六華 snow crystal 4

なごみ

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可哀想な修二さん

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**有紀**


午前中はリハビリに通っているというので、午後三時に谷家を訪問した。


修二さんは珍しく読書をしていた。集中力が続かなくて、本も新聞も読めないと言っていたのに。これも快復の兆しだろうか?


だとしたら、とても嬉しい。


「こんにちは」


修二さんがどんな反応を示すのか、ちょっとドキドキした。


「あ、有紀ちゃん、あれ? どうしたんだい?  片目がパンダじゃないか」


やはりすっかり忘れているのだった。


やったのはテメェだよ!  と、思わず心の中で毒づいた。


「うん、ちょっと、転んでぶつけた」


「そういえば有紀ちゃんって、そそっかしいところがあったよね。気をつけないと」


そんなことはちゃんと覚えているわけね。


「修二さん、読書?」


「うん、なんだかテレビも飽きてしまって。まだ、集中できないんだけど、やっぱり本は面白いね」


読者が楽しめるなら、お母様の負担も少しは軽くなるのではと思った。


恐る恐る修二さんが座っているソファの隣にに腰をおろす。お母様がキッチンにいるのだから大丈夫だろう。



お菓子を焼いたような甘い匂いが漂っている。


「有紀ちゃんが来てくれるっていうから、ロールケーキを作ってみたの」


お母様がケーキと紅茶を運んで来た。


素人が作ったとは思えないほど、色とりどりのフルーツが綺麗に巻かれたロールケーキ。


「わー、きれい! 美味しそう!」


「沢山あるからおうちにも持って帰って。有紀ちゃん、痩せちゃったから太ってもらおうと思って……」


お母様はそう言って、申し訳なさそうにうつむいた。


「私、太るのはあっという間ですから、気にしないでください。わぁ、美味しい!」


しっとりと柔らかなスポンジを焼くのは難しいのに。型くずれなくカスタードとフルーツを巻くのだって。


「僕も最近太りすぎたなぁ。プールにでも通おうかな。有紀ちゃんはテニスは出来る?」


「テニスは中学のとき部活でやってたけど、軟式だったの」


「そうかぁ、じゃあ、硬式だと慣れるまで難しいかもしれないな。僕、教えてあげるよ。今度やろう」


「いいね!  なにかスポーツしたいなって思ってたの」


「じゃあ、室内コート借りておくよ。明日はスポーツができる格好で来て」


ケーキを食べ終えて修二さんはまた本を読み始めた。


お母様がいるから猫を被っているのだろうか。この間とは打って変わって紳士的な修二さんに、少し腹が立った。


読者をしている修二さんに話しかけるわけにもいかず、暇なのでスマホを出して動画をみていた。


「有紀ちゃん、ちょっと。……ちょっと、話があるんだ」


修二さんは本を閉じて立ちあがると、二階に来るように合図した。


「え、、話って、話ってなに?」



突然二階に来るように言われて、ひどく動揺する。


「だから、ちょっと二階へ来て。僕の部屋に」


紅茶を飲みながら聞き耳を立てているお母様に目で助けを求めた。


お母様は首を横にふって行くなと合図した。


「有紀ちゃん、早く!」


苛立ったように修二さんが呼ぶ。


ここで行かなければ暴れ出すのだろうか。


何かあったらお母様が来てくれるだろう。だけど、お母様に止めることが出来なかったら……。


先週の悪夢がよみがえる。


決められずにグスグス考え込んでいたら、手首をつかまれた。


「早く来て!」


もう、いい。好きにさせてあげよう。それが修二さんの助けになることなのかよく分からないけど。覚悟を決めて、修二さんについていった。


すっかり怖気づいて、抵抗する勇気をなくしていたのだった。


修二さんの部屋まで引っ張られていき、さすがに恐怖でガタガタと震えた。


部屋に着くなり、修二さんに抱きしめられた。やはり、こうなってしまうんだと絶望する。


「ごめん、有紀ちゃん」


「えっ? 」


なぜか謝られて、想像と違う展開に戸惑う。


「僕、この間ひどいことしたから」


「お、覚えてたの!」


さっきまで、すっかり忘れているかのような修二さんに腹を立てていたけれど。


今は忘れてなかったことの方がショックだった。


なんと返事をしていいのか、恥ずかしさと屈辱感でいっぱいになり、悔し涙が溢れた。


「どうして、どうしてあんなことしたのよ!」


少しも許せていなかった怒りの感情が暴れだす。何もわからない病気の修二さんだと思えたからこそ、なんとか許せたのだ。


それなのに……。


「僕、自分をコントロール出来ないんだ。すぐに暴走してしまう感情を。それで麗奈にも逃げられてしまって……。有紀ちゃんが戻って来てくれるなんて思わなかった。ごめん、もう、あんなことしない。だから、だから、僕を見捨てないで欲しいんだ。頼むから、見捨てないで……頼む」


「修二さん……」


やっぱり、修二さん、こんなに苦しんでいたんだ。


「私、本当の修二さんを知ってるから。だから戻って来たの。病気はいつか治るわ。時間がかかっても。だって、前より良くなってるもの。だから必ず治る。一緒にがんばろう」


子どものようにポロポロと涙を流して修二さんは泣いていた。


逃げなくてよかった。修二さんのところへ戻って来られて本当によかった。



二人でしばらく一緒に泣いたあと、部屋を出て下へ降りた。


階段の下にお母様が立っていた。後ろに金属バットを隠しているのが見えたので、思わず笑ってしまった。















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