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第8章
貰ったドレス
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「はぁぁ…憂鬱…」
貴族である以上、社交界に出なくてはならない。わかっている、私だってそのくらい。
わかってはいるんだけど。
「夜会になんて行きたくないぃ」
「何言ってるんですか、今更」
「うぅ…少しぐらい励ましてくれてもいいじゃない、カーネ」
「……」
私の髪を黙々と結い上げてくれている侍女のカーネことカーネル・アルーノに愚痴をこぼしていた。
彼女は私が小さい頃から支えてくれている侍女だ。歳は離れているけど、侍女というより幼なじみに近い感覚で接している。長い茶色の髪は後ろできっちりまとめられ、茶色の瞳は猫目で少し怖いが、彼女は優秀でよく働いてくれている。
今日は王家主催の夜会で、公爵家である私は出席しなければいけなかった。
ヨミが何をするかわからないから、じっくり監視しようとしていたのに……邪魔されたぁ!
なんで王族主催ってだけで義務が生じるのよ!
「ルシア様、よくお似合いですよ。さすが、殿下が選んだだけのことはあります」
「行きたくないぃぃ…」
「今言っても無駄ですよ。とっとと諦めてください」
「カーネが冷たいよぅ…」
そんなスッパリ切り捨てなくてもぉ…
「いつものことです」
「いつもはもっと優しいよ!」
「この会話、言葉が逆では…?まあ、いいですけど。ほら、迎えの馬車が来ましたよ。さっさと行きましょう」
「歩きにくい…」
「我慢してください。殿下からせっかくいただいたのですから」
ドレスは、紺色から暗い紫の色になっていて、金糸で星のようにところどころ刺繍が施されている。ふんだんにレースが使われていて、少し大人っぽいドレス。
このドレスは一目で気に入ったし、着ることに抵抗はなかった。
でも、何より一番問題だったのは、王太子が『私に』送ってきたこと。
あの後夜祭でルークと踊ったのはユリアであり私ではない。お茶会のお礼にっていうことなんだけど、私が受け取るのはお門違いな気がする。しかも、どき胸に出てきていたユリアのドレスにちょっと似てるし…。
そこに抵抗があったのだが、当のユリアは全く気にしていない。
それどころか、綺麗、可愛いと褒めてくれている。
まあ、ユリアがいいなら、いい……のか?
そう思いながら馬車の揺れを心地よく感じていると。
「ーーーーーだわ!」
「ーーーーー!!!」
どこからか声が聞こえてくる。
馬車を道の端に寄せて止めさせ、よく耳を澄ましてみると。
「あなたみたいなのがどうしてここにいるのよ!」
「さっさと帰りなさい。ここはあなたがきていい場所ではないわ」
なるほど、そういうことか。
どこぞのご令嬢方が、集団で注告、もといいじめをしているらしい。
まだ時間があることだし、止めに行こうか。
せっかくの夜会の道中でこのようなことがあったとバレれば、いじめている令嬢達もただでは済まされないだろう。
…本当は、誰かを囲っていじめていることでもうすでにアウトなんだけど。
しょうがないな、黙っててあげるか。まあ、大人しく引かないようであれば、言っちゃうかもだけど。
ゆっくりと馬車を降り、その集団に近づいていき。
「これはなんの騒ぎですの?」
「「「っ……!?」」」
後ろから声をかけた。鉄壁の笑顔を貼りつけて。
案の定、令嬢達は慌てたらしい。振り返った彼女達の顔を見て、記憶を掘り返していく。
……なんだ。ここにいる三人のご令嬢の身分は私より下か。
上のご令嬢がいたら少々厄介だと思っていたので、少し安心した。
「マ、マリアージュ公爵令嬢様。どうしてこちらに…?」
「…声が聞こえたのよ。あなた達は何をしているのかしら?」
「い、いえ…三人で楽しくお話をしていただけですわ」
三人の中のリーダーのような令嬢がそう言ったが、瞬間的に私は顔をしかめそうになった。
この人、馬鹿なの?
