彼女は特殊清掃業

犬丸継見

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狂犬縁起――序

「イヌガミアキコ」縁起ノ事

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 わたしが物心ついた時、家は荒れていた。おじいちゃんもおばあちゃんも寝たきりになっていて、お父さんは働いてはいたけどすぐ癇癪を起して、弟のことを怒鳴ったり独り言で大声で叫んだりしていた。遠くから嫁いできたお母さんはいつも泣いてて、楽になりたい、こんなはずじゃなかったって言ってた。わたしはどうしたらいいかわからなくて、小学校で無視されてることも言い出せなかったし、ひたすらお母さんと弟のことを心配した。弟もだんだんやんちゃになってきて、わたしが世話を焼くようになった。みんながみんな、それぞれ問題を抱えていた。わたしは、お父さんが電話に怒ったり、お母さんがあんなに泣くのは仕事のこととか家のおじいちゃんとおばあちゃんのお世話が嫌になってるからだと思っていた。

 でも、本当は違ってた。お母さんが泣いてるのは、「お父さんのお姉さんたち」にいじめられてたんだ。お父さんの一番上のお姉さん、ミヨおばさんはお金の使い方がわからないのか、色々いろんなものを食べたり好き勝手してるわがままな人だ、ってお母さんが言ってた。ミヨおばさんは払いきれない借金をほんけ?のうちに押し付けようとした。だけど、お父さんが怒鳴り散らして借金取りを追い返した。借金取りはお父さんが■■■から、死んでしまった。一人の借金取りをお父さんが■■■後、ミヨおばさん本人も、ミヨおばさんをを追う借金取りたちもうちに寄りつかなくなったし、ドラマとかアニメで見るみたいな「金返せ!」「泥棒!」みたいな張り紙や落書きもなかった。ただ、わたしと弟が2人でいる時、借金取りの1人みたいなひとが近づきいてきて、怖い顔で
「おまえらは■■■■■■だ!人殺し!」
 って、大声で怒鳴られた。わたしはよくわからなかった。弟は泣いていた。お母さんにそれを伝えると、お父さんとおじいちゃんのところにわたしたちを連れて行った。おじいちゃんとお父さんは、わたしたちの前で■になって見せた。とっても驚いた。怖かった。確かに、あのおじさんは■って言ってたけど、本当に私のおじいちゃんもお父さんも■なんだ。おじいちゃんなんて、ベッドの上で横になった■になってた。苦しそうだった。いつものおじいちゃんだった。お母さんもそうなの?って聞いたら、
「お母さんはならない。よそから来た人だから。おばあちゃんもならない」
 って、お父さんが■のからだのまましゃべった。
「おまえも(弟)も、お父さんの姉ちゃんたち、おばさんたちもみんな■になれるん
 だ。おばさんたちはもう■になれてて、3人そろってお母さんをいじめるからお父
 さんは1人じゃなかなか勝てない。おまえと(弟)が■になったら、いっしょにお
 ばさんたちを■■てくれよ」
「わかった」
 わたしはまだよくわからなかったし、自分が■になるっていうのも信じられなかったけどお父さんがあんまり苦しそうにするから答えた。弟はよくわかってないみたいだった。
 
 お母さんはどうして■じゃないのにうちに来たの?っておばあちゃんに聞くと、「ひとばしら」「ひとみごくう」としてうちにきた、って言った。わたしもそうよ、っておばあちゃんは言った。おばあちゃんは近所の、お母さんは山のおまじない屋さんだったみたい。お母さんはもう山で暮らせなくなって、街におりてきてお父さんに会っておみあい?して結婚したんだって。
 どうしてお父さんと?って聞いたら、この家は■■■■■■だからおまじない屋さんにおさえてもらう?必要があるんだよっておばあちゃんは言った。おばあちゃんもおじいちゃんをおさえてたよって言ったし、お父さんは確かに怒りっぽくて怖いことがあるけど、お母さんが止めたりなだめたり、そっとさわっただけでおとなしくなることがあった。わたしはお母さんもお父さんもどっちも好きだったけど、弟はお母さんの方ばっかりべったりだったし。それはみんなが■だからなんだ。でも、お母さんは自分の力をわかってない、っておばあちゃんは言った。

 おばさんたち、特に近所に住んでるジュンコおばさんはお母さんのことが一番嫌いみたいだった一番気が強くて一番口が悪いジュンコおばちゃん。お母さんにしつこくしつこく悪口の電話したり、変な手紙送ったりしてお母さんをいじめる。そとで悪口を言ったり、色々。きっとお母さんの力が怖いんだ。だから追い出そうとしてるんじゃないかなあ、って思った。おばさんたちは■だけど、お父さんみたいにお母さんの力でしずまる?んじゃなくて逆にお母さんの力が嫌いなんだ。
 それに、ジュンコおばちゃんはうちの家を、ほんけ?を狙ってるんだっておじいちゃんが言ってた。広い家でお店をしたいんだって。いさん?が全部ほしいんだって。うちがほんけ?で色々持ってるから、それをぜんぶ、おかね、おうち、いさん?全部がうらやましくて欲しいんだって。だから、お父さんよりも強い■の力を使って、お母さんをよわらせて、お父さんとおじいちゃんおばあちゃんも■■■つもりなんだって。
「どうしてジュンコおばさんはつよいの?」
「■の力が強いけんよ。色々■■て、あの子は昔から意地汚い子やったから。それに
 ■の力はうらみ、ねたみ……『うらやましい』ていう気持ちで強うなるけん」
 って、おばあちゃんは寝たきりになって言った。昔はかわええ子やったのになあ、って悲しそうに言ってた。
 お母さんは毎日泣いてる。ジュンコおばさんはある日弟を誘拐した。近所だから警察に逮捕とかはされなかったけど、■■ようとしたのかもしれないし、自分の家の子にしてそのままうちを乗っ取る気だったのかもしれない。お母さんが大泣きして、お父さんが助けに行った。お父さんは大怪我して帰って来た。弟はえーんえーんって泣いてた。おばさん3人いた、って言ってた。
「ミヨ、アケミ、ジュンコがいた。あいつら、3人してうちの全部を狙ってる。どう
 する、警察呼ぶか」
「もう、縁は切れないの?カテイサイバンショに行っても無理なの?」
「無理だって。家族の縁を切るっていうのは、そうそうできるもんじゃないって」
 お父さんは悔しそうで、お母さんはさめざめ泣いてた。もうこんな悲しい家嫌だなあ、私が■なら、おばさんたちを■■ちゃうのに、って私は怒った。

