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王立魔法学園の卒業記念パーティー。
その喧騒は、壇上に立った一人の男によって、ぴたりと静寂に変わった。
「皆、静粛に!」
高らかに響き渡る声の主は、この国の第一王子、エドワード・フォン・アースガルド。
金色の髪を揺らし、碧眼をキラキラと輝かせるその姿は、まさしく物語の王子様そのものだ。
そして、その腕の中には、桜色の髪をした小動物のように可憐な少女、リリアナ男爵令嬢が守られるように抱きかかえられている。
彼女はか細い声で、今にも泣き出しそうにエドワードの腕にすがりついた。
「エドワード様…もう、おやめくださいまし。わたくしは大丈夫ですわ。サーシャ様も、きっと悪気があったわけでは…」
その言葉が、エドワードの怒りに火を注いだようだった。
彼は壇上の少し離れた場所に立つ、一人の令嬢を鋭く睨みつける。
「悪気がないだと? リリアナ、君は優しすぎる! だが、私はもう我慢ならない!」
エドワードの指が、びしりとその令嬢――サーシャ・フォン・シュヴァルツに向けられる。
豪華な夜会服に、これでもかと巻かれた金髪の縦ロール。つり上がった紫の瞳。
誰もが息をのむほどの美貌だが、その印象はあまりにも傲岸不遜。
物語に登場する「悪役令嬢」を、そのまま現実にしたような女だった。
「サーシャ・フォン・シュヴァルツ! 君の度重なる悪行、もはや見過ごすことはできん!」
会場が一気にざわめきだす。
集まった貴族の子弟たちが、ヒソヒソと囁き合う声が聞こえてくる。
「まあ、やはり…」
「シュヴァルツ公爵令嬢は、嫉妬心からリリアナ様に酷い嫌がらせをしていたという噂は本当だったのね…」
「なんて恐ろしい…」
四方八方から突き刺さる非難の視線。
しかし、渦中のサーシャは全く動じることなく、優雅に扇を揺らしているだけだった。
(あらあら、始まりましたわね、茶番劇が)
内心、サーシャは盛大にあくびを噛み殺していた。
(それより、あちらのテーブルに並んでいるローストビーフ…完璧な焼き加減ですわ。ソースは赤ワインと香味野菜を煮詰めた本格的なものかしら。早く終わらせていただかないと、一番美味しいところがなくなってしまいますわ)
エドワードは、そんなサーシャの心中など知る由もなく、さらに声を張り上げる。
「君はこの可憐なリリアナに対し、夜会のドレスを汚し、階段から突き落とそうとし、あろうことか、大切にしていた本まで破り捨てた! すべては、私の婚約者である君の、醜い嫉妬心からだ!」
(まあ、すごい創作力。一つも身に覚えがありませんわ)
サーシャは感心すらしていた。
大体、自分がこんなか弱いだけの女に興味を持つはずがない。
階段から突き落とす? そんな面倒なこと、するわけがないではないか。
(それにしても、お腹が空きましたわ…)
サーシャの意識は、すでに晩餐会のメニューへと飛んでいた。
「君のような心の冷たい女に、この国の国母となる資格はない!」
エドワードは、腕の中のリリアナを愛おしそうに見つめ、そして、会場のすべてに聞こえるように高らかに宣言した。
「よって、今この時をもって、君との婚約を破棄する!」
おおっ、と会場が大きくどよめく。
これで終わりではない。
「そして私は、真実の愛を教えてくれたこのリリアナを、私の新たな婚約者として迎え入れることを、ここに誓う!」
リリアナは「そんな、恐れ多いですわ…」と頬を染めながらも、その瞳は勝ち誇ったように輝いていた。
次の瞬間、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
皆が、悲劇のヒロインが救われ、悪役令嬢が断罪されるこの瞬間を、まるで物語の一場面のように祝福している。
これで、サーシャ・フォン・シュヴァルツは終わりだ。
