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「…受け入れられん、だと?」
使者の顔が、怒りで急速に赤く染まっていく。
彼は信じられないという顔で、アラン様を睨みつけた。
「クライスト辺境伯! あなたは、ご自分が何をおっしゃっているのかわかっておいでか!」
「もちろんだ」
アラン様の声は、辺境の冬の空気のように冷たく静かだった。
「(なっ…!)」
「エドワード王子の『王命』は、確かに承った。だがその根拠があまりにも、曖昧だ」
「曖昧だと!?」
「そうだ。王都の危機、カレン姫の病。それと、ルーシュ様の謹慎とが法的にどう結びつく?」
「(ぐっ…!)そ、それはルーシュ様の、その奇妙な薬の知識が必要だからであって…!」
「ならば『召喚』や『連行』ではないはずだ」
アラン様は、一歩も引かない。
「ルーシュ・フォン・ヴァインベルグは、ヴァインベルグ公爵家と、王家との正式な取り決めに基づきこの地にて謹慎処分となっている」
「……」
「その庇護と、監視の全権は、このクライスト辺境伯たる、俺に一任されている。…エドワード王子、個人の一方的な命令でその契約を反故(ほご)にすることなど、できん」
「(き、貴様…!)」
使者はわなわなと震え始めた。
王子の権威が、この辺境の堅物騎士に真正面から否定されたのだ。
「公爵家との契約だと!? そんなもの王子の、ご命令の前には無意味だ!」
「まあ」
その時。
それまで、黙って(毛根のことを考えて)いた、わたくしが口を挟んだ。
「王家と公爵家の契約を『無意味』と、おっしゃいましたか?」
「(!)…ルーシュ様…」
「それは、ヴァインベルグ家に対する重大な侮辱と受け取ってもよろしいですこと?」
わたくしは、にっこりと悪役令嬢(志望)の冷たい笑みを浮かべてみせた。
(こういう時、悪役令嬢は実家の権力を笠に着るものですわ!)
「(ひぃっ…!)」
使者の顔が、青くなる。
王子の威光を盾にはしたが、公爵家そのものを敵に回すのは彼の本意ではない。
「そ、それは、言葉のアヤであって…!」
「(ふん)。どのみち、わたくしはお断りいたしましたわ。『毛根』のために」
「(だから、その毛根というのは、一体なんなのだ!)」
使者が、ついに堪忍袋の緒が切れたという顔で剣の柄に手をかけた。
「…もう、よい」
彼の声が、怒りに震える。
「クライスト辺境伯。…そして、ルーシュ様」
「はい」
「お二人が、王子のご命令に逆らうという、その『意志』はしかと理解いたしました」
使者は、一歩前に出る。
「王子からは、万が一、貴殿らが、命令を拒否した場合の、言伝(ことづて)を、預かっておる」
「(…)」
アラン様の、アイスブルーの瞳が、スッと細められた。
使者は、まるで、勝利を確信したかのように、歪んだ笑みを浮かべた。
「『その命令を拒否することは、即ち、王家への、反逆と見なす』…と!」
「「(!!)」」
「(はんぎゃく…!)」
ホールに、緊張が走った。
『反逆』。
それは、クライスト辺境伯家と、王家との、全面的な対立…戦争を、意味する言葉だ。
「まあ! まあまあまあ! 大変ですわ、アラン様!」
わたくしは、思わず、アラン様の腕に、駆け寄った。
「(!)…ルーシュ様…」
アラン様の体が、ビクッと強張る。
「わたくしを巡って! 王子と、氷の騎士様が、ついに、刃を交えるのですわね!」
「(…は?)」
「なんてこと! なんて、ドラマチックな展開! これぞ、悪役令嬢の、華道(かどう)!」
わたくしは、興奮で、頬を紅潮させた。
(ヒロイン(カレン姫)の命と、悪役令嬢(わたくし)の身柄を賭けて、二人の男が、国を割って戦う…! 完璧なシナリオですわ!)
