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第2章

イベ、第ニ弾!

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「次は、この時期のビッグイベント…『瑠璃祭るりさい』よ!」

『瑠璃祭』。それは、日本でいえば文化祭のようなもの。来月の六月に行われることになっている。
この学園はちょっと日本と違っていて、文化祭を最初に行ってから、体育祭、音楽祭を行う。
日本でもそうだったように、この中で、ダントツに文化祭がカップルイベントであるといっても過言ではないっ!

普通なら、最高学年である私たちは、思いっきり楽しみたい人が多い。
…故に、文化祭実行委員みたいなめんどくさい役目はごめんなのだ。だから、

「ふふっ、私が実行委員になったからには、お化け屋敷作って存分にイチャイチャしてもらうわよ!」

実行委員になるのは簡単だった。
自分のクラスの出し物は、お化け屋敷だ。

「確か、ユリアはお化けが怖かったはず…!そこでルークにしがみつけば、つり橋効果使っていい雰囲気になっちゃうんだから!」

この人と一緒にいるとドキドキする……私、この人が好きなの、かも……

あーー!!いいわいいわ!
早速、準備に取りかかりましょう!

文化祭のことで頭がいっぱいなこの時の私は、気づいていなかった。
わずかに開いた扉の隙間から、自分をじっと見ている人影を。


❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎


---文化祭前夜。

「…えっ?な、なんでかしらっ?ユリア」

突然ルシアの部屋に訪れてきた人物--ユリアに、ルシアは困惑の声を上げていた。

「ですから、お姉様。私、明日は瑠璃祭に参加できなくなってしまったんです。伯母さまの容体が悪化してしまったみたいで…」

ユリアが言っていることが信じられなかった。

……こんなこと、ドキ胸にはなかった展開だ。

もしかしたら、裏展開なのかもしれない。

『あんなに楽しみにしていた瑠璃祭を参加しないで、伯母さまの体を心配するとは……なんて優しい人なんだユリア……!』

みたいな?
これなら、ルークにもいい印象を与えられるから、伯母さまも助けることができて一石二鳥だ。
でも、これはルークに気づかれない可能性もある。まさに賭けの状態とも言えるが、ゲームはうまくできてるので、そこらへんの心配はないだろうけど…。

「……お姉様?どうかされましたか?」
「ううん。なんでもないわ。伯母さまのことよろしくね」
「はい!」

まあ、大丈夫かな…
二人のイチャイチャがこの目で見れな…じゃなくて、物語通りに進んで欲しいけど。
それにしても、伯母さま大丈夫かな…?伯母さまの持病は発作が急だからなぁ。

私も近々行ってあげなきゃね。

❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎ 

---文化祭当日。

「これはここに置いて。それから--」

文化祭実行委員は、本当に大変で、息をつく間も無く仕事をこなしていかなきゃ終わらない。
文化祭の準備が終われば、多少は文化祭を回れるようになる。
今日はユリアがいないけど、仕事を休んでいい理由にはならないので、ひたすら仕事、仕事、仕事…

「そろそろ始めるわよ」
「「「はいっ!!」」」

こうして、お化け屋敷は無事に始まり、数分もしないうちにお客さんが入ってくる。
そのほとんどのお客さんは、カップルの若い男女が多い。
どうせ、怖がる彼女を俺がかっこよく守ってやる!みたいなことを考えてるんでしょうけど。
うちのお化け屋敷は、本当に怖いから。

ほら、中から男性の悲鳴まで聞こえてくる……

ユリアが来ないことをいいことに、半ば当てつけのように中を改造して、カップル撲滅を目標にしただけのことはあったわ。

……いい気味ね。

「ルシア様、休憩に入ってくださいな」

文化祭の午後を過ぎた頃。
クラスの女の子から声がかかり、ありがたく交代させてもらう。

「はぁ、疲れたわ…」

どこに行こうかと、迷いながらフラフラする。
お化け屋敷から少し行ったところで、そういえば一緒に回る友達いなくね?と思い至った。
一人で見て回ってもいいけれど、なんだか、それは少し寂しい気が……

うーん…と考えていると。

「…ルシア?」
「……っ!」

なんか今、聞き覚えのありすぎる声に呼ばれたような…??
まあ、気のせいだよね。
気のせいであってくれ…!!

「おい、ルシア。どこに行くんだ」
「……」

げ、幻聴だから。疲れて前世のゲームのルークボイスが、頭の中でリピートされてるだけだから!!

「待て、ルシア」

パシッと腕を掴まれ、逃げられない状況になる。

「聞こえていないのか?ルシア?」
「……!!!」

そんなにルシアルシア呼ばないで!
一つのカッコに必ずルシア入ってんじゃん!
何ですか?語尾がルシアにでもなったんですかーーー!!