「あんなに大きな声を出して、ですか?」
「え、ええ!つい話が盛り上がってしまい…お恥ずかしいばかりです」
私の表情を見てうまくごまかしたと思っているようだけど、全然ごまかせていない。
いつまでもシラをきる令嬢を見て、思わずため息が出てしまった。
「……私は、『声が聞こえた』と言ったのよ?」
「……っ」
要するに、『あなた達の会話を聞いていたから、何を言っても無駄よ?』と言っているのだ。
私が何を言いたいのか察したご令嬢方の顔がサッと白くなる。
今は太陽が沈んだばかりで、紫色の空が徐々に暗く黒くなっていく。
……こんなことを言っては失礼だが、顔を白くした彼女達はまるで亡霊のようだ。
そんなことを思うと少し素で笑ってしまい、パッと扇で顔の下半分を隠す。
バレてなきゃいいんだけど…
「このことは黙っていますわ。だから早くお行きになって」
「「「はいッ!」」」
またもやすごく焦り、バタバタと去っていくご令嬢方。
その目には私に対する怯えの色がありありと浮かんでいた。
これはきっと、言われたら自分は終わりだという気持ちから来ているのだろう。
……決して、さっき私のブラックな笑みを見て怯えているせいではない…。
まあ、それはさておき。囲まれていた令嬢は……
「…大丈夫だったかしら?」
「あ、あああ……」
混乱と恐怖の極致にいる声が聞こえてきて、彼女がいるであろう方向に顔を向けると。
「ありがとうございますお姉様ぁぁぁぁぁああ!!!」
「ユ、ユリア!?」
彼女ーーユリアは凄い勢いで私に抱きついてきた。
目には涙が浮かんでいた。すごく怖かったのだろう。
わんわんと泣きじゃくるユリアの背中を優しく撫でていると、ふとあることに気づく。
「ユリア、これ……」
暗くて見にくいけど、確かにそこにはユリアのドレスと同じ色の布が落ちていた。
まさか…と思いユリアのドレスを見てみると。
「ドレスが…破れてる」
貴族である以上、社交界に出なくてはならない。わかっている、私だってそのくらい。
わかってはいるんだけど。
「夜会になんて行きたくないぃ」
「何言ってるんですか、今更」
「うぅ…少しぐらい励ましてくれてもいいじゃない、カーネ」
「……」
私の髪を黙々と結い上げてくれている侍女のカーネことカーネル・アルーノに愚痴をこぼしていた。
彼女は私が小さい頃から支えてくれている侍女だ。歳は離れているけど、侍女というより幼なじみに近い感覚で接している。長い茶色の髪は後ろできっちりまとめられ、茶色の瞳は猫目で少し怖いが、彼女は優秀でよく働いてくれている。
今日は王家主催の夜会で、公爵家である私は出席しなければいけなかった。
ヨミが何をするかわからないから、じっくり監視しようとしていたのに……邪魔されたぁ!
なんで王族主催ってだけで義務が生じるのよ!
「ルシア様、よくお似合いですよ。さすが、殿下が選んだだけのことはあります」
「行きたくないぃぃ…」
「今言っても無駄ですよ。とっとと諦めてください」
「カーネが冷たいよぅ…」
そんなスッパリ切り捨てなくてもぉ…
「いつものことです」
「いつもはもっと優しいよ!」
「この会話、言葉が逆では…?まあ、いいですけど。ほら、迎えの馬車が来ましたよ。さっさと行きましょう」
「歩きにくい…」
「我慢してください。殿下からせっかくいただいたのですから」
ドレスは、紺色から暗い紫の色になっていて、金糸で星のようにところどころ刺繍が施されている。ふんだんにレースが使われていて、少し大人っぽいドレス。
このドレスは一目で気に入ったし、着ることに抵抗はなかった。
でも、何より一番問題だったのは、王太子が『私に』送ってきたこと。
あの後夜祭でルークと踊ったのはユリアであり私ではない。お茶会のお礼にっていうことなんだけど、私が受け取るのはお門違いな気がする。しかも、どき胸に出てきていたユリアのドレスにちょっと似てるし…。
そこに抵抗があったのだが、当のユリアは全く気にしていない。
それどころか、綺麗、可愛いと褒めてくれている。
まあ、ユリアがいいなら、いい……のか?
