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第一章 名医の条件、仁医の条件
一難去ってまた一難
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翌日の早朝、招かざる客と珍客に急襲され、跳ね起きた桔梗は慌てて身形を整え、彼らを自宅の客室へ通した。
その途中、フィリップから苦言、諫言、忠言をねちっこく呈され、精も根も尽き果てる。
今にもゾンビになりそうだ。
それを知ってか知らずか、フィリップは苦笑した。
青藍色の目、背中を覆う白髪を襟足で括っている。
柔和な容貌、高い身長、スラッとした体躯、それらを引き立てる黒い燕尾服。
ダンディズムの塊だ。
向き合う三人の間には古いリビングテーブル(木製)があり、その上に桔梗が淹れたティティーが乗っている。
朝茶は福が増すと言うが、今日は福のふの字まで逃げそうだ。
縁起でもない。
「という訳で、妻の診察が終わり次第哨鎧騎士団の詰め所に出頭して頂きたい」
「致しかねます、と言ったら?」
「私がお連れする事になる」
何がどうなってという訳なのか分からないとか、出頭して頂きたいじゃなくて出頭しなさいの間違いだろとか、潔く連行するって言ったらどうだとか、色々な物をグッと呑み込んで溜め息をつく桔梗。
『拒否権はないって事ね。
たくっ、次から次へと………』
桔梗はフィリップとラルフを見据え、次いで口を開く。
「私も暇ではありません。
患者は増える一方、薬は減る一方、軍人病の流行期は来る、猫の手も借りたいんですよ?」
軍人病は地球では足白癬又は水虫と呼ばれており、数十年前に隣国から革製の軍靴の製法と共に入って来た。
水虫は高温多湿を好む。
軍人や騎士は集団生活が多く、一人が発症すればあっと言う間に広がる。
たかが水虫、されど水虫、常に死と隣り合わせの彼らにとってあの痒みは天敵に等しい。
幸か不幸かガヴィッツ領の大半は豪雪地帯であり、水虫が問題視されるのは空燃えの初めから星渡りまでだ。
「分かっている。
ミス セイレンは我が家の、いや、我が一族の恩人だ。
出来る限りの便宜を図ると約束する」
桔梗の全身に鳥肌が立った。
『さっ、寒ぅ~~~~~。
寒過ぎる!!!
誰が精霊?!
頭冷やせっ、変態!!』
イシリエン帝国では中・下流階級の既婚女性をマダム ◯◯と呼び、未婚女性をミス ◯◯○○と呼び、少女をヴィヴィアン ◯◯と呼ぶ。
姓は上流階級しか持っていない。
余談だが、セイレンとはイシリエン帝国の国教・レムリア教の夜の精霊だ。
闇の女神の眷属にして、月の神の正妻である。
闇の女神の祝福を受けた花を持って世界を一周し、夜を呼ぶ。
かつては海の魔物であり、美しい歌声で人を誘き寄せて喰い殺していたが、その声を闇の女神が気に入り、眷属として迎え入れ、鳥の下半身、黒い翼、夜空のような髪と目を授けたと云われている。
この大陸には東洋風の国がない。
発音が上手く伝わらず、桔梗がキッキーになったりヒッキーになったりキキューになったり、降魔がコウになったりゴウンになったりゴマになったり、ウマ コッコウと呼んだ人もいる。
桔梗が自棄っぱちにもう好きに呼んで下さいと匙を投げた結果、セシリャの傍迷惑なネーミングセンスが光った。
痛恨の一撃である。
「ミス セイレン?」
フィリップに呼ばれ、ハッとする桔梗。
ミス セイレンの攻撃力は劇薬並のようだ。
「申し訳ありません。
疲れが溜まっているようで」
中二病全開に呼ばれて羞恥心がヤバイですとは口が裂けても言えなかった。
桔梗のモットーは一に保身、二に保身、三、四がなくて五に保身である。
頭に血が上った時は例外だが。
「いや、こちらこそ申し訳ない。
あなたに累が及ばないようにするつもりだったのだが、哨鎧騎士が相手では……、な」
苦虫を噛み潰したような顔で溜め息を吐くフィリップ。
その後をラルフが引き取る。
「悪く思わねぇでやってくれ。
哨鎧騎士は国防の要、身分は同等だが、あっちには国のお墨付きがある。
捜査に必要と言われたら、断れねぇ」
「哨鎧騎士が出て来る事がおかしいでしょう。
彼らの担当は国外、国内は剣盾と領主の私兵の担当では?」
「平時ならな。
ウチは国境に近いし、隣は魔術と煉丹術で鳴らすアノル首長国だ」
息を呑む桔梗。
その顔に緊張の色が浮かぶ。
「何かあったんですね?
