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「うおぉぉぉ! すげぇ! これが王都か!」
「人が多い! 建物が高い!」
「そして何より……女の子が可愛い!!」
王都のメインストリートを進む馬車の窓から、オルレアン騎士団の面々が身を乗り出して叫んでいる。
彼らは皆、この日のために新調したタキシード(筋肉でパツパツ)を着込み、髪をポマードで撫で付け、漂うローズの香り(使いすぎ)を撒き散らしていた。
「うるさいですね。田舎者丸出しですよ」
私は馬車の中でこめかみを押さえた。
「少しは静かになさい。王都の警備隊に通報されますよ、『熊の集団が脱走した』と」
「リーリン様! 見てくださいあそこのカフェ! 令嬢たちが優雅にお茶してます! 俺、あそこでプロテイン飲んでもいいですか!?」
「ダメです。出禁になります」
私はバルガス団長を一蹴し、向かいに座るジルベール様を見た。
彼は不機嫌そうに腕組みをして、眉間に深い谷を作っている。
「……人が多すぎる。全員、俺を見て逃げ惑えばいいのに」
「殺伐としないでください。今日は『社交』に来たのですから」
私は窓の外、懐かしい王都の町並みを眺めた。
石畳の道、レンガ造りの建物、着飾った人々。
かつては、ここが私の世界の全てだった。王子に気に入られるためにドレスを選び、評判を気にして生きていた場所。
だが、今の私には全く別の景色に見える。
「……あの噴水、水道代の無駄ですね。あそこの街灯も、魔石のグレードが高すぎてコストパフォーマンスが最悪です」
「お前の目には、街全体が『改善すべき不良債権』に見えているようだな」
「ええ。この国の財政赤字の原因が、透けて見えますわ」
私は不敵に笑った。
◇
パーティ会場となる王城に到着した私たちは、控え室に通された。
「さあ、着替えましょう。戦闘服(ドレス)の準備はいいですか?」
私が指を鳴らすと、王都の有名店から取り寄せた最高級のドレスが運ばれてきた。
色は深いミッドナイトブルー。金糸の刺繍が施され、動くたびに星空のように煌めく。
「……派手すぎないか?」
ジルベール様が目を丸くする。
「いいえ。これは『威嚇』です。私が貧乏になって落ちぶれたと思っている連中に、格の違いを見せつけるための必要経費です」
私はドレスに袖を通し、鏡の前に立った。
宝石は、先日ジルベール様からもらったサファイアのブローチのみ。
(結局、橋にはならなかったけれど……まあ、ここぞという時の装備品としては優秀ね)
私はブローチを胸元に飾り、紅を引いた。
鏡の中の私は、かつての「王子の顔色を伺う婚約者」ではない。「自分の足で稼ぐ経営者」の顔をしていた。
「……どうですか、閣下?」
振り返ると、正装に着替えたジルベール様が、言葉を失って立ち尽くしていた。
漆黒の燕尾服に、真紅のサッシュ。撫で付けた黒髪と、鋭い赤い瞳。
魔王のような威圧感はあるが、それ以上に、息を呑むほどの色気がある。
「……綺麗だ」
彼がポツリと漏らした。
「ドレスが、ですか?」
「お前がだ。……あまり、他の男に見せたくないな」
彼がそっと近づき、私の腰に手を回す。
「独占契約を結びたいところだが……今夜は見せつけてやるとするか。『俺の女』がどれほど美しいかを」
「……ふふっ。上手い口説き文句ですね。チップを弾みたくなります」
私は照れ隠しに軽口を叩き、彼の腕に手を添えた。
「行きましょう、閣下。私たちの『殴り込み』の時間です」
◇
大広間の巨大な扉の前。
中からは、オーケストラの優雅な演奏と、貴族たちの談笑が漏れ聞こえてくる。
「オルレアン辺境伯、ジルベール閣下! ならびに、リーリン・アークライト様、ご入場!」
衛兵が高らかに告げ、重厚な扉が左右に開かれた。
その瞬間。
ざわざわ……としていた会場が、水を打ったように静まり返った。
