六華 snow crystal 6

なごみ

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佐野家へのご挨拶

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*彩矢*


年が明け、あっという間にお正月も終わって、いつもの日常に戻った。


クリスマスもお正月も遼くんを我が家に招き、子供たちと一緒に同じ時間をを楽しんだ。


悠李は潤一に会えないことに寂しさを感じていたようだけれど……



日曜の今日は、子供たちを連れて遼くんのご実家がある室蘭の佐野家へご挨拶に向かった。


室蘭に向かう車の中で、佐野家のご両親にどんな風に迎えられるのか不安で仕方がなかった。


いくら遼くんが大丈夫だからとなだめてくれても……



有紀との結婚を台無しにしたのは私に違いないし、そのことをご両親とお姉様はどんなに残念に思っておられるのか。


明るくてユーモアたっぷりの優しい有紀が、佐野家の人たちからどんなに愛されていたかは想像に難くない。


そんな佐野家のご両親が、暗い過去を持つ私を受け入れるなんて……。





一時間ほど車を走らせて、やっと中間地点の
苫小牧あたりまで来た。


「ねぇ、室蘭はまだ?  いつ着くの?」


悠李がだだっ広い外の雪景色を眺めながら、つまらなそうにつぶやいた。


「退屈だろう。おじちゃんの家、遠くてごめんな」


遼くんがミラー越しに悠李を見て謝った。


「いいよ、悠李、おじちゃんのおうち行ってみたいから」


悠李はそのうち遼くんのことをパパって呼んでくれるかな。



後部座席のチャイルドシートに並んで座っている悠李と雪花。


「ママ、ゆきか、おなかすいた」


雪花はマグカップのジュースを飲みながら、ブンブンと足を激しくふった。


「雪花ちゃんはさっきお煎餅を食べたばかりでしょう」


標準体重を大きく超えている雪花は、二歳年上の悠李より大きく見える。


食べ過ぎの雪花と、食の細い悠李の体重は、ほとんど変わらないのだ。


「おせんべい!  おせんべいたべるっ!!」


この子は佐野家でどんな振る舞いをするだろう。


人の顔色など気にも止めない雪花が心配になった。


遼くんに似ている悠李がいてくれることは少しだけ心強い。


だけど、雪花は遼くんの娘ではないし……


そんなことを考えれば考えるほど訪問が恐ろしく、悲観的な気持ちになるのだった。



「彩矢ちゃん、なにを考えてるんだい?  そんなに心配しなくても大丈夫だって」


運転をしている遼くんが、助手席で暗くうつむいていた私の肩を、ポンポンと叩いて励ましてくれた。


「俺たちはお互いにバツイチなんだからさ。彩矢ちゃんだけが肩身の狭い思いをするのはおかしいだろ?」


「……でも、離婚の原因は私のせいだから。有紀は佐野さんのご家族に気に入られていたはずよ」


「だから、お互い様だって。俺だって離婚の原因を作ってしまっただろう。彩矢ちゃんのご両親だって松田先生を気に入ってたんじゃないのか?  なんと言っても腕のいい脳外科医なんだからなぁ。俺のほうがよっぽど肩身がせまいよ」


「………」


遼くんは遼くんで、そんなことを気にしていたのね。



「うちの両親は遼くんのことをとても気に入ってたじゃない。潤一さんのことなんて、今じゃ憎んでるくらいだわ」


「そうかな?  松田先生は素行が悪いわりには憎めないタイプだろ?」



遼くんに私の心を見透かされたような気がして、少し動揺した。


うちの両親が潤一さんのことをどう思っているのか、本当のところは知らないけれど、確かに私は少しも彼を憎んでいなかった。


潤一さんの浮気と、家庭を顧みない無関心が、ただただ寂しくて悲しかった。


でも、もう未練は持たない。


潤一さんは潤一さんで、ジェニファーと新しい人生を生きていくのだ。


私もいつまでも引きずったりはしない。


遼くんと子供たちと、これから幸せに生きて行くんだから。





佐野家のご両親は私の不安など、すぐに取り去ってくださった。



「突然、ふたりの可愛い孫に恵まれるなんて思ってもみなかったわ。こんなに嬉しいことってないわ。彩矢さん、本当にありがとう」



私の手を握り、感激した様子のお母様に驚いた。


「そ、そんな、お礼なんて、、私のせいで皆さんを悲しませてしまって、本当に申し訳なくて………」


目も合わせられず、しどろもどろになってうつむいた。


「過去のことも今ではいい思い出よ。これからまた楽しいことがいっぱいだわ。うちは美沙もまだ結婚しないし、孫は無理かもって諦めていたの。遼介の幸せそうな顔を見たのも久しぶりだし、本当になんてお礼を言っていいのかわからないわ」



