婚約破棄前におバカな王子たちを根性叩き直しコースに強制入会

夏乃みのり

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「……何ですの、この薄汚い箱は。リコ様、冗談が過ぎますわ!」

王城の地下、かつては備蓄庫として使われていた石造りの小部屋。

そこに放り込まれたマリエッタが、麻袋を改造したような粗末な服の裾を震わせながら叫んだ。

「冗談? 失礼ね。私はいつだって真面目ですわ。ここは今日からあなたたちが過ごす『愛の巣』です。素敵でしょう?」

リコは部屋の入り口に立ち、優雅に扇子を動かした。

部屋にあるのは、ゴワゴワした藁の詰まったベッドが二つと、ガタつく木製のテーブル。

そして、隅に置かれた古びた水瓶だけだ。

「リコ! いくら君でも、王族をこのような場所に監禁するなど許されると思っているのか!」

レオン王子が、これまた麻袋ルックで憤慨している。

普段は金糸銀糸で刺繍された礼服に身を包んでいる彼だが、今はただの「顔がいいだけの不審者」にしか見えない。

「監禁だなんて人聞きの悪い。これは『王配および王妃になるための特別合宿』ですわ。セバス、彼らに本日の夕食を」

「はっ。こちらにございます」

セバスが銀のトレイに乗せて持ってきたのは、カチカチに乾燥したパンの耳が一切れと、しなびたジャガイモが一個。

それをテーブルの上にコトリと置く。

「……えっ、これだけ? 前菜は? メインのローストビーフはどこですの?」

マリエッタが絶望的な表情でトレイを見つめる。

「マリエッタさん。あなたは先ほど、愛があれば身分なんて関係ない、愛がすべてを解決するとおっしゃいましたわね」

リコは冷徹な笑みを浮かべ、机の上のパンの耳を指差した。

「そのパンの耳は、王宮の厨房で捨てられるはずだったものです。ですが、街の貧困層にとっては、これ一つが今日を生き延びるための全財産になることもあります」

「そんなの、私たちが知る必要はありませんわ! 私たちは選ばれた人間なのですから!」

「選ばれた人間、ねえ。誰に選ばれたのかしら? 神様? それとも、血を流して税を納めている国民?」

リコの言葉に、レオン王子が顔を赤くして反論する。

「税など、国を維持するために民が払うのは当然だろう! 私たちは彼らを保護しているのだ!」

「では王子、質問です。その『当然の税』で買ったパンの耳一切れを、あなたは自分で稼ぐことができますの?」

「稼ぐ……? 私がか?」

「ええ。今日から一週間、あなたたちの食事はすべて『労働の対価』として支給されます」

リコがパチンと指を鳴らすと、セバスが山積みの書類と掃除道具を持ってきた。

「まずは第一関門。その部屋の床を、素手でピカピカに磨き上げること。そして、王子。あなたにはこの領地報告書の誤字脱字チェックを命じます。マリエッタさんは、王城で使う雑巾の縫い合わせを百枚」

「なっ、何故私がそんな下女のような真似を!」

「嫌なら食べなくて結構ですわよ。愛さえあれば、空腹なんて感じないのでしょう?」

リコは挑戦的な目で二人を見据えた。

「ああ、言い忘れましたけれど。ノルマが達成できなかった場合、明日の朝食も『抜き』になります。飲み水だけは差し上げますわ。私は慈悲深いので」

「リコ、君は狂っている! こんなことをして、父上たちが黙っていると思うなよ!」

「国王陛下なら、先ほど私の父が説得……いえ、『真実』を突きつけておきましたわ。『息子さんをこのまま放っておけば、我が家は婚約を解消するだけでなく、全財産を引き揚げて隣国へ亡命します』と」

「……なっ!?」

レオン王子の顔が、今度こそ真っ白になった。

モンフォール公爵家はこの国の経済の要。彼らが亡命すれば、国庫は文字通り空っぽになる。

「さあ、お喋りの時間は終わりです。セバス、鍵を」

「かしこまりました」

鉄格子がガチャンと重々しい音を立てて閉まる。

「待って! リコ様! マリエッタ、お腹が空いて死んじゃいます!」

「愛の力で光合成でもなさったら? ごきげんよう」

リコは冷たく言い放ち、背を向けて歩き出した。

石造りの廊下に、彼女のヒールの音がコツコツと響く。

「……お嬢様。少々やりすぎではございませんか?」

セバスが小声で尋ねる。

「これでも手ぬるいくらいよ。あの二人は、自分が食べているパンがどこから来ているのかさえ想像したことがない。想像力のない人間がトップに立てば、その下で死ぬのは常に弱者なのよ」

「左様でございますね。しかし、あの王子様が報告書の誤字を見つけられるとは到底思えませんが」

「いいのよ。一晩中目を皿にして文字を追えばいいわ。自分がどれだけ無能かを知る。それが教育の第一歩なんだから」

リコは扇子で口元を隠し、ふふっと小さく笑った。

その笑みは、悪役令嬢としての愉悦か、それとも国を救おうとする執念か。

地下室からは、王子の絶叫とマリエッタの泣き声が漏れ聞こえていた。
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