悪役令嬢(志望)、婚約破棄? はい、お先に失礼しますわ!

夏乃みのり

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「さあ! 冷めないうちに、どうぞ?」

わたくしは、ニコニコと、エドワード王子に『どす黒い液体』の入ったコップを差し出したまま、保持している。
アラン様は、わたくしの背後で、すでに胃薬(本物)の包み紙に、手をかけていた。

「(ぐ…!)」

エドワード王子は、憔悴(しょうすい)しきった顔で、わたくしの顔と、コップの中身を、睨みつけた。
(この女…わたくしが、本気で、困っているというのに、楽しんでいるのか…?)
(いや、違う。こいつは、昔から、こうだった。空気が読めず、ズレている、ただの女だ)

(そうだ。カレンのためだ。カレンの命のためなら…!)

「(…チッ!)」

エドワード王子は、わたくしの手から、乱暴に、コップをひったくった。

「(飲んでやる! この、泥水のような、怪しげな薬を!)
(そして、カレンを救い、わたくしに恥をかかせた、お前たち二人(ルーシュとアラン)を、必ず、断罪してやる!)」

彼は、プライドも何もかもを、かなぐり捨てるように、そのコップを、一気に、呷(あお)った。

「(ゴクッ! ゴクッ! ゴクッ!)」

「「「(…………)」」」

アラン様も、王子の私兵たちも、領民たち(トム筆頭)も、全員が、固唾を飲んで、その光景を見守っている。

「(ぷはぁっ…!)」

エドワード王子は、コップの中身を、一滴残らず、飲み干した。
そして。

「(……………)」

数秒間の、沈黙。

「(……………お)」

王子の、青い瞳が、ありえないほど、カッ! と、見開かれた。
その完璧に整っていた(はずの)顔が、信じられない、という表情で、歪んでいく。

「(おええええええええええ!!!)」

「(!)…王子!?」

「(ま、まずい!!! なんだこれは! 泥水ではない! 腐った沼だ! いや、魔獣のフンを煮詰めた汁か!?)」

エドワード王子は、その場に、吐き出しそうになるのを、必死で、こらえた。
王子のプライドが、それを許さない。

「(ぐ…! う…! こ、こんな、マズイものを…! よくも、わたくしに…!)」

「まあ! エドワード様!」

わたくしは、心配そうに(ワクワクしながら)駆け寄った。

「いかがです? お口に、合いましたか?」

「(合うわけが…!)…(ゴクリ)…」

王子は、無理やり、その、地獄の味を、飲み下した。
そして、わたくしを、ギリイッ! と、睨みつける。

「る、ルーシュ…! 貴様、わたくしを、謀ったな…! こ、これは…!」

彼は、文句を言おうとした。
だが、その瞬間。
わたくしが開発した『試作品3号:真実しか話せなくなるお茶(激マズ)』の、恐るべき効果が、発現した。

「(こ、これは…!)…これは、わたくしの知る、どんな薬よりも、効果がありそうだ!」

「(…は?)」

エドワード王子自身が、自分の口から飛び出した、意図しない『本音』に、固まった。

「(え? い、今、わたくしは、何を…?)」

「まあ! そうですの!?」

わたくしは、目を輝かせた。
(さすがですわ、わたくしの秘薬! 飲んだ本人も、そう思い込むほどの、プラシーボ効果が!)

「そ、そうだ! (いや、違う! まずすぎる!) カレンが! カレンが、心配で、たまらんのだ!」

「(!)…王子…」

王子の私兵たちが、主君の『本音(?)』を聞いて、目頭を熱くする。

「カレンが、死んでしまう…! あんなに、可憐で、わたくしを、頼ってくれる、可愛いカレンが!」

「エドワード様…(涙)」

「(ああ、そうだ、カレン…! わたくしの、癒し…!)」
王子は、自分の口から、スラスラと「本音」が出てくることに、最初は、戸惑っていた。
だが、薬の効果は、彼の思考のタガを、完全に、外していく。

