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しおりを挟む男の子はハフハフとしながら、飲み物のようにうどん掻き込み、そしておかわりまでした。
意識朦朧としながら、よくそんなに食べれるなと思ったが、よっぽどお腹が空いていたのだろう。
満足したのか、食べ終わったらまた気絶してしまった。氷枕もだしてあげて落ち着いた彼は、今は深い眠りに落ちているようだ。
不思議な子だなぁと寝顔をまじまじと眺めた。見かけた記憶はないが、このマンションに住んでいる子だろうか?
コートのポケットには三つ目の猫の人形がついた鍵と、スマートフォンと飴の空袋が1つ入っているだけ。倒れてきた時にふわっと香った甘い香りは、この飴か、と納得した。鞄も財布も持っていなかった。
慌ただしいお世話を終え、自分もほぅと一息つくと急に現実に戻った気がした。
あんなに食べたのに、「ごはん…」とむにゃむにゃ寝言を言っている男の子に癒される。ふふっと笑うと、そのまま涙がだーと流れてきた。
ああ、また思い出しちゃった。
嫌だなぁ。
「っ……」
考えたくないのに、少し前のやりとりが頭の中をぐるぐると回る。
悔しい。
寂しい。
恥ずかしい。
まだ体の浮気の方が良かった。浮気じゃなくて、彼は本気だった。
この部屋で暮らしていいよ?
ふざけんな。
ひとりじゃ予算オーバー。家賃どーすんの。部屋も広すぎじゃない。
リビングの隅には結婚情報雑誌と式場の打ち合わせの書類が雑多に置きっぱなしになっていた。
「ううううう」
嗚咽を堪えきれずにいると、眠っていた筈の彼の手が毛布からにゅっと出てきて、頭をポンポンと撫でた。
「……」
突然の温もりにぽかんとした。
男の子は何も言わない。
目も閉じたまま。
寝ぼけてる?
わたしがどこの誰だかも理解していない彼は、荒い呼吸を繰り返しながらも、慰めるようにわたしの頭を撫で続けた。
涙が増える。
彼を起こさないように堪えていた泣き声も、みっともなく解放して、もうどうにでもなれとうわーと大胆に泣いた。
その涙は流しても流しても止まらなくて、
熱を持った手はその間ずっと、さわさわと心を暖め続けてくれた。
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