数百人の視線が、一斉に私たちに突き刺さる。
「……あれが、噂の辺境伯か?」
「なんて恐ろしいオーラだ……目が合っただけで石になりそう……」
「そして隣にいるのは、あの悪役令嬢リーリン?」
「国外追放されたはずじゃ……?」
「でも、なんて美しいの……」
恐怖と、好奇心と、羨望。
それらの視線を、私は悠然と受け止めた。
「閣下、顔を上げてください。堂々と。あなたがこの場の支配者であるかのように」
「……胃が痛い。早く帰りたい」
「スマイルです。あのポスターの顔を思い出して」
「くっ……!」
ジルベール様は引きつった笑みを浮かべた。それが逆に「余裕の冷笑」に見えたらしく、周囲の貴族たちが「ひぃっ」と後ずさる。
私たちはレッドカーペットの上を、優雅に歩いた。
その背後には、筋肉隆々の騎士たちが、窮屈そうなタキシード姿でズラリと続いている。彼らもまた、必死に「紳士的な笑顔(引きつっている)」を作っていた。
「あら、リーリン様じゃない?」
「よくもまあ、ぬけぬけと……」
扇で口元を隠した令嬢たちが、ヒソヒソと陰口を叩くのが聞こえる。
私は歩きながら、素早く彼女たちの身なりをチェックした。
(……ふん。あそこの伯爵夫人、ドレスは昨年のデザインね。資金繰りが苦しいのかしら。あっちの男爵は、靴の手入れが行き届いていない。精神的余裕がない証拠)
私の目には、彼女たちの頭上に『推定資産額』と『借金額』がポップアップウィンドウのように表示されている(ような気がした)。
「……リーリン。あそこに」
ジルベール様が小声で囁く。
視線の先、会場の最奥にある玉座の近く。
そこに、ジェラルド王子とミナの姿があった。
「!!」
ジェラルド様は、私を見るなりワイングラスを落としそうになっていた。
まるで幽霊でも見たかのような顔だ。
隣のミナも、目を白黒させている。
「……ごきげんよう、殿下」
私は王子の前まで進み出ると、完璧な角度のカーテシーを披露した。
「招待状をいただきましたので、参上いたしました。遅刻はしておりませんよね?」
「き、き、貴様……!」
ジェラルド様が震える指で私を指差す。
「よくも……よくも私の前に顔を出せたな! しかも、その男はなんだ!」
「ご紹介します。私の現在の雇用主であり、婚約者(仮)の、オルレアン辺境伯です」
「ジルベールだ」
ジルベール様が一歩前に出ると、その巨体と殺気に、ジェラルド様が「ひっ!」と椅子にへたり込んだ。
「殿下。手紙は読みましたよ。……よく燃えました」
ジルベール様がニヤリと笑う。
「な、な、無礼者ぉぉぉ! 衛兵! 衛兵は何をしている! こいつらを捕らえろ!」
ジェラルド様が叫ぶが、衛兵たちは動けない。ジルベール様の背後に控える筋肉騎士団が、無言の圧力(筋肉ポーズ)をかけているからだ。
「ジェラルド様ぁ、怖いですぅ……」
ミナが王子の腕にしがみつく。
そして、上目遣いで私を睨んだ。
「リーリン様ぁ、ひどいですぅ。ジェラルド様をいじめるなんてぇ。それにそのドレス、どこで買ったんですかぁ? お金ないくせに無理しちゃってぇ」
ミナはクスクスと笑った。
「どうせ偽物(イミテーション)でしょ? かわいそう……」
その言葉に、周囲の貴族たちも「そうだそうだ」「落ちぶれた公爵令嬢が」と同調する空気になる。
私はため息をついた。
「……偽物、ですか」
私は自分のドレスの裾をつまんだ。
「このドレスの生地は、東方幻獣『シルクワーム』の糸を紡いだもの。市場価格は金貨二百枚。そしてこのブローチは、南方諸島で産出される最高純度のサファイア。……鑑定士を呼んでもよろしくてよ?」
「えっ……?」
「対して、ミナ様。あなたのそのピンクのドレス」
私は彼女のドレスを指差した。
「王都のデパートで『量産品』として売られている既製品ですね? セールのタグが見え隠れしていますよ」
「なっ……!?」
ミナが慌てて背中を隠す。
