公爵様、これは冷たい契約結婚のはず、ですよねっ!?

夏乃みのり

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結婚式は、驚くほど簡素だった。王家への報告と、必要最低限の親族だけを集めた食事会。そこには華やかさも祝福の熱気もなく、まるで一つの儀式が淡々と執り行われるようだった。

夫となったリアムは、終始無表情を貫き、私と言葉を交わしたのは、誓いの言葉の時だけ。その夜、私たちは別々の寝室で眠った。

そうして、ヴァレンシュタイン公爵夫人としての私の生活が始まった。

公爵邸は、一つの城と呼んでも差し支えないほどに広大だった。磨き上げられた大理石の廊下は、私の足音だけを空しく響かせる。数多くの使用人たちは、私を見ると深々と頭を下げるが、その態度はどこかよそよそしく、遠巻きにされているのを感じた。

「まあ、あの方が新しい奥様……」
「まるで氷の人形のようだわ」
「閣下は、また心を閉ざされてしまうのかしら……」

彼らの囁き声と、好奇と憐れみが入り混じった「濁った茶色」の感情が、私の心をちくりと刺す。

夫であるリアムとは、ほとんど顔を合わせることがなかった。朝食も夕食も、彼は書斎で一人で摂るとのことで、私はだだっ広い食堂のテーブルに、いつも一人きり。

「奥様、次のお料理をお持ちしてよろしいでしょうか」

侍女の声だけが響く。

「ええ、お願いするわ」

目の前の豪華な食事は、少しも喉を通らなかった。ラングハイム家では、たとえ質素でも、いつも家族みんなで食卓を囲んでいたのに。

昼間、彼は執務室にこもりきりか、側近の騎士を連れて領地の視察へと出かけてしまう。夜は、私が眠りについた後、遅くに帰宅するようだった。

私たちは、同じ屋敷に住む、ただの同居人に過ぎなかった。いや、同居人というには、あまりにも距離がありすぎる。まるで、見えない壁で隔てられた、他人。

部屋の窓から、広大な庭を眺める。手入れは行き届いているが、どこか無機質で、生命の温もりが感じられない庭。

(これが、私のこれからの居場所……)

実家を、病気の母を救うための、対価。そう言い聞かせても、胸にぽっかりと空いた穴は、日に日に大きくなっていくようだった。

「……寂しい、なんて」

思わず漏れた呟きは、誰に聞かれることもなく、静かな部屋に溶けて消えた。

契約通り、互いに干渉しない。それは、私が望んだことでもあるはずなのに。

この屋敷の静寂が、氷の公爵と呼ばれる夫の孤独が、まるで鏡のように私自身の孤独を映し出しているようで、息が詰まりそうだった。
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