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20.少しだけ嫉妬 sideスヴェイン&リリア

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 sideスヴェイン



 休日の午後、レティと午後のティータイムを過ごしていた。
 陽光が窓から差し込み、レティの美しい笑顔をさらに際立たせている。



「スヴェイン様、少しお願いがあるのですけど……」




 レティはカップを置き、ふんわりと微笑む。



「なんだい?」


 その柔らかな声に耳を傾ける。



「私、スヴェイン様からお花をもらうたびに、少しだけ嫉妬してしまうのです」


 レティは頬に手を当て、ほんのり恥じらうような愛らしい表情を浮かべた。



「嫉妬?」


 なぜだ? 不意の言葉に驚いて、彼女の顔を見つめる。



「だって、いただいているお花、スヴェイン様のお屋敷の庭のお花ではないのですもの。街のお花屋さんと聞いていましたが、誰に選んでもらっているのか、頻繁に足しげく通っている店員は女性なのかと思うと……」



 レティは頬を軽く赤らめて笑う。その表情は控えめながらも愛情に満ちている。



「ですので、今度、私も一緒に連れて行ってくださいませんか? そうすれば、私も安心できますし、お礼も言えますし……」


「もちろん、レティ。君が心配することは何もないが、安心するのなら一緒に街を散策しながら行ってみよう」


 その可愛らしい申し出に、特に深く考えずに頷いた。その言葉に満足したレティはにっこりと微笑む。





 *****

 sideリリア





 あっ、スヴェイン様だわ。


 彼を見かけるたびに理由をつけて彼に近づいた。


 強面で近寄りがたい印象を持っていたけれど、その顔にふと浮かぶ優しい微笑みや、不器用ながらも心のこもった親切に触れるたび、次第に目を離せなくなっていった。

 ――惹かれてしまったのだ。



 しかし、今日の彼には見慣れない美しい令嬢が寄り添っている。その姿を目にした瞬間、胸の奥に冷たい痛みが走る。


 令嬢は彼と並んで歩きながら微笑んでいた。美しく整ったその顔は穏やかで優しげに見えたが、目元にはどこか冷ややかな光が宿っている。その鋭さに、彼女がただの同行者ではないことを本能的に悟った。

 やがて二人は店の前で立ち止まり、スヴェイン様が軽く店内を促す。その動作に応じて令嬢が優雅に足を進めてきた。

「こんにちは、お花屋さん」



 静かに放たれた言葉が、まるで部屋の空気を変えるような重みを持って耳に届く。彼女の声は優美で礼儀正しいが、その奥には目に見えない力が宿っていた。



「……いらっしゃいませ」

「お花屋さん、いつもお花をありがとう。スヴェイン様からいただくたび、とても嬉しく思っていますの」



 その言葉が刺さるように胸に響く。



 ――この方が婚約者。



 精一杯の笑顔を作ろうとするが、手元がわずかに震える。

 令嬢は赤いバラに目を留め、すっと指を伸ばした。その仕草一つ一つが洗練されており、自然と視線を引き寄せられる。


「この赤いバラ、とても素敵ね。これで花束をお願いしたいのですけれど」


 震える手で花束を作り令嬢に渡す。


 花束を嬉しそうに抱える令嬢を見つめる、スヴェイン様の瞳には深い愛情が映っていることに気づき、胸が締め付けられる。


 店の中で息を潜めるように立ち尽くす自分とは対照的に、二人の姿は幸福そのものに見えた。


 赤いバラ――燃え上がる情熱を象徴するその花束が、二人の関係を物語っているように思えて、視界が歪むほどの切なさを覚える。


 立ち去ろうとした令嬢が振り返り、小声でささやく。



「……燃えるような情熱も、時には身を滅ぼすわ。ふふ、気をつけてね」



 その言葉の裏に隠された冷たい脅威に、背筋が凍るのを感じた。



 この人は、分かっている……。



 優雅で穏やかな口調の中に潜む令嬢の威圧感に、私は一歩も動けなくなってしまう。





 *****




 数日後の午後、再び令嬢が一人で店を訪れた。

 上質なドレスをまとい、優雅な笑顔を浮かべる彼女の登場に、店先は一瞬で緊張感に包まれた。




「こんにちは、お花屋さん。先日いただいたお花、とても素敵だったわ」



 令嬢は丁寧な口調で話しかけ、店内を見渡しながらゆっくりと歩く。その仕草は、店全体を値踏みしているかのようだった。



「あ、ありがとうございます。お気に召していただけましたのなら、また今度、スヴェイン様に渡し……」



 戸惑いながら返事をしようとすると、令嬢が軽く遮った。



「クレシー隊長と呼んでくださる?」 



 クレシー隊長……名前を呼ぶなということね。




「そうだわ……ひとつ気になることがあるの」


「気になること……ですか?」


 息を呑みながら答える。




「ええ。こんなに素敵なお店だもの、たくさんのお客様に愛されるべきよね。けれど、少しでも評判が悪くなってしまったら……それはとても残念なことだと思っているわ」



 令嬢の声は優雅で穏やかだが、その言葉の裏には確かな圧力が込められていた。


「評判……ですか?」


 不安を感じつつ、質問を返す。




「例えば――もし婚約者がいることを知っているのに、不適切な関係になろうと画策している者がお花を売っているだなんて噂が出たら、どう思うかしら?」

「そんな噂は……」


 必死に否定しようとするが、令嬢はそれを遮るように軽く手を振った。



「もちろん、そんなことはあってはならないわ。奥様や恋人にお花を贈る男性も客としてよく来るでしょうし、そんな噂が出たら終わりよね。私もできるだけ、この素敵なお店が長く続くように祈っているわ」

 そう言いながら、令嬢は一輪の花を手に取り、にっこりと微笑む。



「だからこそ、あなたも慎重であるべきよね。大事なお店を守るために」




 一輪の花を買うにはあまりにも大きな金額を置き、令嬢は馬車に向かって優雅に立ち去った。

 残された私は、胸の奥に冷たい重石がのしかかるような感覚に耐えるしかなかった。



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