「(…はぁぁぁぁ)」
わたくしの、あまりにもズレた反応に、アラン様は、ついに、この世の終わりのような、深いため息をついた。
「…(ルーシュ様。頼むから、少し、黙っていてください)」
「はい!」
わたくしは、口に手を当て、ワクワクしながら、成り行きを見守ることにした。
「どうだ、辺境伯!」
使者は、わたくしの奇行(?)を、無視し、アラン様に、最後通告を突きつける。
「『反逆者』として、王都に連行されたいか! それとも、大人しく、その女(ルーシュ)を、差し出すか!」
「……」
アラン様は、静かに、目を閉じた。
数秒間の、沈黙。
やがて、彼は、ゆっくりと、目を開けた。
その瞳に、もはや、迷いや、胃痛(?)の色は、なかった。
そこにあるのは、ただ、絶対零度の、氷の決意。
「…使者殿」
「(!)」
「反逆者、か。…それは、果たして、どちらのことかな」
「(なっ…!?)き、貴様…! まだ、そんなことを…!」
「王家との、正式な契約(ルーシュ様の謹慎)を、王子の、私情(カレン姫のため)で、捻じ曲げようと、画策する」
アラン様の、低い声が、ホールに響く。
「法と、秩序を、自ら、乱そうとする行為。…それこそが、王家に対する、真の『反逆』とは、思わんか?」
「(ぐ…! ぬ…!)」
使者は、言葉に詰まった。
正論だった。
この、氷の騎士は、どこまでも、法と、筋道に、忠実な男なのだ。
「き、貴様ごときが! 王子の、ご深慮を、あれこれと…!」
使者は、ついに、理性を失い、剣の柄に、完全に、手をかけた。
「(こ、こうなれば、この場で、クライスト辺..."反逆"の証拠を…!)」
カシャリ。
「(!)」
使者が、剣を抜く、その一瞬、早く。
アラン様が、動いた。
彼は、わたくしの前に、庇うように立つと、その腰の剣を、ゆっくりと、しかし、迷いなく、抜き放った。
「(ひぃっ…!)」
使者が、恐怖に、一歩、後ずさる。
アラン様は、剣先を、使者に向けることはしなかった。
ただ、わたくしと、使者を、隔てるように、その切っ先を、床に、コン、と突き立てる。
それは、明確な「拒絶」と「境界線」の、意思表示だった。
「…使者殿」
「(な、なんだ…!)」
「お引き取り、願おう」
「(ぐ…! き、貴様…! やはり、王命に、剣を抜くか!)」
「言ったはずだ」
アラン様の、アイスブルーの瞳が、使者を、射抜いた。
「ルーシュ・フォン・ヴァインベルグは、辺境伯たる、俺の、庇護下にある」
「……」
「彼女の身柄は、エドワード王子の、私情ごときで、動かせるものではない。…それが、俺の『答え』だ」
「(く…!)」
使者は、わなわなと震えた。
彼は、悟った。
この男は、本気だ。
ここで、これ以上、踏み込めば、自分は、この氷の騎士に、斬られる。
「(…お、覚えておれよ…! クライスト…! ルーシュ…!)」
使者は、屈辱に、顔を歪ませた。
「…その、反逆の意志! しかと、王子に、ご報告、申し上げる!」
彼は、それだけ、捨て台詞を吐くと、マントを翻し、ホールから、逃げるように、走り去っていった。
「(…ふぅ)」
アラン様は、使者の足音が、完全に、遠ざかるのを待って、その剣を、静かに、鞘へと納めた。
「(まあ…!)」
わたくしは、アラン様の、たくましい背中に、駆け寄った。
「アラン様! 今の、素敵でしたわ!」
「(…は?)」
「『俺の、庇護下にある』ですって!? まるで、わたくしを、守る、ヒーローのようでしたわ!」
「(…)」
アラン様は、わたくしの(またしても、ズレた)賞賛に、ぐらり、と、よろめいた。
彼の顔からは、先ほどの、氷の決意は消え失せ、いつもの、深々とした「胃痛」の表情が、戻ってきていた。
「(…胃が、痛い…)」
