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しおりを挟む「おねーさーん」
心地よいソプラノボイス。ちょっとだけハスキーで、胸がきゅんとなるような声だった。
特徴があって可愛い声だから、あれ、テレビつけっぱなしだったけ?新しいアニメやってるのかなって思った。
どこかで聞いたことある気がした。
どこだっけ?
「おねーさんってば、起きて」
ゆさゆさ揺さぶられて、わたしは目を覚ました。
「へ?」
はっと頭を上げると、首がずきっといたんで動きを止めた。寝違えたかも。
腕は枕にしていたらしく、とんでもなく痺れていた。
「いたた」
足と腰も痛い。昨夜は大泣きしながら、そのままソファに寄りかかって眠ってしまったらしい。
「やっと起きた」
あはーと笑う美少年の顔が目の前に迫り、わたしは「わぁ」と仰け反った。男の子はソファにあぐらをかき、掛けてあげていた毛布を膝の上で抱いていた。
「え、あれ?!」
そうだ。昨夜わたしは婚約者を失い、自暴自棄的な勢いで、男の子を拾って帰ったんだった。
「おはようございます」
見た目は派手さにそぐわず、男の子は丁寧にお辞儀をした。
「お、おはようございます」
わたしは焦って正座になった。
あれ、何自分の家で緊張してるんだ。
目の前の男の子が眩しい。
「昨夜の記憶がさっぱりないんだけど、ええと、お世話になったみたいで…」
男の子はテーブルに置きっぱなしの空の器を指差し、「うどんの記憶だけはあるんだよね」と、気まずそうにした。
「……熱は?」
「うん?」
「君、昨日うちのマンションのエントランスに倒れてたの。凄い熱だったし、なんか飢えてたみたいだから連れてきちゃったんだけど」
「そういえば、風邪引いてたんだった」
男の子は思い出したように自分のおでこを確かめた。
「あ、体温計あるよ」
昨夜、測ろうとしてできなかった体温計がテーブルに転がっていた。渡すと男の子は素直に受け取り測った。
「36度4分。これって平熱?なら大丈夫そうだね。凄いね、一晩で下がるなんて若さかな」
「僕カッと熱が上がって下がるタイプなんだよね。まぁあと、疲れとか知恵熱とかストレスとか色々あったから」
あはーと笑う彼の雰囲気はフワフワとしていて、ストレスで倒れるようなタイプには見えなかった。
「色々すみません。ええと、今何時かな……」
男の子は時計を探してキョロキョロと部屋を見回した。
「あ、ええと、今ね……」
我が家のリビングには壁掛け時計が無かった。
というのも、素直と二人で選んだインテリア時計が、3ヶ月入荷まちという人気でまだ届いていないからだ。
床に転がったバッグからスマートフォンを取り出し、時間を確かめわたしはフリーズした。
「8時45分?!?!」
いきなり叫んだわたしに男の子は目を丸くした。
もう、どうがんばっても9時始業の仕事に間に合わない。
すっかり寝坊したわたしは「うわぁー」と頭を抱えた。
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