63 / 65
示談
しおりを挟む
「初めて文と会ったのは、本社の放火未遂事件の時だ。文はその場にいて、事故に巻き込まれた人たちを手当てしてくれたね」
「あの時の……? もしかして、七生さんも現場に居たんですか?」
「やっぱり気付いていなかったか。俺も文に手当をしてもらったんだよ」
文は驚く。
じつは、あの事故の話は全然記憶にない。
二日間の徹夜明けで、やっと帰路につけると思っていた時。
本館の企画部に報告書を提出し、そのまま帰ろうとして出くわした。
頭もフラフラしていたし、騒動でメガネが飛び壊れた。何も見えなくて、状況がまったく把握出来なかった。
寝たいとお風呂に入りたいを、エンドレスで考えていたことだけは記憶にある。
スーツの男性に火傷の傷痕について語ったような覚えが微かにあるが、あれが七生だったのか。
「自分も火傷をしたのに、周りの人たちの応急処置を優先していて、みんなが戸惑いと恐怖で落ち込んでいる中で、犯人の女を怖がらずに説得していた。まぁ、説得というより商品の性能説明に近かったけど、淡々と喋っていたのがよかったのかな。度肝を抜かれたし、とても興味がわいたよ」
放火未遂と言っても、火炎瓶の威力は弱かったし大事には至らなかった。
後日社長表彰まで受けて恐縮をした。
「寝ぼけていただけだと思うんですよね……」
「いいんだよ。そこがまた可愛かった」
「か、かわ……?」
嬉しくないとまでは言わないが、あの騒動の中そんなことを思っていたのか。
文は呆れた視線を向けた。
「可愛いと感じたのは後日。文が研究員で、本社の女性たちとは毛色が違うと知ってからだ」
七生は補足をする。
「ともかく、それから俺は顧問弁護士の契約をして、FUYOUへの出入りが増えるようにした。
何度か文に声をかけようとしてたけど、たまに会えても文は逃げてしまってなかなか接点がなくて……吾妻の抜擢で秘書課に来たときは、嬉しかったよ」
「わたし七生さんにだいぶいびられてましたけど?!」
思わず声を上げると七生は笑った。
「好きな子は虐めたくなるんだよね。まぁその前に文は知識が偏りすぎだよ。事務系の仕事壊滅的だったから、あれでも足りないくらいだ。出来に関しては三宅さんもかなり譲歩していたよ」
「あれで!」
文は肩を落とす。
全力を尽くしていたのに、それほど散々な評価だったとは。
「……なんでわたしなんですか? 七生さんなら選び放題じゃないですか。三宅さんとか仲良いみたいだし……」
ちょっと拗ねた気持ちで聞く。
「なんで三宅?」
「美人だし……」
「はは、三宅の事が分からないんじゃあ、まだまだ観察力が足りないな。俺と彼女はお互いあり得ないよ。お互い好みじゃないし、何より、手を出したらFUYOUから手を切られてもおかしくない」
七生は含み持った言い方をした。
「あの時の……? もしかして、七生さんも現場に居たんですか?」
「やっぱり気付いていなかったか。俺も文に手当をしてもらったんだよ」
文は驚く。
じつは、あの事故の話は全然記憶にない。
二日間の徹夜明けで、やっと帰路につけると思っていた時。
本館の企画部に報告書を提出し、そのまま帰ろうとして出くわした。
頭もフラフラしていたし、騒動でメガネが飛び壊れた。何も見えなくて、状況がまったく把握出来なかった。
寝たいとお風呂に入りたいを、エンドレスで考えていたことだけは記憶にある。
スーツの男性に火傷の傷痕について語ったような覚えが微かにあるが、あれが七生だったのか。
「自分も火傷をしたのに、周りの人たちの応急処置を優先していて、みんなが戸惑いと恐怖で落ち込んでいる中で、犯人の女を怖がらずに説得していた。まぁ、説得というより商品の性能説明に近かったけど、淡々と喋っていたのがよかったのかな。度肝を抜かれたし、とても興味がわいたよ」
放火未遂と言っても、火炎瓶の威力は弱かったし大事には至らなかった。
後日社長表彰まで受けて恐縮をした。
「寝ぼけていただけだと思うんですよね……」
「いいんだよ。そこがまた可愛かった」
「か、かわ……?」
嬉しくないとまでは言わないが、あの騒動の中そんなことを思っていたのか。
文は呆れた視線を向けた。
「可愛いと感じたのは後日。文が研究員で、本社の女性たちとは毛色が違うと知ってからだ」
七生は補足をする。
「ともかく、それから俺は顧問弁護士の契約をして、FUYOUへの出入りが増えるようにした。
何度か文に声をかけようとしてたけど、たまに会えても文は逃げてしまってなかなか接点がなくて……吾妻の抜擢で秘書課に来たときは、嬉しかったよ」
「わたし七生さんにだいぶいびられてましたけど?!」
思わず声を上げると七生は笑った。
「好きな子は虐めたくなるんだよね。まぁその前に文は知識が偏りすぎだよ。事務系の仕事壊滅的だったから、あれでも足りないくらいだ。出来に関しては三宅さんもかなり譲歩していたよ」
「あれで!」
文は肩を落とす。
全力を尽くしていたのに、それほど散々な評価だったとは。
「……なんでわたしなんですか? 七生さんなら選び放題じゃないですか。三宅さんとか仲良いみたいだし……」
ちょっと拗ねた気持ちで聞く。
「なんで三宅?」
「美人だし……」
「はは、三宅の事が分からないんじゃあ、まだまだ観察力が足りないな。俺と彼女はお互いあり得ないよ。お互い好みじゃないし、何より、手を出したらFUYOUから手を切られてもおかしくない」
七生は含み持った言い方をした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
66
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる