六華 snow crystal 3

なごみ

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毎日の子育て

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*彩矢*


ライラックの咲く頃となり、来週からは札幌祭やよさこいソーラン祭りなどが始まる。


梅雨のない北海道の六月は、朝晩は少し肌寒いけれど、とても過ごしやすい。


最近になって潤一は、週末よくゴルフへ行くようになった。


先々月、教授の公開オペがあって、第一助手を務めた潤一は、どうやら教授のお眼鏡に叶ったようなのだ。


相性も良かったのか、すっかり意気投合したようだ。


「医局の上下関係は俺には向いてないから、出世なんて諦めてたけどなぁ。俺にもやっとツキがまわって来たって感じだな。開業医も捨て難いけどな。俺、腕がいいから流行るだろ?  なぁ、彩矢、おまえは開業医の妻と、大学教授の妻だったらどっちがいい?」


「…………」


まだヒラのくせに、既に助教か准教授にでもなっているかのような口ぶりだ。


どこまで楽天的なのだろう。


「やっぱり、大学教授の方がかっこいいよな?」


「別にどっちでもいい」


乾燥機から出した洗濯物をたたみながら、無関心に答える。


「おまえは冷めてるな。普通は夫の出世に妻はもっと協力するものだろう。毎日ボケっと遊んでないで『白い巨塔』でも読めよ。教授になるのは大変なんだぞ!」


ビールを呑みながら枝豆を食べて、そんなことを言っている潤一に、軽い殺意を感じた。


毎日24時間子育てに追われて、新聞に目を通す暇だって中々みつけられないと言うのに。


専業主婦なんか少しも面白くない。早く子供を保育所に預けて働きたいのだ。


保育所は琴似へ引っ越して来て、すぐに申し込んだけれど、一体いつになったら入れるのだろう。






土曜の今朝、潤一は5時から起きて、ご飯も食べずにゴルフバッグを担いで慌てて出て行った。


家族サービスなど考えたこともない。休むことなく仕事をして十分な収入で養っていることが、一番の家族サービスだと思っているのだ。



夫など家にいなくても収入がいいなら、それが一番いい!  と言う妻も多いだろう。


セレブママのお友達を見つけて、おしゃれなお店でお食事したり、ブランドのバッグやジュエリーのお店を見てまわったり、エステに通ったり。


贅沢に楽しさを感じられるタイプなら良かったのかも知れない。


子供に習い事をさせ、有名私立の学校へ入れるために奮闘する。


あるいは自身の趣味に没頭するなど、専業主婦でも生きがいを見つけて楽しんでいる人はたくさんいるけれど。


そういうことに、生きがいや喜びを見いだせそうにはなかった。


悠李と雪花の教育には、もちろん関心があるけれど。


休日は家族で海や山へ行ったり、散歩やショッピングなどを一緒に楽しんでくれる人。


家族との時間を大切に考えてくれるような夫だったら、贅沢なんていらない。



公園で、悠李と遊んでくれた佐野さんを思い出す。


昼休みの合間の30分ほどの短い時間だったけれど、子煩悩な父親であろうことがすぐに見てとれた。


あんな人がいつも寄り添っていてくれたなら……。


他になにもいらない。






朝の七時を過ぎて、目をこすりながら悠李が起きてきた。


「ママ、おはよう!」


「おはよう、悠李。ひとりでお顔洗えるかな?」


悠李は教えられたように、踏み台を洗面台の前に置いた。


レバーをあげてお湯を出し、ピチャピチャと顔を洗っている。


ただ濡れた手で顔をさわっているに過ぎないけれど、習慣が大切なので上手に洗えなくても気にしないことにしている。


顔を洗い終えた悠李にタオルを渡す。


「一人で上手にできたね、悠李。お口をクチュクチュしたら、お着替えだよ」


クローゼットから悠李の着る服を選んでいたら、雪花も目をさまして泣きだした。


「雪花ったら、もうちょっと寝ていてくれたらいいのに」


雪花を抱っこして、悠李に服を渡した。


「悠李、お着替えだって一人で出来るもん!」


そう言って悠李はパジャマを脱いだ。


「ありがとう、悠李。ママとっても助かる」


『偉いね、いい子だね』などの、上から目線の褒め言葉より、感謝の気持ちを伝える方が良いとの情報を得たので、先月から気をつけて実践している。


悠李には自己肯定感、他者信頼感をきちんと身につけて欲しいから。


自分にはそれがないばかりに、いつも自信がなく、消極的で内向きな人生を送ってきたような気がする。


ロールパンと牛乳。今朝焼いておいた卵焼きとウィンナー。それにキウイと苺、プチトマトをワンプレートに添えた。


「はい、悠李。ちゃんと食べてね。ママは雪花におっぱいあげるから」


「うん、、」


いつも同じようなメニューしか出せないことに、気が咎めた。


悠李の身体が、他の二歳児より小さいのは、料理が苦手な自分のせいに違いない。


小樽には近くに安くて美味しいお惣菜の市場があったけれど、琴似に引っ越してからはまだそんなお惣菜屋さんは見つけられていない。


なので、ついレンジでチンすればいいだけの冷凍食品などに頼ってしまうのだが、体に悪いものが入っていそうで怖くなる。


「ママ、テレビ!」


食事中にはあまり見せたくないのだけれど、テレビは自分にとっても都合がいいので、つい言いなりに見せてしまう。


戦闘もののレンジャーが大好きだ。


泣きやまない雪花をおんぶして、フローリングにワイパーをかける。


潤一の脱いだ衣類や寝具を洗濯機に放り込み、デスク周りの整頓をする。



テレビを見ながらゆっくりの悠李の食事は、約一時間もかかる。一時間かかってもパンが食べられていない。


食事だけは褒めても感謝しても上手くいかない。残さず食べさせようとするから、余計に食事が嫌になっているのかも知れない。


それとも外遊びが足りないのだろうか。


雪花がやっと泣き止んだのでベビーベッドへ寝かせ、ガラガラなどのおもちゃを持たせた。


面白いテレビも終わってしまったので、暇な悠李は仮面ライダーのベルトを持って来た。


ベルトをセットしレバーを回すと、LEDが光り、変身音が鳴り出す。


ライダーになりきって一人で楽しそうに遊んでいるけれど、一緒に遊ぶお友達がいたらもっと楽しいだろうなと不憫に感じる。


いいお天気だから、公園へ行くのがいいけれど、この間のデビュー失敗で行く気がしない。


いちいち気にするようなことではないのに。潤一の気の強さと図々しさが欲しい。












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