恋の決闘は魔法と見た目と詭弁と

イスコ

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あなたから目を逸らしたら勝ち

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学院中央広場。昼下がりの噴水前。

そこは、目を合わせるだけで恋愛戦の火蓋が切られると噂される「恋の決闘場」。

セラ=レニスは、わざと通りすがる風を装ってフィン=クラウドの前を歩いた。

だが、視線を合わせる気はない。

目を合わせたら負け。
視線を逸らされても負け。
勝利はただ一つ――

「自分は相手を意識していないのに、相手がこちらに注目している」

この状況を成立させること。

フィンは、ベンチに座り、魔術書を開いていた。

それ自体は自然だが、ページをめくるタイミングが微妙だった。
セラが歩みを進めたちょうどその瞬間――

(ページを…めくった? 私をちらりと見た?)

読者の観察眼で見れば、それは**“視線逸らしの偽装”**。

つまり、**「今お前を見ていなかった。偶然ページをめくっただけだ」**という演出である。

(こっちが視線を向けさせたら勝ち、と思ったのに…)

セラは咄嗟に魔力を巡らせた。
《視界撹乱魔術:ライト・コントロール》――日差しの反射を調整し、髪に光の艶を作り出す。

まるで、自然にきらめいたような後れ毛の揺れ。
風のせいに見えるように仕掛けた小さな誘惑。

その瞬間――

「……その光、演出か?」

背後から、フィンの声。

セラは振り向かない。
だが、口元には僅かな笑みが浮かぶ。

「何の話かしら?」

「髪に反射する光。その角度は偶然じゃない」

「だったら、それに気づいたあなたの“視線”こそ偶然じゃありませんわね?」

観戦していた生徒たちがざわつく。

「視線を向けたことを認めさせた!?」
「つまり、フィンが先に“興味を持っていた”証拠に…!」

フィンは立ち上がると、微笑を浮かべながら返す。

「君は、僕に注目されていることを前提に光を仕掛けた。なら、それは――君が先に僕を意識していたという証拠だ」

反転。

セラの仕掛けた光が、**“見られていることを期待していた証拠”**にされてしまう。

だがセラもまた、臆さない。

「観察される可能性を考慮したのと、あなたの注意を引こうとしたのとでは、動機が違いますわ」

「では、これはどう解釈する?」

そう言って、フィンは自ら手袋を外した。

魔術学園において、素手=“心を許している”状態の象徴。
通常は魔力の流出を防ぐため、手袋を外すのは親密な相手の前のみ。

「……えっ?」
「手袋外した!?」
「これはさすがに先手だろ!?」

セラは眉ひとつ動かさず、返す。

「あなたが“勝負に出た”なら、わたくしも受けて立ちますわ」

セラは軽く膝を折り、スカートの裾を指で摘み、礼のポーズ。
その一挙手一投足が、**優雅かつ完璧に“演出された感謝”**の構図を生む。

「あれは……“恋を受け取ったわけではない”」
「“形式的に応じただけ”という体裁……!」
「どっちが先に落ちたんだ? わからん……!」

フィンが呟く。

「君は本当に、戦場にいるみたいだな」

「戦場ではありませんわ。これは――舞台。
そして、観客の前でどちらが主役かを競う劇ですもの」

勝敗はつかない。
だが、観客の心は揺れていた。

勝ったように見せた者が、本当に勝ったのか?
それとも、その勝ちすら“計算された負け”なのか?

セラとフィンの駆け引きは、
見た目も、魔法も、心の動きすらも利用して――

次なる戦場へと続く。
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