そう思いながら馬車の揺れを心地よく感じていると。
「ーーーーーだわ!」
「ーーーーー!!!」
どこからか声が聞こえてくる。
馬車を道の端に寄せて止めさせ、よく耳を澄ましてみると。
「あなたみたいなのがどうしてここにいるのよ!」
「さっさと帰りなさい。ここはあなたがきていい場所ではないわ」
なるほど、そういうことか。
どこぞのご令嬢方が、集団で注告、もといいじめをしているらしい。
まだ時間があることだし、止めに行こうか。
せっかくの夜会の道中でこのようなことがあったとバレれば、いじめている令嬢達もただでは済まされないだろう。
…本当は、誰かを囲っていじめていることでもうすでにアウトなんだけど。
しょうがないな、黙っててあげるか。まあ、大人しく引かないようであれば、言っちゃうかもだけど。
ゆっくりと馬車を降り、その集団に近づいていき。
「これはなんの騒ぎですの?」
「「「っ……!?」」」
後ろから声をかけた。鉄壁の笑顔を貼りつけて。
案の定、令嬢達は慌てたらしい。振り返った彼女達の顔を見て、記憶を掘り返していく。
……なんだ。ここにいる三人のご令嬢の身分は私より下か。
上のご令嬢がいたら少々厄介だと思っていたので、少し安心した。
「マ、マリアージュ公爵令嬢様。どうしてこちらに…?」
「…声が聞こえたのよ。あなた達は何をしているのかしら?」
「い、いえ…三人で楽しくお話をしていただけですわ」
三人の中のリーダーのような令嬢がそう言ったが、瞬間的に私は顔をしかめそうになった。
この人、馬鹿なの?
「あんなに大きな声を出して、ですか?」
「え、ええ!つい話が盛り上がってしまい…お恥ずかしいばかりです」
私の表情を見てうまくごまかしたと思っているようだけど、全然ごまかせていない。
いつまでもシラをきる令嬢を見て、思わずため息が出てしまった。
「……私は、『声が聞こえた』と言ったのよ?」
「……っ」
要するに、『あなた達の会話を聞いていたから、何を言っても無駄よ?』と言っているのだ。
私が何を言いたいのか察したご令嬢方の顔がサッと白くなる。
今は太陽が沈んだばかりで、紫色の空が徐々に暗く黒くなっていく。
……こんなことを言っては失礼だが、顔を白くした彼女達はまるで亡霊のようだ。
そんなことを思うと少し素で笑ってしまい、パッと扇で顔の下半分を隠す。
バレてなきゃいいんだけど…
「このことは黙っていますわ。だから早くお行きになって」
「「「はいッ!」」」
またもやすごく焦り、バタバタと去っていくご令嬢方。
その目には私に対する怯えの色がありありと浮かんでいた。
これはきっと、言われたら自分は終わりだという気持ちから来ているのだろう。
……決して、さっき私のブラックな笑みを見て怯えているせいではない…。
まあ、それはさておき。囲まれていた令嬢は……
「…大丈夫だったかしら?」
「あ、あああ……」
混乱と恐怖の極致にいる声が聞こえてきて、彼女がいるであろう方向に顔を向けると。
「ありがとうございますお姉様ぁぁぁぁぁああ!!!」
「ユ、ユリア!?」
彼女ーーユリアは凄い勢いで私に抱きついてきた。
目には涙が浮かんでいた。すごく怖かったのだろう。
わんわんと泣きじゃくるユリアの背中を優しく撫でていると、ふとあることに気づく。
「ユリア、これ……」
暗くて見にくいけど、確かにそこにはユリアのドレスと同じ色の布が落ちていた。
まさか…と思いユリアのドレスを見てみると。
「ドレスが…破れてる」
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