婚約破棄前におバカな王子たちを根性叩き直しコースに強制入会

夏乃みのり

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「……はぁ。もう、マリエッタの頭が、数字のパレードで爆発しそうですわ……」

王宮の書庫。マリエッタは、目の前に広げられた領地の家計簿と格闘していた。

これまでリコに叩き込まれた「現実」を直視するため、彼女は毎晩、王子の食事代と領民のパン代の差額を計算させられている。

「何を弱音を吐いていますの。まだたったの十ページ分ではありませんか」

リコは対面で優雅に書類に目を通しながら、冷たく言い放った。

「だって、リコ様! この『端数』というやつが、マリエッタに嫌がらせをしてくるんですの! 銅貨三枚だの、銀貨の欠片だの……ああっ、もう! これならいっそ、全部丸めて金貨一枚にしてしまえばよろしいのに!」

「そんな乱暴なことをしたら、国が破綻しますわよ」

リコが呆れたように溜息をついた、その時だった。

「……あ、でも。この『修繕費』の項目、おかしくありませんこと?」

マリエッタが、ふとペンを止めて一箇所の数字を指差した。

「おかしい? 何がですの」

「ええと、ここにある『石材の購入費』と、三ページ前の『運搬路の整備費』。あと、先月の『人足への賃金』を合わせると……。合計で、銀貨四百二十三枚と銅貨八枚になるはずですわ。でも、この請求書の合計は……四百六十枚になっていますわよ?」

リコは目を見開き、マリエッタの手元を覗き込んだ。

「……ちょっと待ちください。セバス、算盤を」

「はっ。ただいま」

セバスが即座に計算を開始する。数十秒後、セバスの動きが止まった。

「……お嬢様。マリエッタ様の仰る通りです。中間に不自然な上乗せがございますな。これは……裏金、あるいは計算ミスを装った着服の可能性があります」

「マリエッタさん。あなた、今……暗算でやりましたの?」

リコが鋭い視線を向けると、マリエッタはキョトンとして首を傾げた。

「えっ? ええ。だって、数字を見ていると、なんだかパズルのピースみたいに勝手に組み合わさっていくんですもの。ふわふわーっと浮かんできて、ピタッとハマる感じですわ」

リコは一瞬沈黙し、それからマリエッタの前に別の分厚い帳簿をドサリと置いた。

「……これを。この三カ月分の市場価格の変動表と、物流の記録をすべて照らし合わせてちょうだい」

「ええぇぇ!? そんなの、マリエッタの可愛いお目々が回ってしまいますわ!」

「いいからやりなさい! 三十分以内に終わったら、明日のティータイムのお菓子を三倍にしてあげますわ!」

「三倍!? マリエッタ、やりますわ! 数字のパズル、ドンと来いですわよ!」

それからのマリエッタは、別人のようだった。

ペンを走らせることもなく、ただページをめくる指先が止まらない。時折「あ、ここズレてる」「これは無駄ですわね」と呟きながら、凄まじい速度で情報を処理していく。

「……終わりましたわ! リコ様、三倍のお菓子、約束ですわよ!」

「……セバス、確認を」

「……信じられません。すべて、正確です。それどころか、最も効率的な予算配分の代替案まで、走り書きでメモされていますな」

セバスの報告を聞き、リコは椅子から立ち上がった。

そして、驚愕で固まっている自分を律し、マリエッタの肩を強く掴んだ。

「マリエッタさん。あなた……自分が何者か、理解していらして?」

「えっ? マリエッタは、レオン様を愛するフワフワな美少女ですわ!」

「いいえ。あなたは、この国の腐りきった財政を切り裂く、最強の『計算機(電卓)』ですわ!」

「で、でんたく……? なんだか、可愛くない響きですわね……」

「黙りなさい! これほどの才能がありながら、今まで『お花畑』で遊んでいたなんて……! 天賦の才の持ち腐れもいいところですわ!」

リコの瞳に、これまでにない邪悪……もとい、建設的な野心の光が宿った。

「決めましたわ。レオン様には『武力』と『指導力』を。そしてマリエッタ、あなたにはこの国の『財布』を握ってもらいますわよ」

「ええぇぇ!? マリエッタ、お財布なんて重いもの持ちたくありませんわ! レオン様の腕だけを掴んでいたいのに!」

「財布を制する者が、愛を制するんですのよ! いいですか、マリエッタ。あなたが数字を支配すれば、レオン様がどれだけ無駄遣いしても、あなたがそれを魔法のように補填できるようになる。……これこそ、究極の愛の形ではありませんこと?」

「究極の、愛……! レオン様の無駄遣い、マリエッタが全部チャラに……! リコ様、マリエッタ、やりますわ! 数字の女王になりますわ!」

単純すぎるヒロインの反応に、リコは心の中でガッツポーズを作った。

「……セバス。教育プランを全面的に書き換えなさい。マリエッタさんには、明日から『高等数学』と『国家予算編成』の特訓を。……フフ、これでようやく、レオン様の横に置く『中身』が固まってきましたわね」

リコは窓の外、相変わらず泥にまみれて剣を振るっているレオン王子を眺めた。

「……王子。あなた、奥様に頭が上がらなくなる日が、もうすぐそこまで来ていますわよ」

リコの不敵な笑い声が、書庫に響き渡った。
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