悪役令嬢「殿下、私がいなくても大丈夫ですわよね?」

夏乃みのり

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6話

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公爵邸に帰り着いた私を、父が書斎で待っていた。
夜会のための華やかなドレスも、煌びやかな宝飾品も、今の私には重い枷のように感じられる。

「……おかえり、イザベラ」

父、オルデン・フォン・ヴァイス公爵は、私の顔を見るなり、全てを察したようだった。彼の鋭い紫の瞳は、私の瞳と同じ色をしている。

「ただいま戻りました、お父様」

私がそう答えた声は、自分でも驚くほどか細く、か弱かった。張り詰めていた糸が、父の顔を見た瞬間に、ぷつりと切れてしまったのかもしれない。

「何があった。全て、話してごらん」

父の優しい声に促され、私はパーティーでの出来事を、淡々と、事実だけを報告した。アレクシス様が、リリアナ嬢を伴って、私の前に現れたこと。大衆の面前で、婚約の破棄を告げられたこと。そして、私がそれを受け入れたこと。

話している間、父は一言も口を挟まず、ただ静かに私の言葉に耳を傾けていた。

私が全てを話し終えると、父はゆっくりと立ち上がり、私のそばへ来た。そして、そっと私の肩を抱き寄せた。父の腕に抱かれたのは、一体、何年ぶりのことだろうか。

「……そうか。辛かったな」

その一言で、私の目から、堪えきれなかった涙が一筋、頬を伝った。

「よく耐えた、イザベラ。お前は、ヴァイス家の誇りだ」

父はしばらく私を抱きしめた後、静かに体を離した。その顔には、先ほどまでの穏やかさは消え、代わりにエルツハイム王国屈指の大貴族当主としての、冷徹な怒りが宿っていた。

「王家は、我らヴァイス家をあまりに軽んじた。我が娘の十数年にもわたる献身を、努力を、踏みにじったのだ。このまま、黙って引き下がるわけにはいかぬ」

父の声は、地を這うように低く、だが確かな怒りの炎が燃え盛っていた。

「殿下はすぐに後悔することになるだろう。お前という『真の支え』を失ったことを。いや、後悔させてやらねば、私の気が収まらん」

父の言葉は、氷のように冷たい復讐の誓いだった。
それは、私のための怒り。私のための戦いの始まり。

その夜、ヴァイス公爵家の当主として、父は王国を揺るがす、大きな決断を下した。
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