婚約破棄前におバカな王子たちを根性叩き直しコースに強制入会

夏乃みのり

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「リコ・ド・モンフォール! 君との婚約を破棄させてもらう!」

王城の輝かしい中庭、大輪の薔薇が咲き誇るその中心で、レオン王子が声を張り上げた。

その傍らには、男爵令嬢のマリエッタが、まるで壊れ物を扱うかのように王子の腕にしがみついている。

「……はあ」

「はあ、とは何だ! もっと驚くとか、絶望して泣き崩れるとかあるだろう!」

リコは深いため息をつき、手元の扇子をパチンと閉じた。

「驚く要素がどこにありますの? その締まりのない顔と、隣にいる『ピンクのふわふわした何か』を見ていれば、サルでも予想がつきますわ」

「なっ、ふわふわした何かとは失礼な! 彼女はマリエッタ、私の真実の愛だ!」

「そうです、リコ様! 愛に身分なんて関係ありませんわ! 私たちは心で結ばれているんです!」

マリエッタが頬を赤らめ、王子の胸に顔を埋める。

リコは冷めた目でその光景を眺め、ゆっくりと歩み寄った。

「愛、ねえ。マリエッタさん、あなたに聞きますけれど、昨日の夕食は何を食べましたの?」

「えっ? ええと、王宮のシェフが作ってくださった、最高級の鴨のコンフィですけど……それが何か?」

「そのコンフィ一皿に、平民の年収の何分の一が費やされているか、計算したことはありますの?」

「計算? そんなの、愛があれば関係ありませんわ!」

リコは額に手を当て、天を仰いだ。

「レオン様。これ、ダメですわ。完全に使い物になりません」

「使い物にならないとはどういう意味だ! マリエッタは純粋なんだ!」

「純粋を免罪符に、無知を正当化しないでくださいませ。王子。あなたが今着ているその服、そのボタン一つで、どれだけの領民が冬を越せると思っていらして?」

レオン王子は一瞬言葉に詰まったが、すぐに胸を張った。

「そんなの、財務官に任せておけばいいことだ! 私は王として、愛する人と共に国を導く!」

「財務官もストライキを起こしますわよ、こんなバカな主君を持てば。いいですか、お二人さん」

リコは一歩、また一歩と距離を詰める。その圧倒的な威圧感に、王子とマリエッタは思わず後ずさった。

「婚約破棄、結構ですわ。むしろ、こんな不良債権を押し付けられる未来が消えて、清々します。ですが、一点だけ問題があります」

「な、なんだ。慰謝料か? 金ならいくらでも――」

「金、金って、あなたの個人資産はすでに昨年の馬券購入で底を突いているはずですけれど? 今あなたが言っているのは『国民から巻き上げた税金』のことでしょう?」

レオン王子の顔がみるみる青ざめていく。

「問題というのは、あなたたちがこのまま結婚して、この国を継ぐことですわ。今のあなたたちは、火のついた松明を持って火薬庫でダンスを踊るくらい、救いようのないおバカさんです」

「バ……バカだと言ったのか! 私は王子だぞ!」

「そうですわ、リコ様! あんまりです! 愛は魔法なんです! 愛があれば、どんな困難も乗り越えられるって、本に書いてありましたわ!」

リコはマリエッタの目の前で扇子を突きつけた。

「本の中の王子様は、税金の使い道に悩んだり、干ばつの対策にハゲたりしませんものね。現実を見なさい。あなたたちが愛だの恋だのと浮かれている間に、隣国は虎視眈々とこの国の領土を狙っています。そんな時に、お花畑な国王夫妻が誕生してみなさい。この国、三日で滅びますわよ」

「三日……!? そんなはずがあるか!」

「ありますわ。私があなたの婚約者として、裏でどれだけの不祥事を揉み消し、どれだけの書類を代わりに片付けてきたか、理解していらっしゃらないのね」

リコは一度言葉を切り、不敵な笑みを浮かべた。

「決めましたわ。私、あなたたちとの婚約破棄を受諾する前に、やらなければならないことができました」

「……何をするつもりだ」

レオン王子が震える声で尋ねる。

「更生ですわ。あなたたちがあまりにも無能なまま放り出されるのは、この国の損失です。ですから、私が直々に叩き直して差し上げます」

「叩き直す……?」

「ええ。今日から、あなたたちの『愛』を試すための、特別カリキュラムを開始します。まずは、そうですね。セバス!」

リコの背後から、影のように一人の老執事が現れた。

「お呼びでしょうか、お嬢様」

「このお二人を、地下の特設訓練室へ。あ、ドレスと礼服は脱がせてください。今日から平民の麻袋みたいな服がお似合いですから」

「承知いたしました」

「なっ、何をする! 離せ! 私は王子だぞ!」

「リコ様、乱暴ですわ! 愛の力で私は屈しません!」

喚き散らす二人を、セバスが慣れた手つきで(物理的に)制圧していく。

リコは中庭に散った薔薇の花びらを踏みしめ、空を見上げた。

「……前世がどうとか、運命がどうとか、そんな軟弱な理由で国を傾けられてたまるもんですか」

ふと口を突きかけた言葉を飲み込み、彼女は唇を噛む。

そんな非科学的な話に逃げるのは、弱者のすることだ。彼女は現実に生きる悪役令嬢であり、そして誰よりもこの国の未来を憂えるリアリストなのだ。

「さあ、おバカさんたちの悲鳴を聞きに行きましょうか。まずは『一円の重みを知る、パンの耳争奪戦』からね」

リコの瞳には、サディスティックで、それでいて慈愛に満ちた(?)輝きが宿っていた。
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