正直に答えて下さらないなら、意地でも出頭しません」
哨鎧騎士団を見た時から全身に纏い付く、言い知れぬ不安。
何か起きている、いや、何か起ころうとしていると確信した桔梗に詰め寄られ、二人の視線が絡む。
フィリップが苦笑すると、ラルフは軽く頷いてから口を開いた。
「ここだけの話にしてくれ」
そう断った彼が口にしたのは桔梗のド肝を抜く話だった。
悪い意味で。
その途中、フィリップから苦言、諫言、忠言をねちっこく呈され、精も根も尽き果てる。
今にもゾンビになりそうだ。
それを知ってか知らずか、フィリップは苦笑した。
青藍色の目、背中を覆う白髪を襟足で括っている。
柔和な容貌、高い身長、スラッとした体躯、それらを引き立てる黒い燕尾服。
ダンディズムの塊だ。
向き合う三人の間には古いリビングテーブル(木製)があり、その上に桔梗が淹れたティティーが乗っている。
朝茶は福が増すと言うが、今日は福のふの字まで逃げそうだ。
縁起でもない。
「という訳で、妻の診察が終わり次第哨鎧騎士団の詰め所に出頭して頂きたい」
「致しかねます、と言ったら?」
「私がお連れする事になる」
何がどうなってという訳なのか分からないとか、出頭して頂きたいじゃなくて出頭しなさいの間違いだろとか、潔く連行するって言ったらどうだとか、色々な物をグッと呑み込んで溜め息をつく桔梗。
『拒否権はないって事ね。
たくっ、次から次へと………』
桔梗はフィリップとラルフを見据え、次いで口を開く。
「私も暇ではありません。
患者は増える一方、薬は減る一方、軍人病の流行期は来る、猫の手も借りたいんですよ?」
軍人病は地球では足白癬又は水虫と呼ばれており、数十年前に隣国から革製の軍靴の製法と共に入って来た。
水虫は高温多湿を好む。
軍人や騎士は集団生活が多く、一人が発症すればあっと言う間に広がる。
たかが水虫、されど水虫、常に死と隣り合わせの彼らにとってあの痒みは天敵に等しい。
幸か不幸かガヴィッツ領の大半は豪雪地帯であり、水虫が問題視されるのは空燃えの初めから星渡りまでだ。
「分かっている。
ミス セイレンは我が家の、いや、我が一族の恩人だ。
出来る限りの便宜を図ると約束する」
桔梗の全身に鳥肌が立った。
『さっ、寒ぅ~~~~~。
寒過ぎる!!!
誰が精霊?!
頭冷やせっ、変態!!』
イシリエン帝国では中・下流階級の既婚女性をマダム ◯◯と呼び、未婚女性をミス ◯◯○○と呼び、少女をヴィヴィアン ◯◯と呼ぶ。
姓は上流階級しか持っていない。
余談だが、セイレンとはイシリエン帝国の国教・レムリア教の夜の精霊だ。
闇の女神の眷属にして、月の神の正妻である。
闇の女神の祝福を受けた花を持って世界を一周し、夜を呼ぶ。
かつては海の魔物であり、美しい歌声で人を誘き寄せて喰い殺していたが、その声を闇の女神が気に入り、眷属として迎え入れ、鳥の下半身、黒い翼、夜空のような髪と目を授けたと云われている。
この大陸には東洋風の国がない。
発音が上手く伝わらず、桔梗がキッキーになったりヒッキーになったりキキューになったり、降魔がコウになったりゴウンになったりゴマになったり、ウマ コッコウと呼んだ人もいる。
桔梗が自棄っぱちにもう好きに呼んで下さいと匙を投げた結果、セシリャの傍迷惑なネーミングセンスが光った。
痛恨の一撃である。
「ミス セイレン?」
フィリップに呼ばれ、ハッとする桔梗。
ミス セイレンの攻撃力は劇薬並のようだ。
「申し訳ありません。
疲れが溜まっているようで」
中二病全開に呼ばれて羞恥心がヤバイですとは口が裂けても言えなかった。
桔梗のモットーは一に保身、二に保身、三、四がなくて五に保身である。
頭に血が上った時は例外だが。
「いや、こちらこそ申し訳ない。
あなたに累が及ばないようにするつもりだったのだが、哨鎧騎士が相手では……、な」
苦虫を噛み潰したような顔で溜め息を吐くフィリップ。
その後をラルフが引き取る。
「悪く思わねぇでやってくれ。
哨鎧騎士は国防の要、身分は同等だが、あっちには国のお墨付きがある。
捜査に必要と言われたら、断れねぇ」
「哨鎧騎士が出て来る事がおかしいでしょう。
彼らの担当は国外、国内は剣盾と領主の私兵の担当では?」
「平時ならな。
ウチは国境に近いし、隣は魔術と煉丹術で鳴らすアノル首長国だ」
息を呑む桔梗。
その顔に緊張の色が浮かぶ。
「何かあったんですね?
正直に答えて下さらないなら、意地でも出頭しません」
哨鎧騎士団を見た時から全身に纏い付く、言い知れぬ不安。
何か起きている、いや、何か起ころうとしていると確信した桔梗に詰め寄られ、二人の視線が絡む。
フィリップが苦笑すると、ラルフは軽く頷いてから口を開いた。
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