「それに引き換え!」

「(え?)」

「なぜ、わたくしが! わたくしが、捨ててやった、こんな、悪役令嬢(ルーシュ)なんかに、頭を下げねば、ならんのだ!」

「「「……………は?」」」

私兵たちも、領民たちも、全員が、固まった。

「(し、しまった! わたくしは、今、何を…! 口が! 口が、止まらん!)」

エドワード王子は、必死で、口を、手で押さえる。
だが、その口は、彼の意思とは、無関係に、動き続けた。

「(んぐー! んぐー!)」

「まあ、エドワード様? どうかなさいました?」

わたくしが、不思議そうに、首を傾げると、王子は、ついに、堪えきれなくなった。

「うるさい! 黙れ、この、雑草女め!」

「(ひぃっ!)」

「わたくしは! 王子だぞ! この国の、次期国王(かもしれない)わたくしが! こんな、土臭い、辺境の、毛根女(!)なんかに、頼み事など、したくて、しているわけが、ないだろうが!」

「(お、王子…? 毛根女…?)」

私兵たちが、ドン引きしている。

「(あ、ああ…! 止まらない! 考えていることが、全部、口から、出てしまう!)」
エドワード王子は、恐怖で、顔面蒼白になっている。
だが、彼の『本音』は、止まらない。

「そもそも! カレンが、病気になったのも、全部、あいつ(侍医長)らが、無能だからだ!」
「わたくしは、悪くない! なのに、わたくしのプライドが、ズタズタだ!」

「……」

アラン様が、わたくしの背後で、静かに、懐から、小さな手帳と、羽根ペンを、取り出した。

「(あ! アラン様、ずるいですわ! わたくしも、記録しなくては!)」

「全部! 全部、あいつ(ルーシュ)が、悪い!」

王子は、ついに、わたくしを、ビシィッ! と、指さした。

「わたくしが、こんな、無様な、行幸(!)までする羽目になったのも!」
「アラン・クライスト(あの堅物)が、わたくしに、逆らうようになったのも!」
「全部、お前がここにいるからだ!」

「まあ! わたくしのせいですの!?」

「そうだ! お前さえ、大人しく、王都で言うことを、聞いていれば!」
「お前さえ、あの時、素直に『薬』になってくれれば!」
「可愛いカレンは、死なずに済んだんだ!」

「(薬に…?)」

「そうだとも!」

王子の、本音が、爆発した。

「お前の、その、怪しげな知識(薬)さえ、手に入れば、お前(ルーシュ)本体なんぞ、どうでもいい!」
「薬だけ、献上させて、あとは、このクライスト(反逆者)と一緒に、この荒れ地で朽ち果ててしまえばよかったんだ!」

「「「(((((……………!!!!!!)))))」」」

その場にいた、全員が息を呑んだ。
王子の私兵たちでさえ、自分たちの主君が口にした『本音』に恐怖で顔を引きつらせている。

(カレン姫様のため、では、なく…)
(ご自分の、プライドのために…)
(ルーシュ様を、ただ、雑に、利用しようと…)

「(あ…)」

エドワード王子は、ついに自分が、何を口走ってしまったのかを理解した。
最悪の自白。

「(あ…あ…あ…!)」

彼はわなわなと震え顔面から、血の気が完全に引いていった。

「(し、しまった…! しまった、しまった、しまった…!)」

その、絶望的な静寂を破ったのは。
アラン様の、冷静な低い声だった。

「(…ゴホン)」

アラン様は、その小さな手帳にサラサラと何かを書きつけた後、顔を上げた。
その目は、氷のように冷たく王子を見据えていた。

「…エドワード王子」

「(ひっ…!)」

「今の、王子自身の『自白』」

アラン様は、その手帳を王子に見せつける。

「『王家への反逆』および『ヴァインベルグ公爵家(ルーシュ様)への、脅迫、並びに、名誉毀損』の、動かぬ証拠として」

「(な…!)」

「この、クライスト辺境伯アラン、並びにここにいる全領民、全騎士の名において確かに記録(告発)させてもらう」

「(そ、そんな…!)」

「…さて」

アラン様は、手帳を懐にしまった。

「『反逆者』は、果たして、どちらでしたかな、王子?」

エドワード王子は、もはや剣を握っている力も残っていなかった。
カシャン…!
儀礼用の剣が、乾いた音を立てて辺境の乾いた土の上に転がり落ちた。
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