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娘の日菜
しおりを挟む娘の日菜は高3だと言うのに、一体なにを考えているのだろう。
ソファに仰向けに寝そべり、 休日も勉強せずに一日中スマホばかり見ている。
このままではどこの大学にだって入れない。
「日菜、あなたは結局どうするの? 就職でもするわけ?」
日菜はまたその話と言わんばかりに、うんざりとした顔をあげた。
「今どき高卒で就職できるとこなんて、相当ヤバいとこだし」
「じゃあ、どうするのよ? 専門学校にでも行くつもり?」
「専門学校? え~っ、どこの~!?」
ソファから起きあがり、 素っ頓狂な声を出して人ごとのように聞いた。
「どこのって、あなたが将来つきたい仕事に役立ちそうなところに決まってるでしょう」
思っていたとおり、将来のことなど少しも考えていない日菜に呆れる。
「嫌よ、専門学校なんて。やっぱり大学でしょう。キャンパスライフくらい経験しないとね~」
「なにがキャンパスライフよ。大学は遊びに行くところじゃないわよ!」
一体誰に似てこんなに呑気なのか。
「あ~あ、どうしてそう普通のことしか言えないのかな? いつも人生は楽しんじゃいけないみたいに言うよね。真面目がそんなにいいわけ?」
日菜はまたうつ伏せにソファに寝転ぶと、人をバカにしたような薄笑いをうかべた。
「いつ楽しんじゃいけないなんて言ったのよ。あなたは毎日楽しんでばかりじゃないの。勉強してるところなんて見たことないわ」
「ほらね、子供は勉強さえしてたら安心なんだから。いい大学を出て、いいところに就職して、それがお母さんの素晴らしい人生ってわけなんでしょう?」
「あなたが将来、年収が200万程度の生活で満足なら、勉強もせずに遊んで楽しくしていたらいいわよ」
本当の貧乏を知らないから、そんなに呑気なことが言えるんだわ。
「だから高学歴じゃないとお金持ちになれないって発想が古いんだってば。大体、そうやって真面目に生きて来たお母さんは幸せなの?」
「……と、とにかく勉強する気のない人に、大学なんて行かせる必要はないわ」
日菜の顔を正視できずにソファから立ち上がり、洗面所へ向かった。
洗面所の鏡で自分の顔を見つめる。
娘の日菜の目にも到底幸せには見えない、疲れ果てた顔があった。
確かに日菜の言う通りだった。
厳しい母に反発もせずに真面目に努力して生きて来たつもりだ。
娘時代だって、職場の同僚たちがアフターファイブを楽しみ、旅行やドライブなどの遊びに興じていても、何故かついて行けなかった。
生け花を習ったり、大金を払って駅前の英会話スクールに通ったりしていた。
そして、その結果が今の自分なのだ。
どうやって生きたら幸せだったのだろう。
自分は何処でなにを間違えてしまったのだろう。
時計を見るともう夕方の5時だった。
晩ご飯は解凍してある魚を焼けばいい。あとはお味噌汁とサラダかおひたし。
ひじきの煮物やポテトサラダだってまだ冷蔵庫に残っているのだから。
気を取り直してキッチンへ向かった。
義姉がまたお金をせびりに来るのはいつだろう。ベンツは36回ローンと言っていたけれど、あのお金の使い方では200万などあっという間になくなるだろう。
「お母さん、晩ご飯なに作るの?」
ソファに寝そべってテレビをみながら日菜が聞いた。
「焼き魚よ」
日菜の不満な反応は予測できている。
「え~っ また~ なんで年寄りもいないのにいつも魚なの?」
「昨日はお肉だったじゃない。毎日魚なんか出してないわよ。文句ばっかり言ってないで、あなたも少しは料理を覚えたらどうなの」
「はぁ~ もう、いいわよ」
ふて腐れた日菜がリモコンを取ってチャンネルを変えた。
「うわ~ また殺人事件だって。ヤバッ、この人9人も殺しちゃってるよ。 一体どんな精神状態してるんだろ?」
連日報道される殺人事件など珍しくもないが、以前なら日菜と同じように驚き、同じような感想を言っていた。
その頃の自分はなんと幸せだったのだろう。
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