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「……ああっ、素晴らしい朝ですわ! レオン様、見てください。今日の王都の空気は、昨日よりも二パーセントほど清浄に感じられますわ!」
王宮のテラス。マリエッタが、朝日を浴びながら手元の魔導計算機をパチパチと叩いた。
「ああ、マリエッタ。清浄なのは空気だけじゃない。汚職貴族という名の『不純物』が取り除かれたおかげで、私の視界もかつてないほどクリアだ」
レオン王子は、以前の締まりのない顔が嘘のように、引き締まった表情でコーヒーを啜る。
かつて「お花畑」と揶揄された二人の間には、今や甘い囁きなど存在しない。あるのは、今日一日のタスク表と、国家予算の進捗確認だけである。
「……お二人さん。朝から随分と、優雅な『現実逃避』をなさっているようですわね?」
扉が音もなく開かれ、黒いドレスを完璧に着こなしたリコが、指示棒を手に現れた。
「「リ、リコ様(リコ)!」」
二人が反射的に直立不動の姿勢を取る。その動きのキレは、もはや一流の近衛騎士すら凌駕していた。
「リコ、逃避などしていない! 私は今、昨夜の閣議で決まった『関税の特別控除案』を脳内で反芻していたところだ!」
「マリエッタもですわ! 王宮の食費をさらに五パーセント削るために、卵の自家養鶏プランを練っておりましたの!」
「ふん。口だけは達者になりましたわね。……セバス、例のものを」
リコの背後に控えていたセバスが、恭しく二人の前に「新たな厚さ二十センチの書類」を置いた。
「……えっ。リコ様、これ、なんですの? まさか……また計算ドリル?」
マリエッタの顔が、期待と恐怖で引きつる。
「いいえ。それは、来月行われる『隣国との平和維持経済同盟』の主導権を握るための、全二百ページの戦略計画書ですわ。……これ、三日以内に丸暗記して、私にプレゼンしなさい。噛んだらその場で、あなたの自家養鶏プランと一緒に、朝食を抜きにしますわよ?」
「さん、三日で二百ページ……!? リコ、いくらなんでもそれは……」
レオンが絶望の声を上げるが、リコの鋭い眼光に即座に飲み込まれた。
「あら。かつて私に『婚約破棄』を突きつけようとした、あの頃の勇気はどこへ行ったのかしら? あの時のような『根拠のない自信』を、少しは今の実力に回してはいかが?」
「……う、うぐっ。……わかった、やる! やればいいんだろう!」
「マリエッタも、やりますわ! リコ様に『及第点』と言わせるまで、寝るのを予算の無駄として削ってみせますわ!」
「いい意気込みですわ。……さて、陛下も仰っていましたわよ。あなたたちの婚約、正式に『保留』のままで継続することに決まりましたわ」
リコは、窓から見える広大な城下町を眺めた。
「保留……? 白紙になったのではないのか?」
「当然でしょう。あなたたちが一人前になって、私の手を煩わせなくなるまで……つまり、死ぬまで私はあなたたちの『教育』を辞めるつもりはありませんわ」
リコは不敵に微笑み、指示棒で二人を交互に指した。
「婚約破棄なんていう下らない逃げ道、私が塞いで差し上げましたの。……さあ、愛する二人で、地獄の果てまでこの国を磨き上げなさいな」
「……リコ。君は本当に、最高の悪役……いや、最高の『教育ママ』だな」
レオンが苦笑いしながら書類を手に取る。
「愛していますわ、リコ様! マリエッタ、あなたの鞭がないと、もう生きていけない体になってしまいましたわ!」
「……不謹慎なことを言うのはおやめなさい。ほら、計算を始めなさいな」
リコは扇子で口元を隠し、ふふっと小さく笑った。
かつての「悪役令嬢」は、今やこの国の運命を握る「最強の演出家」となった。
その背中を、セバスが誇らしげに、そしていつもの皮肉を込めて見つめていた。
「……お嬢様。これでは、お嬢様が引退して楽をする日は、永遠に来そうにありませんな」
「あら。無能を育てる楽しみを知ってしまった以上、一生働き通すのも悪くありませんわ。……さて、セバス。次のメニューの準備を。……あのおバカさんたちが泣いて喜ぶような、最高にハードなやつをね?」
朝日が昇る王宮に、リコの凛とした声と、二人の必死な計算機の音が響き渡る。