「さらに、その首元のダイヤ。……輝きが鈍い。ガラス玉ですね? 予算削減ですか? それとも、王子に買ってもらえなかったのですか?」
「ち、ちが……これは……!」
「あら、かわいそう。王子の寵愛を受けているはずなのに、偽物を身につけさせられるなんて。……王家の財政は、そこまで逼迫しているのですか?」
私の声は、会場中によく響いた。
「な、なんだと!?」
「王家が金欠……?」
「そういえば最近、王子の支払いが悪いという噂が……」
貴族たちがざわつき始める。
ジェラルド様の顔が真っ赤になる。
「だ、黙れ黙れ! でたらめを言うな! 私は金などいくらでも持っている!」
「そうですか? では、これは何でしょう?」
私は懐から、一枚の紙を取り出した。
バサッ。
それは、私が今日のために用意していた『決定的証拠』その1だった。
「これは、私が婚約者時代に立て替えた費用の『詳細明細書』です。そしてこちらは……王都の各商店から買い取った、殿下の『未払い請求書』の束です」
「は……?」
「債権譲渡の手続きは済ませてあります。つまり現在、殿下の借金の債権者は……この私です」
私はニッコリと、悪魔の微笑みを浮かべた。
「さあ、殿下。この晴れやかなパーティの席で、ご返済計画についてお話し合いをしましょうか? それとも……今ここで、現金で耳を揃えてお返しいただけますか?」
「あ、あ、あ……」
ジェラルド様は、パクパクと口を開閉させ、そして白目を剥いて泡を吹いた。
ドサッ。
「ジェラルド様ぁぁぁ!?」
王子、気絶。
会場は騒然となった。
私は冷ややかにその様子を見下ろし、ジルベール様に目配せをした。
「……とりあえず、第一ラウンドは私の勝ちですね」
「容赦ないな。気絶した相手からどうやって回収するんだ?」
「叩き起こしてでも回収しますよ。……お楽しみはこれからですわ」
王城のパーティ会場は、優雅な社交場から、血も涙もない「債権回収の場」へと変貌しようとしていた。
「人が多い! 建物が高い!」
「そして何より……女の子が可愛い!!」
王都のメインストリートを進む馬車の窓から、オルレアン騎士団の面々が身を乗り出して叫んでいる。
彼らは皆、この日のために新調したタキシード(筋肉でパツパツ)を着込み、髪をポマードで撫で付け、漂うローズの香り(使いすぎ)を撒き散らしていた。
「うるさいですね。田舎者丸出しですよ」
私は馬車の中でこめかみを押さえた。
「少しは静かになさい。王都の警備隊に通報されますよ、『熊の集団が脱走した』と」
「リーリン様! 見てくださいあそこのカフェ! 令嬢たちが優雅にお茶してます! 俺、あそこでプロテイン飲んでもいいですか!?」
「ダメです。出禁になります」
私はバルガス団長を一蹴し、向かいに座るジルベール様を見た。
彼は不機嫌そうに腕組みをして、眉間に深い谷を作っている。
「……人が多すぎる。全員、俺を見て逃げ惑えばいいのに」
「殺伐としないでください。今日は『社交』に来たのですから」
私は窓の外、懐かしい王都の町並みを眺めた。
石畳の道、レンガ造りの建物、着飾った人々。
かつては、ここが私の世界の全てだった。王子に気に入られるためにドレスを選び、評判を気にして生きていた場所。
だが、今の私には全く別の景色に見える。
「……あの噴水、水道代の無駄ですね。あそこの街灯も、魔石のグレードが高すぎてコストパフォーマンスが最悪です」
「お前の目には、街全体が『改善すべき不良債権』に見えているようだな」
「ええ。この国の財政赤字の原因が、透けて見えますわ」
私は不敵に笑った。
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パーティ会場となる王城に到着した私たちは、控え室に通された。
「さあ、着替えましょう。戦闘服(ドレス)の準備はいいですか?」