 弟の次は私だった。小学校の帰り道、いきなりスポーツカー?に乗ったジュンコおばさんに車に引きずり込まれた。
「いいから、さっさと来な!」
 化粧の濃いジュンコおばさんと、借金してたミヨおばさんと、前は仲良しだったはずのアケミおばさんが、ジュンコおばさんの車の中にいた。そのままジュンコおばさんの家におばさんたちが私をつれこんで、ピアノのある部屋に連れてきた。ジュンコおばさんは前から変な人で、この部屋――ジュンコおばさんとこのおねえちゃんたちのピアノがある部屋——は、壁一面にいろんな国のお面とか、おふだみたいなものが貼ってあってとってもこわい。私はこの部屋が一番嫌い。3人のおばさんに囲まれて、わたしは電話をすることも逃げることもできなかった。ジュンコおばさんは口を大きく開けて笑った。怖い話の口さけ女みたいだな、って思った。
「こいつを■■■して■■を高めてホンケを乗っ取るんだよ!フドウサンはあたしが
 もらう!金はミヨとアケミにやるよ!どうせ(お父さん)にホンケをやったってろ
 くなことにならないんだからさ!あいつは弱い■だし、あの糞女にはあたしらをし
 ずめられないだろうしねえ!」
「間違いないね!やっぱりアンタは賢いよ!■■の鑑だねえ!何でも奪っていくのが
 私らだもんねえ!やっちまおうぜ!私の借金も帳消しだ!奪った金で完済しても釣
 銭が来るよ!」
「まあ、(お母さん)なんかに頼っちゃったのが運の尽きよね。あんな嫌な女をうち
 に引き入れるなんて、■■■■■■の血が汚れちゃうわね。だからいいわ、やっち
 ゃいましょ。人間としてはいい人なんだけどねえ、やっぱり拝み屋の血がお母さん
 より強いから、忌々しいったらありゃしない、親戚づきあいも限界だわ」

 ジュンコおばさんはわたしの家が欲しい。ミヨおばさんはお金が欲しい。アケミおばさんはお母さんのことが嫌い。だから、わたしを■■■。

「だから、騒ぐんじゃないよ!おとなしく■■■な!」
 四方八方から、■になったおばちゃんたちが襲い掛かって来る。死んじゃう、殺されちゃう、って思ったけど、それよりも私はよっぽど怒っていた。
「家がないのも、お金がないのも、お母さんとうまくできないのも、ぜんぶおばさん
 たちがおとななのにちゃんとできないからじゃない!同じ■■■■■■なのに、
 散々わたしのお父さんとお母さんに、おじちゃんとおばあちゃんに、弟をいっぱい
 いっぱい泣かせたじゃない!



 私は■の姿になった。■の姿になった私は、おばちゃんたちよりもひとまわりもふたまわりも大きかった。お父さんの■の血と、お母さんの山のおまじない屋さんの力が混ざって。おばさんたちが体を低くして、私をケイカイしてるのがわかる。怖がってるのがわかる。子供だって馬鹿にしてたんでしょう。でも、もう許さない。みんな 泣いてる。滅茶苦茶になったわたしの家。わたしの家を返して。
 私はおばさんたちを■■た。おばさんたちは逃げようとしたし、おばさんとこのおねえちゃんたちもおじさんも来たけどみんな■■た。庭の犬も■■た。そのたびにわたしは強く、大きくなっていった。
 これが■■■■■■。わたしは■■■■■■。
「(わたし)、もう大丈夫だぞ。お父さんが来たからな。お母さんも来たから」
「ああ、(わたし)私のためにこんな……ごめんね、ごめんね、(わたし)。お母さ
 んが、おばさんたちのために泣いてたから、こんな……」
 私は■から人間に戻って、タオルに包まれてお父さんとお母さんに助け出された。血まみれだったけど、警察の人とかには見つからなかった。おばさんたちの家のことは、サツジンキとかゴウトウのしわざ?っていうことになったみたい。でも近所の人は
「やっぱりあそこは■■■■■■やけん、ああなるんよ」
 ってひそひそ言ってた。でも、もういいの。私は、■■■■■■でも。やり方を覚えたから。欲しいものがあるなら、おばさんたちにやったみたいにすればいい。いじめてくる高須くんも、金本さんも、長尾さんも、藤原先生も、みんなみんな捕まえて、大きな口を開けて、牙をずらっと剥いて、




「イ・タ・ダ・キ・マ・ス」




 いらない奴なんてみんな、私のご飯でいい。うちの栄養でいい。全部私のものでいい。それくらいしか価値がない。邪魔な奴に、敵に「イキルカチ」も「ジョウブツ」もない。
 せいぜい私の「エサになれ」。
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