「あら? アラン様? やはり、胃薬が必要ですの? わたくしの『爆発薬』を…」
「(それだけは、勘弁してくれ…!)」
アラン様の、悲痛な叫びが使者が去った静かなホールに虚しく響くのだった。
使者の顔が、怒りで急速に赤く染まっていく。
彼は信じられないという顔で、アラン様を睨みつけた。
「クライスト辺境伯! あなたは、ご自分が何をおっしゃっているのかわかっておいでか!」
「もちろんだ」
アラン様の声は、辺境の冬の空気のように冷たく静かだった。
「(なっ…!)」
「エドワード王子の『王命』は、確かに承った。だがその根拠があまりにも、曖昧だ」
「曖昧だと!?」
「そうだ。王都の危機、カレン姫の病。それと、ルーシュ様の謹慎とが法的にどう結びつく?」
「(ぐっ…!)そ、それはルーシュ様の、その奇妙な薬の知識が必要だからであって…!」
「ならば『召喚』や『連行』ではないはずだ」
アラン様は、一歩も引かない。
「ルーシュ・フォン・ヴァインベルグは、ヴァインベルグ公爵家と、王家との正式な取り決めに基づきこの地にて謹慎処分となっている」
「……」
「その庇護と、監視の全権は、このクライスト辺境伯たる、俺に一任されている。…エドワード王子、個人の一方的な命令でその契約を反故(ほご)にすることなど、できん」
「(き、貴様…!)」
使者はわなわなと震え始めた。
王子の権威が、この辺境の堅物騎士に真正面から否定されたのだ。
「公爵家との契約だと!? そんなもの王子の、ご命令の前には無意味だ!」
「まあ」
その時。
それまで、黙って(毛根のことを考えて)いた、わたくしが口を挟んだ。
「王家と公爵家の契約を『無意味』と、おっしゃいましたか?」
「(!)…ルーシュ様…」
「それは、ヴァインベルグ家に対する重大な侮辱と受け取ってもよろしいですこと?」
わたくしは、にっこりと悪役令嬢(志望)の冷たい笑みを浮かべてみせた。
(こういう時、悪役令嬢は実家の権力を笠に着るものですわ!)
「(ひぃっ…!)」
使者の顔が、青くなる。
王子の威光を盾にはしたが、公爵家そのものを敵に回すのは彼の本意ではない。
「そ、それは、言葉のアヤであって…!」
「(ふん)。どのみち、わたくしはお断りいたしましたわ。『毛根』のために」
「(だから、その毛根というのは、一体なんなのだ!)」
使者が、ついに堪忍袋の緒が切れたという顔で剣の柄に手をかけた。
「…もう、よい」
彼の声が、怒りに震える。
「クライスト辺境伯。…そして、ルーシュ様」
「はい」
「お二人が、王子のご命令に逆らうという、その『意志』はしかと理解いたしました」
使者は、一歩前に出る。
「王子からは、万が一、貴殿らが、命令を拒否した場合の、言伝(ことづて)を、預かっておる」
「(…)」
アラン様の、アイスブルーの瞳が、スッと細められた。
使者は、まるで、勝利を確信したかのように、歪んだ笑みを浮かべた。
「『その命令を拒否することは、即ち、王家への、反逆と見なす』…と!」
「「(!!)」」
「(はんぎゃく…!)」
ホールに、緊張が走った。
『反逆』。
それは、クライスト辺境伯家と、王家との、全面的な対立…戦争を、意味する言葉だ。
「まあ! まあまあまあ! 大変ですわ、アラン様!」
わたくしは、思わず、アラン様の腕に、駆け寄った。
「(!)…ルーシュ様…」
アラン様の体が、ビクッと強張る。
「わたくしを巡って! 王子と、氷の騎士様が、ついに、刃を交えるのですわね!」
「(…は?)」
「なんてこと! なんて、ドラマチックな展開! これぞ、悪役令嬢の、華道(かどう)!」
わたくしは、興奮で、頬を紅潮させた。
(ヒロイン(カレン姫)の命と、悪役令嬢(わたくし)の身柄を賭けて、二人の男が、国を割って戦う…! 完璧なシナリオですわ!)
