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ファミレスで
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佐野さんのアパート近くのファミレスに入った。
相変わらず学生や家族連れで混んでいたけれど、ひとつだけ空いていた奥の窓際の席に案内された。
「なにか食べろよ。レストランの食事じゃ足りなかっただろう?」
薄笑いを浮かべて、ウェイトレスが置いていった大きなメニューを開いた。
「失礼ね、足りたわよ! ダイエット中って知ってるくせに」
「そうか、随分少食になったんだな。有紀が食欲ないとなんか寂しいな。俺はチョコレートパフェでも食べようかな。少し太りたいから」
「ふーんだ、嫌味なことばっかり!」
佐野さんを睨んでメニューを閉じると、ウェイトレスがやって来た。
「俺はチョコレートパフェ。有紀は何にする?」
「フルーツパフェ!」
大きな声でそう言うと、佐野さんが吹き出した。
ウェイトレスがオーダーを復唱して、メニューを持って行った。
「アハハハッ、どうしたんだよ、ダイエットじゃなかったのか?」
ファミレスだと周囲を気にすることもなく、気楽に大声で笑える。
「レストランでビックリするようなこと言うから、デザートを味わうの忘れちゃったの!」
そうよ、あんな美味しいデザートだったのに。
「ビックリって? あぁ、彩矢ちゃんのことか
………」
いきなりシリアスなムードに切り変わった。
「………ごめんなさい」
「いや、いいよ。その話がしたかったんだから。………このファミレスのこの席でさ、去年の夏、彩矢ちゃんにフラれたんだ。2回目のデートで」
懐かしむように佐野さんは微笑んだ。
「そうだったんだ………」
「理由を聞いても何も言ってくれなくて、あやまるばっかりでさ。でも、まさか松田先生が好きだったなんてな。そんなこと言えるわけないもんな」
「うん、私もびっくりした。彩矢ってそんなイメージないもんね」
「俺と付き合うって決めたのは、助けて欲しかったからだって、松田先生のことを忘れるために。だいぶあとになってから、そう聞かされた」
「………」
「あの時も、今回も助けてあげられなかったんだ、俺……。彩矢ちゃんに妊娠してるって突然言われて、どっちの子かわからないなんて言い出すもんだから、ショックでつい松田先生に結婚してもらえばいいなんて、突き放すようなこと言ってしまって」
「………どっちの子かわからないって、彩矢がひどすぎない? そんなことあんまりだよ!」
「松田先生とちゃんとお別れしようと思って行ったって言ってた。バーでカクテル飲んでたら具合が悪くなったって、俺のこと裏切るつもりなんてなかったって」
「………確かに彩矢、お酒は強くなかったけど。いつもビール一杯だけで真っ赤になってたから」
「どうして信じてあげられなかったのかな。後悔したって遅いんだけど」
「………」
「彩矢ちゃんに一年待って欲しいって言われたんだ。もし俺の子だったら、戻って来るつもりなのかなって思って」
「佐野さん!」
「それに松田先生が俺の子を育てるなんて無理だろう」
「………」
「悪いな、こんな話聞かせて。でも聞いてもらえるって有難いことだな。なんかモヤモヤしてたのがスッキリした。有紀にしかこんなこと言えないからな、ごめん」
「彩矢に連絡とってみようか? 返事くれるかどうかわからないけど」
「子供が産まれてからでいいよ。松田先生の子かも知れないんだから。そうだったら余計なお世話になるだろう」
チョコレートパフェとフルーツパフェが運ばれて来た。ガヤガヤとした店内で、ふたりだけがしんみりとしたムードでパフェを食べた。
相変わらず学生や家族連れで混んでいたけれど、ひとつだけ空いていた奥の窓際の席に案内された。
「なにか食べろよ。レストランの食事じゃ足りなかっただろう?」
薄笑いを浮かべて、ウェイトレスが置いていった大きなメニューを開いた。
「失礼ね、足りたわよ! ダイエット中って知ってるくせに」
「そうか、随分少食になったんだな。有紀が食欲ないとなんか寂しいな。俺はチョコレートパフェでも食べようかな。少し太りたいから」
「ふーんだ、嫌味なことばっかり!」
佐野さんを睨んでメニューを閉じると、ウェイトレスがやって来た。
「俺はチョコレートパフェ。有紀は何にする?」
「フルーツパフェ!」
大きな声でそう言うと、佐野さんが吹き出した。
ウェイトレスがオーダーを復唱して、メニューを持って行った。
「アハハハッ、どうしたんだよ、ダイエットじゃなかったのか?」
ファミレスだと周囲を気にすることもなく、気楽に大声で笑える。
「レストランでビックリするようなこと言うから、デザートを味わうの忘れちゃったの!」
そうよ、あんな美味しいデザートだったのに。
「ビックリって? あぁ、彩矢ちゃんのことか
………」
いきなりシリアスなムードに切り変わった。
「………ごめんなさい」
「いや、いいよ。その話がしたかったんだから。………このファミレスのこの席でさ、去年の夏、彩矢ちゃんにフラれたんだ。2回目のデートで」
懐かしむように佐野さんは微笑んだ。
「そうだったんだ………」
「理由を聞いても何も言ってくれなくて、あやまるばっかりでさ。でも、まさか松田先生が好きだったなんてな。そんなこと言えるわけないもんな」
「うん、私もびっくりした。彩矢ってそんなイメージないもんね」
「俺と付き合うって決めたのは、助けて欲しかったからだって、松田先生のことを忘れるために。だいぶあとになってから、そう聞かされた」
「………」
「あの時も、今回も助けてあげられなかったんだ、俺……。彩矢ちゃんに妊娠してるって突然言われて、どっちの子かわからないなんて言い出すもんだから、ショックでつい松田先生に結婚してもらえばいいなんて、突き放すようなこと言ってしまって」
「………どっちの子かわからないって、彩矢がひどすぎない? そんなことあんまりだよ!」
「松田先生とちゃんとお別れしようと思って行ったって言ってた。バーでカクテル飲んでたら具合が悪くなったって、俺のこと裏切るつもりなんてなかったって」
「………確かに彩矢、お酒は強くなかったけど。いつもビール一杯だけで真っ赤になってたから」
「どうして信じてあげられなかったのかな。後悔したって遅いんだけど」
「………」
「彩矢ちゃんに一年待って欲しいって言われたんだ。もし俺の子だったら、戻って来るつもりなのかなって思って」
「佐野さん!」
「それに松田先生が俺の子を育てるなんて無理だろう」
「………」
「悪いな、こんな話聞かせて。でも聞いてもらえるって有難いことだな。なんかモヤモヤしてたのがスッキリした。有紀にしかこんなこと言えないからな、ごめん」
「彩矢に連絡とってみようか? 返事くれるかどうかわからないけど」
「子供が産まれてからでいいよ。松田先生の子かも知れないんだから。そうだったら余計なお世話になるだろう」
チョコレートパフェとフルーツパフェが運ばれて来た。ガヤガヤとした店内で、ふたりだけがしんみりとしたムードでパフェを食べた。
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