「子供っていうのは、ただいるだけで家を明るくするなぁ。後二年で僕も定年だから、札幌に引っ越そうかなぁ」


お父様も目を細めて子供たちを見つめていた。



ご両親のあまりの優しさに、涙が溢れて止まらなかった。


「ほら、だから大丈夫だって言っただろう。心配のしすぎなんだよ、彩矢ちゃんは。ハハハッ」


メソメソと泣いている私の肩に手をおいて、遼くんが笑った。


「さぁ、おなかがすいたでしょう。悠李くんも雪花ちゃんも手を洗ってお昼にしましょうね」


「はーい!!」


初めて会ったとは思えないほど、悠李も雪花もすっかり新しいお爺ちゃんとお婆ちゃんに懐いていた。


潤一さんのお義母さんも決して嫌いではなかったけれど、遼くんのご両親はあまりに優しすぎて、私にはもったいないくらいだった。






帰りの車の中で、一緒に暮らすアパートのことや、内輪だけの結婚式の話なんかをした。


たくさん遊んでもらって疲れたのか、悠李と雪花はチャイルドシートに座ったまま、ぐっすりと眠っていた。


「彩矢ちゃんのウエディングドレス姿を早く見たいなぁ」


「子連れの結婚式をするなんて思ってもみなかったわ。でも一度はウエディングドレス着てみたかったから嬉しい。なんだか想像しただけでとっても幸せ」


遼くんが膝の上においていた私の手を握った。


「幸せだなぁ。やっとここまで来れたんだな、俺たち」


「……随分まわり道しちゃったね」


「彩矢ちゃんのせいだぞ。まぁ、悪いことばかりってわけでもなかったけどな」


はじめから遼くんを選んでいたら、花蓮さんと航太くんは死なずにすんだだろうか。


それを思うと、後悔せずにはいられない。


だけど、そんな順調な人生だったとしたら、悠李と雪花は生まれなかったのだろう。



 悠李と雪花はずいぶん遼くんに慣れたとは思う。でも、一緒に暮らすとなるとまだ不安を感じた。


未だに悠李はパパにはいつ会えるのかと聞いてくるから。


先週潤一さんから電話があって、来週末は時間が取れそうだから、子供たちと面会をしたいとの連絡があった。


 "週末はもう予定が入っているので無理です ” と断ったけれど、何度も断り続けられるものでもない。


ーーどうしたらいいんだろう。


潤一さんに意地悪をしたいわけではないけれど、子供たちが混乱するだけのような気がする。


それとも悠李と雪花は、これからもずっと、潤一とは定期的に会うことを望むのだろうか。


そのほうがずっと寂しさを引きずるような気がするけれど。


新しいパパに慣れるのも難しくなるだろうし。


早くジェニファーが来て、ハーフの子に夢中になってくれたらいいのに。



いずれにしろ、親子で住む新居は必要だから、スキマ時間を利用して、比較的新しい2LDKをネット検索していた。


良さげな物件と思って遼くんに送信しては、ダメ出しされる。


子供がいるのだから近くに公園があったほうがいいとか、この辺りは交通量が多いから騒音が気になるとか、コンビニばかりでスーパーが遠いなどなど。


遼くん、私よりずっといい主婦になれそう。


二人で新居を探すって、なんて夢があって楽しいのだろう。


こんなやり取りの一つ一つに幸せを感じる。


挙式は両家の家族同伴でグアムですることに決めた。


あまりに遠いと飛行機の中で、子供たちが退屈してしまうだろうし、すでに二人の子持ちとしてはリーズナブルな近場が一番という気がした。


これから教育費などにたくさんお金がかかるのだ。


無駄な出費は出来るだけひかえないといけない。





土曜の午後、遼くんと不動産屋に問い合わせた物件を見に行った。


最寄駅から徒歩3分、新築の2LDKは家賃と共益費を含めて86,000円。


ここなら、実家へ行くのも仕事に行くのも便利な場所だ。


全体的に白で統一されたデザイナーズマンションは一目で気に入ったのだけれど。


「ちょっと白すぎるな。もう少し木のぬくもりが欲しくないかい?」


と、遼くんが難色を示した。


「そういうのは家具で調整出来るんじゃない?」


「そうだけど、床まで白いっていうのがどうもな。眩しすぎて目がチカチカする。彩矢ちゃんは気に入った?」


「……う、うん、まぁ、、でも、実家にも職場にも行きやすくて良いかなと思うけど」


これでも私としては、一応自己主張が出来たほうだ。



「わかったよ。彩矢ちゃんが気に入ったのなら、ここにしよう」


遼くんがあっさりと引き下がったので、ちょっと不安になった。


「でも、遼くんは嫌なんでしょう?」


「嫌ってほどでもないよ。色々と物が入ればそれほど気にならなくなると思う。こういうことは女に任せておかないと、後々面倒なことになるからな」


何を思い出したのか、少し目をそらせて懐かしむような笑顔をみせた。


有紀との楽しかった過去の一コマを思い出したかのような遼くんに、少し気持ちがザワついた。


二人は毎日どんな会話を楽しんでいたのだろう。


同じ職場だったから、それは聞かずとも想像がつく。


有紀と遼くんはいつもふざけあって、微笑ましいバトルを楽しんでいた。


二人の結婚生活は毎日が明るくて楽しくて幸せだったのだろうな。


そんな二人に私が水を差してしまったんだ。


有紀のようにポンポンと言葉を発しない、おとなしい私に、遼くんは退屈しているかも知れない。



ーー有紀にはとても敵わない。










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