冷徹弁護士は甘い罠を張る

邉 紗

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示談

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「初めて文と会ったのは、本社の放火未遂事件の時だ。文はその場にいて、事故に巻き込まれた人たちを手当てしてくれたね」

「あの時の……? もしかして、七生さんも現場に居たんですか?」

「やっぱり気付いていなかったか。俺も文に手当をしてもらったんだよ」

文は驚く。
じつは、あの事故の話は全然記憶にない。

二日間の徹夜明けで、やっと帰路につけると思っていた時。
本館の企画部に報告書を提出し、そのまま帰ろうとして出くわした。

頭もフラフラしていたし、騒動でメガネが飛び壊れた。何も見えなくて、状況がまったく把握出来なかった。

寝たいとお風呂に入りたいを、エンドレスで考えていたことだけは記憶にある。
スーツの男性に火傷の傷痕について語ったような覚えが微かにあるが、あれが七生だったのか。

「自分も火傷をしたのに、周りの人たちの応急処置を優先していて、みんなが戸惑いと恐怖で落ち込んでいる中で、犯人の女を怖がらずに説得していた。まぁ、説得というより商品の性能説明に近かったけど、淡々と喋っていたのがよかったのかな。度肝を抜かれたし、とても興味がわいたよ」

放火未遂と言っても、火炎瓶の威力は弱かったし大事には至らなかった。
後日社長表彰まで受けて恐縮をした。

「寝ぼけていただけだと思うんですよね……」

「いいんだよ。そこがまた可愛かった」

「か、かわ……?」

嬉しくないとまでは言わないが、あの騒動の中そんなことを思っていたのか。

文は呆れた視線を向けた。

「可愛いと感じたのは後日。文が研究員で、本社の女性たちとは毛色が違うと知ってからだ」

七生は補足をする。

「ともかく、それから俺は顧問弁護士の契約をして、FUYOUへの出入りが増えるようにした。
何度か文に声をかけようとしてたけど、たまに会えても文は逃げてしまってなかなか接点がなくて……吾妻の抜擢で秘書課に来たときは、嬉しかったよ」

「わたし七生さんにだいぶいびられてましたけど?!」

思わず声を上げると七生は笑った。

「好きな子は虐めたくなるんだよね。まぁその前に文は知識が偏りすぎだよ。事務系の仕事壊滅的だったから、あれでも足りないくらいだ。出来に関しては三宅さんもかなり譲歩していたよ」

「あれで!」

文は肩を落とす。
全力を尽くしていたのに、それほど散々な評価だったとは。

「……なんでわたしなんですか? 七生さんなら選び放題じゃないですか。三宅さんとか仲良いみたいだし……」

ちょっと拗ねた気持ちで聞く。

「なんで三宅?」

「美人だし……」

「はは、三宅の事が分からないんじゃあ、まだまだ観察力が足りないな。俺と彼女はお互いあり得ないよ。お互い好みじゃないし、何より、手を出したらFUYOUから手を切られてもおかしくない」

七生は含み持った言い方をした。

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