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11.誰かの役に立つ
しおりを挟む「ねえ、聞いてよフローリア。今日全然、髪がまとまらなくって。この雨のせいよ。最悪ー」
サラが作業室に遊びに来たかと思うと、テーブルに突っ伏して大きなため息をついた。
サラは騎士団の食堂で働く、3歳年上の明るい女性で、寮にある私の部屋の隣に住んでいる。初めて出会ったとき、彼女は「3歳差なんて誤差よ、サラって呼んで」と言い放ち、その陽気さとぐいぐい来る距離感の近さに少し戸惑ったのを覚えている。でも、サラのように感情を率直に表す人は逆に付き合いやすい。言葉の裏を探る必要がないから、自然と会話が弾むのだ。
「今日は、出かける予定でもあるのですか?」
「ないわよ?いつも通り食堂と寮の往復だけ。でもこんな髪じゃテンション上がらないじゃない?」
そう言う彼女は、いつも通り可愛いと私は思うのだが、今日はどうやら気分が乗らないらしい。
「ああ、今日はもう仕事休んじゃおうかなー」
サラが呟く。髪がまとまらないから仕事を休む!?
「本気ですか?」
つい問い返してしまった。
「…いや、分かっているわよ?誰も私の髪なんて気にしてないって。食堂では、結ぶしね。でも、そういうことじゃないのよ。私のことは、私が見るじゃない?気に入らない自分なんてさ…誰かに気にすることないって言われても、ちょっとねー」
サラが、自分の気持ちをぽつりと打ち明ける。
危ない!つい「気にすることないですよ」と言うところだった。…すんでのところで踏みとどまってよかったわ。
「髪がまとまればいいのですね。わかりました。少しお待ちください」
私は、そうサラに告げ、薬に使えるものを書き留めた研究ノートを開く。確か、以前美容液を作った時に調べた成分の中に、髪にも使えるものがあったはず…。
ノートを見返し、今、手元にある材料で使えそうなものを選んで、調合を始める。サラが興味津々で、その様子をじっと見守っている。
「できました」
配合したものを小瓶に入れ、サラに差し出した。
「フローリア、これは何?」
「これは、ヘアオイルです。オリーブオイルと柚子油、それにいくつかのハーブを加えました。サラの髪は少し猫っ毛なので、湿気を吸いやすい髪質だと思います。このオイルを使えば、雨の日でも髪が広がったりうねったりするのを防げます」
「すごい!ねえ、付けてみてもいい?」
サラの顔がぱっと明るくなる。
「どうぞ。ただ、少しずつ様子を見ながら使ってくださいね。あまりつけすぎるとベタベタになってしまいますから」
「わかったわ。…うわぁ、パサつきや広がりが抑えられて…しっとりしてる!すごい、私史上最高の髪じゃない?」
サラが鏡を見て嬉しそうに髪を撫でる。
「肌にも良い成分なので、顔にも使えますよ。材料があれば、このオイルに香りを付けることもできるのですが…」
「肌にも?え!香り付き!?すごいじゃない。ねえ、もし、もしもよ。フローリアに時間があったら、その香り付きのオイル、いつか作ってもらえる?私、いつまででも待つわ」
「ええ、サラ、大丈夫ですよ。そんなに待たせないと思いますので、後で好きな香りを教えてください」
「やったー、フローリア大好き!今日のお昼にフローリアにだけ特別にデザートを付けてあげる。ふふ、よし、テンションも上がったし、仕事に行ってくるねー」
そう言って、サラは満足げに作業室を後にした。
彼女の特別なデザート、きっと得意なアップルパイかな?ふふ、楽しみだわ。
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