悪役令嬢(志望)、婚約破棄? はい、お先に失礼しますわ!

夏乃みのり

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「(あ…あ…)」

エドワード王子は、自分が、いかに、絶望的な状況にいるかを、悟った。
『真実しか話せなくなるお茶』の、恐るべき効果。
アラン・クライストによる、冷徹な『告発(記録)』。
そして、その手から、力なく滑り落ちた、王子の権威(剣)。

彼は、完全に詰んでいた。

「(お、王子…! なんという、失態を…!)」

彼が連れてきた、二十騎の私兵たちも、主君の、あまりにも、醜い『本音』を聞き、戦意を、完全に、喪失していた。
アラン・クライスト(辺境伯)に、『反逆者』の、大義名分を、与えてしまったのだ。

「まあまあ。エドワード様」

この、凍りついた空気を破ったのは、またしても、わたくしの、のんきな(?)声だった。

「剣を、お落としになりましたわよ? 大丈夫ですの、お怪我は?」

「(る、ルーシュ…! 貴様…!)」

エドワード王子は、わたくしの(まったく、緊張感のない)顔を、怨嗟の目で、見上げた。

「…(はぁ)」

アラン様が、その手帳を、懐に、静かにしまった。
そして、エドワード王子に、最後通告を、突きつける。

「王子。これ以上、この地で、騒乱を、お続けになるというのなら」

「(!)」

「『王家への反逆者(エドワード王子)』として、正式に、拘束させていただく。…あなたと、あなたの私兵、全員をだ」

「(ひぃっ…!)」

私兵たちが、慌てて、馬の上で、武器を、捨て始めた。
もはや、勝ち目はない。

「(く…! くそっ…!)」

エドワード王子は、屈辱に、唇を、噛み締めた。
負けだ。
アラン・クライストの、法と、正論の前に、完敗した。

(わたくしが…! このわたくしが…! こんな、雑草女(ルーシュ)と、堅物騎士(アラン)ごときに…!)

その、緊迫した、対峙が、破られたのは。

「(ヒヒーン!)」

第三の、馬が、その場に、滑り込んできたからだった。

「(!)…なんだと!?」

エドワード王子が、驚愕の声を上げる。
その馬は、王子の私兵のものではない。
乗り手は、王都の方向から、限界の速度で、駆けてきたらしく、ボロボロの旅装束を、まとっていた。

「(はぁっ…! はぁっ…!)」

「(誰だ!)」

アラン様が、身構える。

「ヴァインベルグ公爵家、当主代理! 至急の、伝言にございます!」

「(!)」

わたくしと、アラン様の、顔色が変わった。

「父上の!?」

使者は、アラン様(ここの領主)と、わたくし(公爵令嬢)を、見つけると、馬から、転がり落ちるようにして、一枚の、羊皮紙を、差し出した。

「(はぁっ…!)ルーシュお嬢様! クライスト辺境伯様!」

「(落ち着け。何があった)」

アラン様が、羊皮紙を、受け取る。

「王都が…! 王都が、あの、咳病で…! 公爵様(お嬢様の父君)も、病の調査を、独自に、進めておいででしたが…! ついに、昨日!」

使者は、わたくしを、まるで、救いの女神でも見るかのような、熱い目で、見上げた。

「(え? なんですの、その、熱っぽい視線は)」

「お嬢様が! お嬢様が、以前、領民の健康管理のためにと、この辺境の村に、送っておられた…!」

「(ああ、あれですのね? 『ただの風邪薬(わたくし改良版)』のことですわね?)」

「(それです!)」

アラン様が、羊皮紙を、読み下しながら、珍しく、目を見開いていた。

「(…なんだと?)」

「(どうかなさいました、アラン様?)」

アラン様が、わたくしを、信じられない、という顔で、見る。

「…ルーシュ嬢。君が、この村に、送っていたという、風邪薬」

「はい。この辺境は、冷えますから。皆さんが、お風邪を召しては、大変ですもの。わたくしの薬草園(開墾)の、人手が、減ってしまいますわ」

「(…(胃痛)…理由は、結局、それか)」

「(はぁっ…!)公爵様が、その薬の、配合を、突き止め…! 王宮の侍医長に、無理やり、調合させたところ…!」

使者が、叫んだ。

「効いたのです! あの、王都の、流行り病に! 唯一の! 特効薬だったのです!」

「「「(((な…!!!)))」」」

その場にいた、全員が、息を呑んだ。
エドワード王子が、落ちた剣を、拾うのも忘れ、呆然と、こちらを、見ている。

「(そ、そんな…!)」

王都の侍医たちが、誰も、解明できなかった、特効薬。
それが、この、わたくし(悪役令嬢・志望)が、趣味(スローライフ)のために、片手間で、作っていた、『ただの風邪薬』だった、と?

「(まあ…!)」

わたくしは、ポン、と手を叩いた。

「(ああ、あれですのね。王宮薬局では『雑草』として、捨てられている、『北風草』と『鉄錆ゴケ』の、あの、特殊な配合が、効きましたのね!)」

「(((雑草!?)))」

エドワード王子と、使者たちの、声が、ハモった。
国を救う薬が、雑草だった、と?

「公爵様(お嬢様の父君)より、伝言にございます!」

公爵家の使者が、アラン様に向き直る。

「エドワード王子が、私兵を率いて、辺境に向かった、との、報あり!」

「(!)」

「『王子の、身勝手な行動(私情)は、国王陛下の、知るところではない』!『クライスト辺境伯は、法と、契約に基づき、毅然とした対応(王子の拘束)を、許可する』! と!」

「(なっ…!)」

エドワード王子が、絶望に、顔を歪ませた。
父(国王)ではなく、わたくしの父(公爵)が、先に、手を、打ったのだ。
アラン様(辺境伯)に、王子を『拘束』する、大義名分(公爵家のお墨付き)を、与えてしまった。

「そして…!」

使者が、わたくしを、見つめる。

「お嬢様。…いいえ、ルーシュ様。…王都の民が、あなた様の『薬』を、待っております」

「(えー…)」

わたくしは、思わず、不満の声を、漏らした。

「『ルーシュ・フォン・ヴァインベルグの謹慎は、これをもって、解く』!」

「(!)」

「『悪役令嬢(?)としてではなく、王都を救う、薬師として、至急、王都へ、帰還されたし』!」

「(…これが、父上からの、正式な、要請…ですのね)」

わたくしは、空を、見上げた。
せっかくの、わたくしの、スローライフ(毛根開発)が…。

「(あ…)」

エドワード王子が、力なく、その場に、膝を、ついた。
わたくしが『反逆者』ではなく『王都を救う薬師』として、正式に、父(公爵)から、召喚された。
そして、自分(王子)は『拘束対象』として、公爵家から、認定された。

立場は、完全に、逆転した。
いや、わたくしが、元から、正しかったのだ。

わたくしは、この、哀れな、元・婚約者(王子)に、悪役令嬢として、最後通告を、して差し上げることにした。

「(…エドワード様)」

「(…(ビクッ)…)」

「わたくしの、スローライフを、邪魔した、罪。…重いですわよ?」
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