「……ご、ごきげんよう、王太子殿下」
「あんなに声をかけたのになぜ無視した。聞こえていなかったのか?」
「はい、聞こえておりませんでした…以後気をつけます」

聞こえなかったんじゃなくて、聞きたくなかったんだけど。
というか、あれ、ルークの言葉使いが変わってる。
王太子としての威厳のためかな。

「逃げてるように見えたんだが……まあ、それはいいとして。ルシア、お前こんなところで何をしている?」
「文化祭を回ろうと考えておりまして」

一緒に回ってくれる友達はいませんけど。

「その先は行き止まりだぞ?」
「あ……」

本当だ。考えたり逃げたりしているうちに、塔の端の方まで来てしまっていた。
このまま行ったら、壁に頭ぶつけてたかも…
いや、体当たりしてたかもしれない。

「…ルシア、今日一緒に回る人はいないのか?」
「ええ、一人で回ろうと思っておりますけど」

私、友達いないから。ボッチだから。

「そ、そうか。なら、僕と一緒に--」
「おーい、王太子殿下!」

ルークが何か言いかけた瞬間、フォレストの馬鹿でかボイスで遮られる。

「……チッ」

今、この人舌打ちしました…??

「何の用だ、フォレスト」
「俺王太子の護衛なのに、そば離れちゃまずい…って、マリアージュ嬢ではないですか。ということは、お取り込みの最中でしたか?」

お取り込みの最中って何よ!

「いいえ、ただお話をしていただけですわ」
「そうでしたか。ところで、マリアージュ嬢は、この後、誰かと回るご予定はおありですか?」
「いえ、ないですけど」

ああ、騎士モードの敬語いい!
声優さんありがとう、もう私このボイスだけで、ご飯二杯食べれちゃう…!!

「では、俺たちと回りませんか?」
「は、い…?」

え、なんでこの流れで一緒に回るとかになってんの。
嫌だ、回りたくない、断固拒否する!
……なんて言えるはずもなく。

「一緒に回ってくれるよね?ルシア」
「はい……」

王太子にそこまで言われると、立場的に断りづらいというか。
まあ、私に拒否権なんてないんですよ…あはは。

「では、行きましょう」

今まで掴まれていた(忘れてた)手を離し、スッと前に差し出される。
えー…これ取らなきゃいけないやつじゃん…

静かに、それでいて嫌々手を乗せると、キュッと握られる。

「手を握っておけば、迷わないよね」

私は子供か。

「……それに、逃げられなくて済む」
「…?何か言いましたか?王太子殿下」
「ううん、なんでもないよ」

怪しげな雰囲気をまといながらも、優雅にエスコートしてくれるルークに、渋々付いて行ったのだった。

…それからというもの。

気付けば、一緒についてきていたフォレストの手が荷物でいっぱいになり、私は手にわたあめやら謎のお菓子やらを持って満喫していた。
すんごい見られてたけど。
まあ、そうなるよね。
隣には浮ついた噂一つたってない王太子と、連れてるのはこの国の最高騎士。

「ねえ、最後にルシアのクラス行ってみようよ!」
「えー…」

うちのクラスのお化け屋敷、すごい怖いんだよ…?
男性も絶叫しちゃうお化け屋敷なんだよ。

それに行くとかほんと無理だから。
前世にも文化祭でお化け屋敷とかあったけど、怖くて一回も入れなかったんだよ?
私、怖いの無理。ムリムリムリ。

「じゃあ、入ろうか」
「嫌です」

やだ。私は今から、ムリムリお化けになる。
これで無理やり入れたら、本当に呪うから!

「そんなこと言わないでさぁ、ほら、行くよー」
「…やだ……」

人の話を聞いてよ!
嫌だって言ってんじゃん。

「へえ、中って意外と暗いんだね」
「……ソウデスネ」

暗いし薄気味悪いしなんか寒いし!
誰だよ、こんなクオリティ高いお化け屋敷作ったやつ!
発案からすべて私だよ!ルシアだよ!!(※混乱中)

「ひっ、いいい、今、なんか足元、にっ」
「大丈夫だよ~」

もうやだ!早くここから出して…!!

「ま、待って、本当ムリだからっ」

こんなにルークが頼もしく感じることが今までにあっただろうか。
いや、こんな怖いところに連れてきたルークが今世界一憎いよ、私は。

「もう、早くこんなところ出てやる!」

今までルークが先に行っていたが、早く出たくてルークの前を歩いていく。

「あ、もう少しで出口だわ」

それに少し安心した瞬間。

「ばあっ!!」
「ひっ、いやああぁぁぁああ!!!」
「えっ?ルシア!?」

もう、本当やだ。
かくして私は、目の前に現れたお化け役の男の子に驚き、今日早起きしてずっと働いていたこともあって、プツリと意識が途切れたのだった。
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