誰もがそう思った。
しかし。
「お待ちしておりましたわ、そのお言葉を!」
凛とした声が、祝福の空気を切り裂いた。
声の主は、当のサーシャ。
彼女は、先ほどまでの無表情が嘘のように、満面の笑みを浮かべていたのだ。
「なっ…!?」
一番驚いたのは、エドワードだった。
泣き崩れるか、逆上するか、あるいは許しを乞うか。
そんな反応を予想していた彼は、目の前の光景が信じられなかった。
サーシャは、完璧なカーテシー(貴婦人の礼)を一つしてみせると、優雅に言葉を続けた。
「エドワード殿下、そしてリリアナさん。お二人が真実の愛で結ばれているというのなら、わたくしのような障害は、さっさと取り除いて差し上げるのが慈悲というものですわよね?」
「な、何を言って…」
「ええ、ええ、わたくし、物分かりは良いのです。どうぞ、お気になさらないで。この婚約、喜んで白紙にさせていただきますわ」
にっこりと、花が咲くように笑うサーシャ。
そのあまりの潔さと、予想外の反応に、エドワードもリリアナも、そして会場の誰もが言葉を失い、ぽかんと口を開けている。
(ああ、スッキリいたしましたわ! これでようやく、面倒な妃教育からも、気の乗らないお茶会からも、そして何より、この空っぽな王子の隣からも解放される!)
サーシャの心は、青空のように晴れ渡っていた。
第二の人生。自由な時間。そして、何ものにも縛られずに堪能する、美食三昧の日々!
「それでは殿下、わたくしはこれにて失礼いたしますわ。どうぞ、末永くお幸せに!」
サーシャは、これ以上ないほど晴れやかな声でそう言うと、くるりと背を向けた。
ひらりと翻るドレスの裾が、まるで彼女の自由な心を象徴しているかのようだった。
呆然と立ち尽くすエドワードとリリアナ、そして困惑に満ちた静寂が支配する会場を後目に、サーシャの足取りは軽かった。
(さあ、まずは手始めにあのローストビーフをいただきませんと! わたくしの輝かしい未来に、祝杯ですわ!)
その喧騒は、壇上に立った一人の男によって、ぴたりと静寂に変わった。
「皆、静粛に!」
高らかに響き渡る声の主は、この国の第一王子、エドワード・フォン・アースガルド。
金色の髪を揺らし、碧眼をキラキラと輝かせるその姿は、まさしく物語の王子様そのものだ。
そして、その腕の中には、桜色の髪をした小動物のように可憐な少女、リリアナ男爵令嬢が守られるように抱きかかえられている。
彼女はか細い声で、今にも泣き出しそうにエドワードの腕にすがりついた。
「エドワード様…もう、おやめくださいまし。わたくしは大丈夫ですわ。サーシャ様も、きっと悪気があったわけでは…」
その言葉が、エドワードの怒りに火を注いだようだった。
彼は壇上の少し離れた場所に立つ、一人の令嬢を鋭く睨みつける。
「悪気がないだと? リリアナ、君は優しすぎる! だが、私はもう我慢ならない!」
エドワードの指が、びしりとその令嬢――サーシャ・フォン・シュヴァルツに向けられる。
豪華な夜会服に、これでもかと巻かれた金髪の縦ロール。つり上がった紫の瞳。
誰もが息をのむほどの美貌だが、その印象はあまりにも傲岸不遜。
物語に登場する「悪役令嬢」を、そのまま現実にしたような女だった。
「サーシャ・フォン・シュヴァルツ! 君の度重なる悪行、もはや見過ごすことはできん!」
会場が一気にざわめきだす。
集まった貴族の子弟たちが、ヒソヒソと囁き合う声が聞こえてくる。
「まあ、やはり…」
「シュヴァルツ公爵令嬢は、嫉妬心からリリアナ様に酷い嫌がらせをしていたという噂は本当だったのね…」
「なんて恐ろしい…」
四方八方から突き刺さる非難の視線。
しかし、渦中のサーシャは全く動じることなく、優雅に扇を揺らしているだけだった。
(あらあら、始まりましたわね、茶番劇が)
内心、サーシャは盛大にあくびを噛み殺していた。