私が指を鳴らすと、王都の有名店から取り寄せた最高級のドレスが運ばれてきた。
色は深いミッドナイトブルー。金糸の刺繍が施され、動くたびに星空のように煌めく。
「……派手すぎないか?」
ジルベール様が目を丸くする。
「いいえ。これは『威嚇』です。私が貧乏になって落ちぶれたと思っている連中に、格の違いを見せつけるための必要経費です」
私はドレスに袖を通し、鏡の前に立った。
宝石は、先日ジルベール様からもらったサファイアのブローチのみ。
(結局、橋にはならなかったけれど……まあ、ここぞという時の装備品としては優秀ね)
私はブローチを胸元に飾り、紅を引いた。
鏡の中の私は、かつての「王子の顔色を伺う婚約者」ではない。「自分の足で稼ぐ経営者」の顔をしていた。
「……どうですか、閣下?」
振り返ると、正装に着替えたジルベール様が、言葉を失って立ち尽くしていた。
漆黒の燕尾服に、真紅のサッシュ。撫で付けた黒髪と、鋭い赤い瞳。
魔王のような威圧感はあるが、それ以上に、息を呑むほどの色気がある。
「……綺麗だ」
彼がポツリと漏らした。
「ドレスが、ですか?」
「お前がだ。……あまり、他の男に見せたくないな」
彼がそっと近づき、私の腰に手を回す。
「独占契約を結びたいところだが……今夜は見せつけてやるとするか。『俺の女』がどれほど美しいかを」
「……ふふっ。上手い口説き文句ですね。チップを弾みたくなります」
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大広間の巨大な扉の前。
中からは、オーケストラの優雅な演奏と、貴族たちの談笑が漏れ聞こえてくる。
「オルレアン辺境伯、ジルベール閣下! ならびに、リーリン・アークライト様、ご入場!」
衛兵が高らかに告げ、重厚な扉が左右に開かれた。
その瞬間。
ざわざわ……としていた会場が、水を打ったように静まり返った。
数百人の視線が、一斉に私たちに突き刺さる。
「……あれが、噂の辺境伯か?」
「なんて恐ろしいオーラだ……目が合っただけで石になりそう……」
「そして隣にいるのは、あの悪役令嬢リーリン?」
「国外追放されたはずじゃ……?」
「でも、なんて美しいの……」
恐怖と、好奇心と、羨望。
それらの視線を、私は悠然と受け止めた。
「閣下、顔を上げてください。堂々と。あなたがこの場の支配者であるかのように」
「……胃が痛い。早く帰りたい」
「スマイルです。あのポスターの顔を思い出して」
「くっ……!」
ジルベール様は引きつった笑みを浮かべた。それが逆に「余裕の冷笑」に見えたらしく、周囲の貴族たちが「ひぃっ」と後ずさる。
私たちはレッドカーペットの上を、優雅に歩いた。
その背後には、筋肉隆々の騎士たちが、窮屈そうなタキシード姿でズラリと続いている。彼らもまた、必死に「紳士的な笑顔(引きつっている)」を作っていた。
「あら、リーリン様じゃない?」
「よくもまあ、ぬけぬけと……」
扇で口元を隠した令嬢たちが、ヒソヒソと陰口を叩くのが聞こえる。
私は歩きながら、素早く彼女たちの身なりをチェックした。
(……ふん。あそこの伯爵夫人、ドレスは昨年のデザインね。資金繰りが苦しいのかしら。あっちの男爵は、靴の手入れが行き届いていない。精神的余裕がない証拠)
私の目には、彼女たちの頭上に『推定資産額』と『借金額』がポップアップウィンドウのように表示されている(ような気がした)。
「……リーリン。あそこに」
ジルベール様が小声で囁く。
視線の先、会場の最奥にある玉座の近く。
そこに、ジェラルド王子とミナの姿があった。
「!!」
ジェラルド様は、私を見るなりワイングラスを落としそうになっていた。
まるで幽霊でも見たかのような顔だ。
隣のミナも、目を白黒させている。
「……ごきげんよう、殿下」
私は王子の前まで進み出ると、完璧な角度のカーテシーを披露した。
