天才すぎる王子様を愛でるには、婚約者の座は邪魔なのです!

夏乃みのり

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「ありえない……ありえないわ……!」

翌朝。

私はベッドの上で、芋虫のように布団にくるまりながら悶えていた。

眠れない。

一睡もできなかった。

目を閉じれば、昨日の光景がフラッシュバックする。

夕日に染まる執務室。

追い詰められた壁際。

そして、サヴァラン様の顔が近づいて――。

『君という予測不能な変数がいないと、僕の人生という数式は完成しないんだ』

そして、あの口づけ。

「きゃあああああああ!!」

私は奇声を上げて枕をボコボコに殴った。

なんなの!?

なんなのよあの殺し文句!

変数? 数式?

凡人の私にはサッパリ意味が分からないけど、とにかく「お前が必要だ」という圧だけは凄まじかった!

「お嬢様。朝からゴリラの求愛行動のような叫び声を上げるのはおやめください」

冷静な声と共に、クロワッサンがワゴンを押して入ってきた。

「ゴリラじゃないわよ! 乙女の悩みよ!」

私は布団から顔だけ出した。

「クロワッサン……聞いて。サヴァラン様が……私を好きだなんて言うのよ」

「はい、存じております」

「『存じております』じゃなくて! おかしいでしょ!? あの天才よ? 神に愛された至高の存在よ? それがなんで私なんかを……」

私は指を噛みながら、昨晩一晩かけて構築した『推論』を披露した。

「いい? これは私の仮説なんだけど……サヴァラン様の『愛している』は、一般的な意味とは違うのよ」

「と、言いますと?」

「天才にとっての『愛』とは、すなわち『興味』! 『観察対象』! もっと言えば『珍獣への執着』よ!」

私は布団を跳ね除けて立ち上がった。

「そうよ、きっとそうに違いないわ! 彼は私が『馬鹿なことをする』のが面白いと言った。つまり、私は彼にとって『毎日新しい芸を見せてくれる猿』と同じなのよ!」

「……ずいぶん卑屈な解釈ですね」

「だってそうでもなきゃ説明がつかないもの! 公爵令嬢としての品位も知性もない私を愛する理由なんて、それしかないわ!」

私は力説した。

サヴァラン様は優しいから、オブラートに包んで「愛」と言ってくれただけ。

本音は「君の行動データを論文にまとめたいから、檻の中にいてくれ」ということに違いない。

「……だとしたら、なおさら婚約破棄しなきゃいけないわ!」

「なぜそうなるのですか」

「だって、そんなの研究対象として弄ばれるだけじゃない! 私は人間としての尊厳を守りたいの! そして何より、彼には『まともな人間』と結婚して幸せな家庭を築いてほしいの!」

私は拳を握りしめた。

「珍獣飼育員としての人生なんて、サヴァラン様にはふさわしくないわ!」

クロワッサンは、淹れたての紅茶を私に差し出しながら、呆れたように言った。

「お嬢様。……殿下が聞いたら、泣いて喜ぶか、あるいはブチ切れて監禁生活に突入するかの二択ですよ」

「ひっ」

想像して震えた。

サヴァラン様の監禁は、シャレにならないくらい快適(お菓子食べ放題・漫画読み放題)で、二度と出られなくなる可能性がある。

「とにかく! 言葉での説得は不可能だと分かったわ。論理で攻めても、彼の『天才的屁理屈』でねじ伏せられるだけよ」

私はマカロンを一口で食べた。

「ならば、次は『生理的嫌悪感』に訴えるしかないわ」

「生理的嫌悪感?」

「そう。理屈抜きで『うわっ、無理』と思わせるのよ。……たとえば、見た目とか!」

私はドレッサーの前に座り、鏡の中の自分を睨みつけた。

今までは「性格の悪さ」をアピールしてきた。

でも、中身がダメなら外見だ。

「次の夜会……そこが勝負よ」

一週間後には、建国記念の祝賀パーティーがある。

国内外の要人が集まる、一年で最も格式高いイベントだ。

「そこで私は、貴族社会の常識を覆す、とんでもなくハレンチで、下品で、見るに堪えない格好をしていくわ!」

「……まさか、全裸で?」

「捕まるわよ! ギリギリのラインを攻めるのよ!」

私はクロワッサンに指示を出した。

「クロワッサン、特注のドレスを発注して。……生地は『肌色』よ」

「肌色、ですか?」

「そう。遠目に見たら『えっ、あの人着てない!?』と錯覚するような、ヌーディーカラーの生地! それをボディラインぴったりのタイトドレスにするの!」

名付けて、『裸の王様ならぬ、裸の悪役令嬢作戦』!

サヴァラン様がいかに私を「面白い」と思っていても、公衆の面前で「裸に見える婚約者」を連れて歩く恥ずかしさには耐えられないはず。

「『君とは一緒に歩けない』。そう言わせてみせるわ!」

「……お嬢様。それ、逆に殿下の性癖に刺さったらどうするんですか?」

「刺さるわけないでしょ! あの人は清廉潔白な王子様よ!? 露出狂の女なんて軽蔑対象の筆頭よ!」

私は自信満々だった。

だって、サヴァラン様はいつもキッチリとした服装をしているし、乱れた姿なんて見たことがない。

きっと彼は、貞淑で慎み深い女性が好みなはずだ(という私の勝手な妄想)。

「急いで手配して! デザイナーには『限界まで攻めてください』と伝えて!」

「……承知しました。後で後悔しても知りませんよ」

クロワッサンは淡々とメモを取り、部屋を出て行った。

残された私は、鏡に向かってニヤリと笑った。

「ふふふ……見ていなさいサヴァラン様。今度こそ、あなたの度肝を抜いて、生理的に無理って言わせてやるんだから!」

天才王子の論理(ロジック)を破壊するのは、いつだって凡人の狂気(パッション)だ。

私は自分の立てた作戦に陶酔していた。

……まさか、その「肌色ドレス」が、サヴァラン様の斜め上の対策によって、とんでもない「ペアルック」になるとも知らずに。

私の戦いは、いよいよビジュアル面での攻防戦へと突入する。

愛の告白?

そんなの、私の「推し活(婚約破棄活動)」の前では無力なのよ!

(でも、思い出すとやっぱり顔が熱いので、とりあえず冷たい水を浴びてくることにした)
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