「(…はぁぁぁぁ)」
わたくしの、あまりにもズレた反応に、アラン様は、ついに、この世の終わりのような、深いため息をついた。
「…(ルーシュ様。頼むから、少し、黙っていてください)」
「はい!」
わたくしは、口に手を当て、ワクワクしながら、成り行きを見守ることにした。
「どうだ、辺境伯!」
使者は、わたくしの奇行(?)を、無視し、アラン様に、最後通告を突きつける。
「『反逆者』として、王都に連行されたいか! それとも、大人しく、その女(ルーシュ)を、差し出すか!」
「……」
アラン様は、静かに、目を閉じた。
数秒間の、沈黙。
やがて、彼は、ゆっくりと、目を開けた。
その瞳に、もはや、迷いや、胃痛(?)の色は、なかった。
そこにあるのは、ただ、絶対零度の、氷の決意。
「…使者殿」
「(!)」
「反逆者、か。…それは、果たして、どちらのことかな」
「(なっ…!?)き、貴様…! まだ、そんなことを…!」
「王家との、正式な契約(ルーシュ様の謹慎)を、王子の、私情(カレン姫のため)で、捻じ曲げようと、画策する」
アラン様の、低い声が、ホールに響く。
「法と、秩序を、自ら、乱そうとする行為。…それこそが、王家に対する、真の『反逆』とは、思わんか?」
「(ぐ…! ぬ…!)」
使者は、言葉に詰まった。
正論だった。
この、氷の騎士は、どこまでも、法と、筋道に、忠実な男なのだ。
「き、貴様ごときが! 王子の、ご深慮を、あれこれと…!」
使者は、ついに、理性を失い、剣の柄に、完全に、手をかけた。
「(こ、こうなれば、この場で、クライスト辺..."反逆"の証拠を…!)」
カシャリ。
「(!)」
使者が、剣を抜く、その一瞬、早く。
アラン様が、動いた。
彼は、わたくしの前に、庇うように立つと、その腰の剣を、ゆっくりと、しかし、迷いなく、抜き放った。
「(ひぃっ…!)」
使者が、恐怖に、一歩、後ずさる。
アラン様は、剣先を、使者に向けることはしなかった。
ただ、わたくしと、使者を、隔てるように、その切っ先を、床に、コン、と突き立てる。
それは、明確な「拒絶」と「境界線」の、意思表示だった。
「…使者殿」
「(な、なんだ…!)」
「お引き取り、願おう」
「(ぐ…! き、貴様…! やはり、王命に、剣を抜くか!)」
「言ったはずだ」
アラン様の、アイスブルーの瞳が、使者を、射抜いた。
「ルーシュ・フォン・ヴァインベルグは、辺境伯たる、俺の、庇護下にある」
「……」
「彼女の身柄は、エドワード王子の、私情ごときで、動かせるものではない。…それが、俺の『答え』だ」
「(く…!)」
使者は、わなわなと震えた。
彼は、悟った。
この男は、本気だ。
ここで、これ以上、踏み込めば、自分は、この氷の騎士に、斬られる。
「(…お、覚えておれよ…! クライスト…! ルーシュ…!)」
使者は、屈辱に、顔を歪ませた。
「…その、反逆の意志! しかと、王子に、ご報告、申し上げる!」
彼は、それだけ、捨て台詞を吐くと、マントを翻し、ホールから、逃げるように、走り去っていった。
「(…ふぅ)」
アラン様は、使者の足音が、完全に、遠ざかるのを待って、その剣を、静かに、鞘へと納めた。
「(まあ…!)」
わたくしは、アラン様の、たくましい背中に、駆け寄った。
「アラン様! 今の、素敵でしたわ!」
「(…は?)」
「『俺の、庇護下にある』ですって!? まるで、わたくしを、守る、ヒーローのようでしたわ!」
「(…)」
アラン様は、わたくしの(またしても、ズレた)賞賛に、ぐらり、と、よろめいた。
彼の顔からは、先ほどの、氷の決意は消え失せ、いつもの、深々とした「胃痛」の表情が、戻ってきていた。
「(…胃が、痛い…)」
「あら? アラン様? やはり、胃薬が必要ですの? わたくしの『爆発薬』を…」
「(それだけは、勘弁してくれ…!)」
アラン様の、悲痛な叫びが使者が去った静かなホールに虚しく響くのだった。
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