「招待状をいただきましたので、参上いたしました。遅刻はしておりませんよね?」
「き、き、貴様……!」
ジェラルド様が震える指で私を指差す。
「よくも……よくも私の前に顔を出せたな! しかも、その男はなんだ!」
「ご紹介します。私の現在の雇用主であり、婚約者(仮)の、オルレアン辺境伯です」
「ジルベールだ」
ジルベール様が一歩前に出ると、その巨体と殺気に、ジェラルド様が「ひっ!」と椅子にへたり込んだ。
「殿下。手紙は読みましたよ。……よく燃えました」
ジルベール様がニヤリと笑う。
「な、な、無礼者ぉぉぉ! 衛兵! 衛兵は何をしている! こいつらを捕らえろ!」
ジェラルド様が叫ぶが、衛兵たちは動けない。ジルベール様の背後に控える筋肉騎士団が、無言の圧力(筋肉ポーズ)をかけているからだ。
「ジェラルド様ぁ、怖いですぅ……」
ミナが王子の腕にしがみつく。
そして、上目遣いで私を睨んだ。
「リーリン様ぁ、ひどいですぅ。ジェラルド様をいじめるなんてぇ。それにそのドレス、どこで買ったんですかぁ? お金ないくせに無理しちゃってぇ」
ミナはクスクスと笑った。
「どうせ偽物(イミテーション)でしょ? かわいそう……」
その言葉に、周囲の貴族たちも「そうだそうだ」「落ちぶれた公爵令嬢が」と同調する空気になる。
私はため息をついた。
「……偽物、ですか」
私は自分のドレスの裾をつまんだ。
「このドレスの生地は、東方幻獣『シルクワーム』の糸を紡いだもの。市場価格は金貨二百枚。そしてこのブローチは、南方諸島で産出される最高純度のサファイア。……鑑定士を呼んでもよろしくてよ?」
「えっ……?」
「対して、ミナ様。あなたのそのピンクのドレス」
私は彼女のドレスを指差した。
「王都のデパートで『量産品』として売られている既製品ですね? セールのタグが見え隠れしていますよ」
「なっ……!?」
ミナが慌てて背中を隠す。
「さらに、その首元のダイヤ。……輝きが鈍い。ガラス玉ですね? 予算削減ですか? それとも、王子に買ってもらえなかったのですか?」
「ち、ちが……これは……!」
「あら、かわいそう。王子の寵愛を受けているはずなのに、偽物を身につけさせられるなんて。……王家の財政は、そこまで逼迫しているのですか?」
私の声は、会場中によく響いた。
「な、なんだと!?」
「王家が金欠……?」
「そういえば最近、王子の支払いが悪いという噂が……」
貴族たちがざわつき始める。
ジェラルド様の顔が真っ赤になる。
「だ、黙れ黙れ! でたらめを言うな! 私は金などいくらでも持っている!」
「そうですか? では、これは何でしょう?」
私は懐から、一枚の紙を取り出した。
バサッ。
それは、私が今日のために用意していた『決定的証拠』その1だった。
「これは、私が婚約者時代に立て替えた費用の『詳細明細書』です。そしてこちらは……王都の各商店から買い取った、殿下の『未払い請求書』の束です」
「は……?」
「債権譲渡の手続きは済ませてあります。つまり現在、殿下の借金の債権者は……この私です」
私はニッコリと、悪魔の微笑みを浮かべた。
「さあ、殿下。この晴れやかなパーティの席で、ご返済計画についてお話し合いをしましょうか? それとも……今ここで、現金で耳を揃えてお返しいただけますか?」
「あ、あ、あ……」
ジェラルド様は、パクパクと口を開閉させ、そして白目を剥いて泡を吹いた。
ドサッ。
「ジェラルド様ぁぁぁ!?」
王子、気絶。
会場は騒然となった。
私は冷ややかにその様子を見下ろし、ジルベール様に目配せをした。
「……とりあえず、第一ラウンドは私の勝ちですね」
「容赦ないな。気絶した相手からどうやって回収するんだ?」
「叩き起こしてでも回収しますよ。……お楽しみはこれからですわ」
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