヒロイン度が上がってしまった。

「さあ、城に戻ろう。今日は君のリクエスト通り、僕が勝った祝いに『敗北を知らない王子の祝賀会』をしようか」

「嫌みですかぁぁぁ!!」

私は泣きながら連行された。

教訓。

『天才に凡人が挑んでも、ただの公開処刑になるだけ』。

そして、『サヴァラン様を怒らせると、国が一つ傾く』。

……もう、私の力ではどうにもならない。

こうなったら、最後の手段。

「断罪イベント」を自作自演するしかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

夫に君も愛人を作ればいいと言われましたので

麻麻(あさあさ)
恋愛
「君も愛人を作ればいい」と夫に言われたので売り言葉に買い言葉で出会った愛人候補は自分が魔法使い伯爵と言いました。 全15話。プロローグから4話まで一挙公開。 翌日からは20時に2話ずつ公開。11日は最終話まで3話一挙公開。 登場人物 マーリン・ダグラス 結婚2年目にして夫の不倫を問い詰めたら黒だった令嬢。母に聞かされた結婚は夫となる人を大事にという言葉を守ってるが夫のギルバートにブチギレてこの度愛人を探すと決める。 デミトリアス・ドラモンドまたはアロン マーリンが仮面舞踏会で知り合った自称魔法使い伯爵。次の日にマーリン好みの執事アロンに姿を変えて彼女の屋敷に来る。 ギルバート・ダグラス マーリンの夫で伯爵。ギルと呼ばれている。愛人を作れば発言をした。 シェリー・モーヴ ギルバートの愛人 エミリー マーリンの親友で既婚者。 ララとリリー マーリンの屋敷のメイド達。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。 だが彼女は泣かなかった。 なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。 教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。 それは逃避ではない。 男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。 やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。 王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。 一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。 これは、愛を巡る物語ではない。 「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。 白は弱さではない。 白は、均衡を保つ力。 白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。

処理中です...