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後ろめたさを感じて
しおりを挟む彩矢ちゃんはどういうつもりで俺に写真などくれたのだろう。宅配の車に戻り、ポケットからゆうりの写真を取り出す。
生まれたばかりの頃のゆうり。漢字では悠李と書くんだな。裏に悠李 生後1ヶ月と書かれている。
俺の息子を抱いて微笑んでいる彩矢ちゃん。似ていると感じられるところはあまりない。髪質や耳の形などはもしかしたら彩矢ちゃんに似ているかも知れないけれど。
ーーかつて愛していた女性。
狂おしいほどに、これ以上は愛せないほど夢中になって……そして、どん底に突き落とされた。
有紀を好きにならなかったら、今でもその気持ちは続いていたのだうか。
有紀と結婚したことに、なんの後悔もない。最近太ってきて、元々おしゃれにあまり興味がない有紀は、かなり所帯じみてきたけれど。
この仕事に変えてからは、なにかとイライラしてケンカになることが多く、新婚当初のような楽しい毎日とは言えないけれど。でも俺たちの関係は、そんなことでグラつくような脆いものではないだろう。
有紀、もっと俺を信じてくれよ。もっと俺を頼ってくれよ。
彩矢ちゃんは俺になにか期待でもしているのだろうか。引っ越したばかりで物入りなのかも知れないけれど、連日の配達にはなにか作意めいたものを感じる。
いくら悠李に逢えるからといっても、父親としてなに一つもしていない自分は父親づらなど出来るわけもなく、会うたびに申し訳ない気持ちになり、落ち込む。
今日もまたマンションへ荷物を届ける。
「あ、佐野さん、いつもありがとう」
彩矢ちゃんがドアを開けて、笑顔を見せた。
「荷物ここへ置くね。じゃあ、サインお願いします」
急いている風を装って、素っ気なく伝票を差し出した。
「佐野さん、あの……LINEの交換って無理かな? 」
彩矢ちゃんがスマホを取り出して、俺を見つめた。
「えっ、そ、それは、やっぱり……ちょっと」
彩矢ちゃんの申し出が信じられず、戸惑う。
「あ、あのね、悠李の写真と動画がたくさんあるの。よかったら見てもらいたくて……」
「見たいけど、だけど、俺、何かしてあげられるわけでもないし。……松田先生にはとても感謝しているんだ。ちゃんと養ってくれていて。だ、だからやめておくよ。ごめん……。じゃあ、これで」
足早に去ろうとしたら、彩矢ちゃんの目から涙が溢れた。
「わたし…… いっしょに悠李のことを心配したり、可愛いと想ってくれる人がいて欲しかったの。でも、そうね……わかった。悠李には養ってくれる父親がいるんだからそれでいいよね」
彩矢ちゃんは泣きながらそう言って、ドアを閉めた。
ドアの前で呆然と立ちすくむ。
こういう事にまで思いがおよばないのは、今まで子育てに関わっていなかったからなのだろうか。彩矢ちゃんの思いなどには全く気づけず、金銭的な援助をしていない後ろめたさしかなかった。
彩矢ちゃんが欲しかったのは、子供への愛情だったのか。確かに松田先生にそこまで要求することは無理があるのだろう。
だけどLINE交換などしたら、有紀との生活にまでヒビが入りそうで怖かった。もしかして彩矢ちゃんは、俺とよりを戻そうとしているのではないか、なんてことまで考えて。そんなありえないことを思って、逃げ腰になっていた。
その後、彩矢ちゃんは通販での購入をやめたようで、配達はなくなってしまった。
このままでいいのだろうかという罪悪感に囚われる。だけど、だからと言ってLINEの交換って……。
有紀と松田先生に秘密を持つ事になるけど。
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