婚約破棄前におバカな王子たちを根性叩き直しコースに強制入会

夏乃みのり

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「……はぁ。ようやく、毒蛇たちの巣窟から解放されましたわね」

舞踏会の喧騒が遠のいた深夜。王宮の静かなバルコニーで、マリエッタはドレスの裾を軽く持ち上げ、ふぅと深い息を吐き出した。

その隣では、レオン王子が手すりに寄りかかり、ぐったりとした様子で夜風を浴びている。

「……マリエッタ。私は今日、人生で初めて『言葉の刃』で人を斬った気がするよ。……ギルバート伯爵があんなに情けない顔で逃げ出すなんて、想像もしていなかった」

「レオン様、それはあなたが『正論』という名の武器を手に入れたからですわ。……あのおじ様の顔面蒼白度は、マリエッタの計算によれば、過去三年間の赤字決算を突きつけられた時とほぼ同等でしたわね」

マリエッタは、月明かりの下でパチリとウィンクをしてみせた。

かつての「ふわふわとした、中身のない可愛さ」はそこにはない。今の彼女は、自分の知性を自覚し、それを楽しむことさえ覚えた、凛とした美しさを放っている。

「……リコは、これを狙っていたんだろうな。私たちがただの飾り物ではなく、自分たちの足で立ち、国を守るための『牙』を持つことを」

レオン王子が、遠くの街明かりを見つめながら呟いた。

「牙、ですか……。なんだか、リコ様に『猛獣』として飼い慣らされている気がしなくもありませんけれど。……でも、悪くないですわ。誰かに守られるだけのお人形より、計算機を片手に国を動かす方が、ずっと刺激的ですもの!」

二人の会話を、少し離れた柱の影で聞いていたリコは、そっと扇子を畳んだ。

「……ふん。ようやく、猛獣使いの苦労が報われ始めましたわね」

「お嬢様。口ではそう仰いながら、先ほどから口角が上がっておりますぞ。……まるで、我が子が初めて歩いたところを見届けた親のような顔をしていらっしゃいます」

背後から音もなく現れたセバスが、皮肉まじりに囁く。

「失礼ね、セバス。私はただ、自分の『作品』が思い通りに仕上がっていくのを愉しんでいるだけよ。……あのおバカさんたちが、まさか一ヶ月でここまで『使える』ようになるとは、私の計算でも数パーセントの誤差があったわ」

リコは、バルコニーで親密そうに、しかしどこか戦友のような空気感で語り合う二人を見つめた。

「レオン様は、自分の権威がどこから来ているかを理解した。そしてマリエッタは、自分の愛が『数字』という裏付けなしには成立しないことを悟った。……これで、少なくとも隣国に食い物にされるような未来は回避できましたわ」

「左様でございますな。……しかしお嬢様。彼らの成長は、お嬢様の『婚約者』としての立場を危うくするものではありませんか?」

セバスの問いに、リコは冷徹な、だがどこか晴れやかな笑みを浮かべた。

「危うくなる? 逆よ、セバス。これでようやく、私は彼らを『支配者』として最前線に放り出し、自分は悠々自適の隠居生活……いえ、影の支配者として優雅に暮らせる道が開けたのよ」

リコは、夜空に浮かぶ月を指差した。

「婚約破棄? 結構ですわ。私が育て上げた完璧な王と王妃が、私の足元で平伏しながら『リコ様、次はこの予算をどうすればよろしいでしょうか』と泣きついてくる。……それこそが、私の描く最高の復讐であり、最高の愛の形だと思いませんこと?」

「……お嬢様。あなたはやはり、この国で一番の『悪役』でございますな」

セバスが深々と頭を下げる。

「褒め言葉として受け取っておきますわ。……さて、お喋りはここまでよ。中間試験は合格。……ですが、これからが本番ですわよ」

リコは、バルコニーの二人に向かって、わざとらしくヒールの音を響かせて歩み寄った。

「あら、お二人さん。月夜のデートにしては、会話の内容が随分と世知辛いようですわね?」

「リ、リコ様!」

「リコ! 見ていたのか!?」

驚いて飛び上がる二人。リコは、彼らの反応を楽しみながら、指示棒でレオンの胸をトンと突いた。

「いいですわ。一晩だけは、その『やり遂げた感』に浸らせてあげましょう。……ですが、明日からは第5章、『本当の愛を見つける修行』に入りますわよ。……覚悟はできていまして?」

「「……はいっ!!」」

二人の返事は、一ヶ月前とは比較にならないほど力強く、そして揃っていた。

リコは月明かりの中で、美しく、そして誰よりも邪悪に微笑んだ。

「よろしい。……さあ、セバス。明日のための『地獄の野外実習』の準備を。……あのおバカさんたちの、本当の『根性』を試して差し上げましょう」
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