(それより、あちらのテーブルに並んでいるローストビーフ…完璧な焼き加減ですわ。ソースは赤ワインと香味野菜を煮詰めた本格的なものかしら。早く終わらせていただかないと、一番美味しいところがなくなってしまいますわ)
エドワードは、そんなサーシャの心中など知る由もなく、さらに声を張り上げる。
「君はこの可憐なリリアナに対し、夜会のドレスを汚し、階段から突き落とそうとし、あろうことか、大切にしていた本まで破り捨てた! すべては、私の婚約者である君の、醜い嫉妬心からだ!」
(まあ、すごい創作力。一つも身に覚えがありませんわ)
サーシャは感心すらしていた。
大体、自分がこんなか弱いだけの女に興味を持つはずがない。
階段から突き落とす? そんな面倒なこと、するわけがないではないか。
(それにしても、お腹が空きましたわ…)
サーシャの意識は、すでに晩餐会のメニューへと飛んでいた。
「君のような心の冷たい女に、この国の国母となる資格はない!」
エドワードは、腕の中のリリアナを愛おしそうに見つめ、そして、会場のすべてに聞こえるように高らかに宣言した。
「よって、今この時をもって、君との婚約を破棄する!」
おおっ、と会場が大きくどよめく。
これで終わりではない。
「そして私は、真実の愛を教えてくれたこのリリアナを、私の新たな婚約者として迎え入れることを、ここに誓う!」
リリアナは「そんな、恐れ多いですわ…」と頬を染めながらも、その瞳は勝ち誇ったように輝いていた。
次の瞬間、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
皆が、悲劇のヒロインが救われ、悪役令嬢が断罪されるこの瞬間を、まるで物語の一場面のように祝福している。
これで、サーシャ・フォン・シュヴァルツは終わりだ。
誰もがそう思った。
しかし。
「お待ちしておりましたわ、そのお言葉を!」
凛とした声が、祝福の空気を切り裂いた。
声の主は、当のサーシャ。
彼女は、先ほどまでの無表情が嘘のように、満面の笑みを浮かべていたのだ。
「なっ…!?」
一番驚いたのは、エドワードだった。
泣き崩れるか、逆上するか、あるいは許しを乞うか。
そんな反応を予想していた彼は、目の前の光景が信じられなかった。
サーシャは、完璧なカーテシー(貴婦人の礼)を一つしてみせると、優雅に言葉を続けた。
「エドワード殿下、そしてリリアナさん。お二人が真実の愛で結ばれているというのなら、わたくしのような障害は、さっさと取り除いて差し上げるのが慈悲というものですわよね?」
「な、何を言って…」
「ええ、ええ、わたくし、物分かりは良いのです。どうぞ、お気になさらないで。この婚約、喜んで白紙にさせていただきますわ」
にっこりと、花が咲くように笑うサーシャ。
そのあまりの潔さと、予想外の反応に、エドワードもリリアナも、そして会場の誰もが言葉を失い、ぽかんと口を開けている。
(ああ、スッキリいたしましたわ! これでようやく、面倒な妃教育からも、気の乗らないお茶会からも、そして何より、この空っぽな王子の隣からも解放される!)
サーシャの心は、青空のように晴れ渡っていた。
第二の人生。自由な時間。そして、何ものにも縛られずに堪能する、美食三昧の日々!
「それでは殿下、わたくしはこれにて失礼いたしますわ。どうぞ、末永くお幸せに!」
サーシャは、これ以上ないほど晴れやかな声でそう言うと、くるりと背を向けた。
ひらりと翻るドレスの裾が、まるで彼女の自由な心を象徴しているかのようだった。
呆然と立ち尽くすエドワードとリリアナ、そして困惑に満ちた静寂が支配する会場を後目に、サーシャの足取りは軽かった。
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