帝国魔女奇譚~そのご遺体、承ります~

水芙蓉

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第一章 名医の条件、仁医の条件

不幸中の幸い

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翌日、セシリャと優雅に朝食を摂り、たっかい礼金をせしめた桔梗。
彼女はグスタヴス家の家令に玄関まで見送られ、丁重に馬車に乗せられる。
貴族の馬車は目立つからと、徒歩で帰ろうとした桔梗に辻馬車を用意したのも彼だ。

『大事になってしまった』

下にも置かぬ扱いを受け、どうにも居心地が悪い。

『こういうのを分不相応ってんだろうな。
私は貴族でも金持ちでもないし、やっぱ歩けば良かった。
健康の為にも。
最近太ってきたし』

現実は残酷である。
この星に来た日から減り続けた肉布団が動き始めている。
このままでは悪夢リバウンドの再来だ。
1kgの油断が5kgの後悔になると、桔梗は知っている。

『まぁ、今でもぽっちゃりなんだけど………。
こっちに来た日から考えて、もう誕生日は過ぎてる筈、私もいよいよ三十路かぁ。
年取ったら太りやすくなるっていうし、気を付けないと』

まだぽっちゃりの枠に収まっている、いや、収まっていると思いたいのが乙女?心である。




桔梗が乙女になっていた頃、ユリウスは鬼になっていた。
青筋を立て、目を三角にし、眉を吊り上げ、しかし、唇は微笑んでいる。
美人が怒ると怖いというが、怖いを通り越して不気味だ。

『マズイな。
ユア ファリスはプライドが高い。
平民、それも魔女に1ときも待たされたとあっては立つ瀬がない』

ユア ファリスとはイシリエン帝国の騎士の敬称だ。
出身に関わらず、騎士であれば下の身分の者からユア ファリスと呼ばれる。
上の身分の者はファリス 〇〇と呼ぶが、親しい者は愛称や名前で呼ぶ事が多い。

ユリウスの従騎士の一人・ルイス ロススタインは唇を曲げる。

『あの女、何て日に何て事を………』

従騎士は二人一組であり、ルイスはルチアーノという少年と組んでいる。
人懐こい彼はユリウスの宥め役だが、今は休暇中だ。
悲劇である、ルイスにとっても、桔梗にとっても。

『沈黙が痛い。
何か話題を…………、雑談は無理だし、今日の予定の確認は怒りを煽りかねんし、困った、こっちはルチアーノに任せきりだったからなぁ。
頼む、帰って来てくれ』

ルイスは信じてもいない神に祈った。
彼はリアリストである。
奇跡を祈るより書類一枚でも処理した方がマシだと思っているし、神がいるなら戦争はねぇよと常々言っている。
それでも、今だけは心から祈った。




腹も懐も暖かくなり、意気揚揚と帰宅した桔梗は手ぐすね引いて待ち構えていた鬼、いや、ユリウスに馬車から降りた途端にとっ捕まった。
ふざけないで頂きたい!!と怒鳴られ、今は何時なんときでしょうか?と嫌みったらしく訊かれ、今日から助手という名のお目付け役が来る事を思い出したが、時既にお寿司。
見られたくない物(見られたらヤバイ物)は自宅に隠しておいたので、不幸中の幸いである。
止まらない説教を聞き流し、桔梗は彼らを診療所の客室へ通した。
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