「愛」と「鞭」に満ちた、彼女たちの新しい物語は、まだ始まったばかりであった。
王宮のテラス。マリエッタが、朝日を浴びながら手元の魔導計算機をパチパチと叩いた。
「ああ、マリエッタ。清浄なのは空気だけじゃない。汚職貴族という名の『不純物』が取り除かれたおかげで、私の視界もかつてないほどクリアだ」
レオン王子は、以前の締まりのない顔が嘘のように、引き締まった表情でコーヒーを啜る。
かつて「お花畑」と揶揄された二人の間には、今や甘い囁きなど存在しない。あるのは、今日一日のタスク表と、国家予算の進捗確認だけである。
「……お二人さん。朝から随分と、優雅な『現実逃避』をなさっているようですわね?」
扉が音もなく開かれ、黒いドレスを完璧に着こなしたリコが、指示棒を手に現れた。
「「リ、リコ様(リコ)!」」
二人が反射的に直立不動の姿勢を取る。その動きのキレは、もはや一流の近衛騎士すら凌駕していた。
「リコ、逃避などしていない! 私は今、昨夜の閣議で決まった『関税の特別控除案』を脳内で反芻していたところだ!」
「マリエッタもですわ! 王宮の食費をさらに五パーセント削るために、卵の自家養鶏プランを練っておりましたの!」
「ふん。口だけは達者になりましたわね。……セバス、例のものを」
リコの背後に控えていたセバスが、恭しく二人の前に「新たな厚さ二十センチの書類」を置いた。
「……えっ。リコ様、これ、なんですの? まさか……また計算ドリル?」
マリエッタの顔が、期待と恐怖で引きつる。
「いいえ。それは、来月行われる『隣国との平和維持経済同盟』の主導権を握るための、全二百ページの戦略計画書ですわ。……これ、三日以内に丸暗記して、私にプレゼンしなさい。噛んだらその場で、あなたの自家養鶏プランと一緒に、朝食を抜きにしますわよ?」
「さん、三日で二百ページ……!? リコ、いくらなんでもそれは……」
レオンが絶望の声を上げるが、リコの鋭い眼光に即座に飲み込まれた。
「あら。かつて私に『婚約破棄』を突きつけようとした、あの頃の勇気はどこへ行ったのかしら? あの時のような『根拠のない自信』を、少しは今の実力に回してはいかが?」
「……う、うぐっ。……わかった、やる! やればいいんだろう!」
「マリエッタも、やりますわ! リコ様に『及第点』と言わせるまで、寝るのを予算の無駄として削ってみせますわ!」
「いい意気込みですわ。……さて、陛下も仰っていましたわよ。あなたたちの婚約、正式に『保留』のままで継続することに決まりましたわ」
リコは、窓から見える広大な城下町を眺めた。
「保留……? 白紙になったのではないのか?」
「当然でしょう。あなたたちが一人前になって、私の手を煩わせなくなるまで……つまり、死ぬまで私はあなたたちの『教育』を辞めるつもりはありませんわ」
リコは不敵に微笑み、指示棒で二人を交互に指した。
「婚約破棄なんていう下らない逃げ道、私が塞いで差し上げましたの。……さあ、愛する二人で、地獄の果てまでこの国を磨き上げなさいな」
「……リコ。君は本当に、最高の悪役……いや、最高の『教育ママ』だな」
レオンが苦笑いしながら書類を手に取る。
「愛していますわ、リコ様! マリエッタ、あなたの鞭がないと、もう生きていけない体になってしまいましたわ!」
「……不謹慎なことを言うのはおやめなさい。ほら、計算を始めなさいな」
リコは扇子で口元を隠し、ふふっと小さく笑った。
かつての「悪役令嬢」は、今やこの国の運命を握る「最強の演出家」となった。
その背中を、セバスが誇らしげに、そしていつもの皮肉を込めて見つめていた。
「……お嬢様。これでは、お嬢様が引退して楽をする日は、永遠に来そうにありませんな」
「あら。無能を育てる楽しみを知ってしまった以上、一生働き通すのも悪くありませんわ。……さて、セバス。次のメニューの準備を。……あのおバカさんたちが泣いて喜ぶような、最高にハードなやつをね?」
朝日が昇る王宮に、リコの凛とした声と、二人の必死な計算機の音が響き渡る。
「愛」と「鞭」に満ちた、彼女たちの新しい物語は、まだ始まったばかりであった。
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