婚約破棄前におバカな王子たちを根性叩き直しコースに強制入会

夏乃みのり

文字の大きさ
18 / 28

18

しおりを挟む
舞踏会のバルコニー。きらびやかな会場の喧騒から少し離れたその場所に、マリエッタは令嬢たちに囲まれていた。

「あら、マリエッタ様。今日は随分と立派なドレスをお召しですこと。……公爵家からの借り物かしら?」

扇子で口元を隠し、クスクスと笑うのはローゼマリー伯爵令嬢だ。彼女の取り巻きたちも、さげすむような視線をマリエッタに投げかける。

「いいえ、ローゼマリー様。これはモンフォール公爵家が私の『将来の配当』を見越して先行投資してくださったものですわ」

マリエッタは、リコ直伝の「隙のない微笑」を浮かべて答えた。

「先行投資? ふふっ、笑わせないで。男爵家の娘が王子をたぶらかしたところで、この国の社交界では『寄生虫』と呼ばれるのが関の山よ。……ねえ、皆様?」

「そうですわ。愛だの恋だのと言えば、何でも許されると思っているのかしら。お里が知れますわね」

取り巻きたちが一斉に冷ややかな声を浴びせる。

かつてのマリエッタなら、ここで涙を浮かべて「そんなことありませんわ!」と叫んでいただろう。

だが、今のマリエッタの脳内では、彼女たちの実家の「ある数値」が急速に組み上がっていた。

「……ローゼマリー様。そんなに私のドレスを気にされる暇があるのなら、ご自身の実家の『宝石購入費』を見直された方がよろしいのでは?」

「……何ですって?」

ローゼマリーの眉がピクリと動く。

「先月の王都の税務記録を拝見しましたけれど。ローゼマリー様のお父様、領地の凶作で減税申請を出していらっしゃいましたわよね? それなのに、今あなたが首にかけていらっしゃるそのネックレス……市場価格で銀貨八百枚は下らないはず。おかしいですわね?」

マリエッタは一歩、また一歩と距離を詰める。

「減税申請を出しておきながら、贅沢品の購入。これは『虚偽申告による脱税』の疑いがありますわ。……もし私がこの場で計算式を叫んだら、明日には騎士団があなたの屋敷を監査に訪れることになりますけれど?」

「な、な……っ!? 何をデタラメを!」

「デタラメではありませんわ。あなたの家が昨年に輸入した絹の量と、領地で生産された羊毛の比率を考えれば、現在の収支が赤字であることは明白。……ねえ、今すぐこの場で、あなたの家の倒産確率を算出して差し上げましょうか?」

マリエッタが懐からスッと取り出したのは、リコに特注で作らせた「計算用小型手帳」だった。

「ひっ……! や、やめなさい! なんて下品な女なの……数字の話ばかりして!」

「下品なのは、払うべきものを払わずに着飾ることですわ。……あ、そちらのソフィア様。あなたのお父様が秘密裏に購入した『隣国の別荘』の登記。……お母様はご存知かしら?」

「えっ……お父様が、別荘を……!? 知らないわ、そんなの!」

ソフィアと呼ばれた令嬢が顔を真っ青にする。

「あら、ご存知ない? 不透明な資金移動の形跡がありましたの。……愛があれば隠し事も許されるのかしら? それとも、私に詳しく調査してほしい?」

「い、いやぁぁー! もういいわよ! 行きましょう、皆様! この女、狂っているわ!」

令嬢たちは、蜘蛛の子を散らすようにバルコニーから逃げ出していった。

静寂が戻ったバルコニーに、パチン、と扇子を閉じる音が響いた。

「……マリエッタ。今の返し、九十分ですわ」

柱の陰から、リコが優雅に姿を現した。

「リコ様! 見ていらしたんですのね! マリエッタ、おじ様たちの秘密を暴くの、とってもスッキリしましたわ!」

「九十分の理由は、『倒産確率』を算出する前に、相手の家の『負債額』を耳元で囁くべきだったからですわ。その方が、より絶望感を与えられたでしょう?」

「なるほど! 次はそうしますわ! 絶望こそが、真の教育ですものね!」

マリエッタがキラキラとした笑顔で、恐ろしいことを口にする。

リコはそんなマリエッタの頭を、少しだけ優しく撫でた。

「いいわ、その意気よ。……セバス、今のやり取りを記録しておきなさい。明日、あの令嬢たちの実家に『経営コンサルタント』を派遣して、我が公爵家の傘下に収める準備を」

「承知いたしました、お嬢様。……マリエッタ様、素晴らしい『集金能力』でございますな」

セバスが深々と頭を下げる。

「ふふっ、愛するレオン様のために、まずは社交界の『毒』を一掃して、公爵家の資金源に変えて差し上げますわ!」

リコは、もはや「教育」を通り越して「軍師」になりつつあるヒロインを見つめ、不敵に微笑んだ。

「さあ、お遊びはここまでよ。……そろそろ、仕上げの段階に入りましょうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

処理中です...