3 / 6
あなたの好みなど興味ありませんの、ええ、断じて
しおりを挟む
翌朝、魔術学院フォル=アヴァロン。
教室に掲示された「魔法適性診断結果」に生徒たちが群がる。
セラ=レニスは“美の属性魔法”適性100%。
見る者の視覚・嗅覚・感情に影響する補助魔法において、学院トップ。
一方で、フィン=クラウドは“分析系魔術”において絶対的な成績を持つ。
一度見た魔術、見せた表情、動きの軌道、香りの強さ――すべてを“好み”として数値化し、誰が誰を意識しているかを冷酷に特定する技術を持っていた。
そして今日、授業のテーマは――
《魅了魔法を通じた心理の可視化:演習形式での実技対決》
魔法で相手に“意識”させた瞬間、印が浮かび上がる。
完全に恋心を自覚させれば、額に《❤》の刻印が浮かぶという、
極めて羞恥的な魔法実技。
セラとフィンは、ペアを組まされる。
互いに向かい合い、20秒ずつ交互に魔法を使う。
「これ、どちらかに《❤》が浮かんだら“先に惚れた”証拠じゃないか!?」
「公開処刑だぞ、これ!」
観客はざわつく。だが――
「その恥を相手に負わせた方が、“勝ち”なのよ」
と、セラは平然と微笑む。
まずはセラの番。
彼女は魔力で香りを調律しながら、髪に手を添えた。
《微香操作・視線誘導補助・感情増幅フィルター発動》
風が揺れ、ふわりとした香りがフィンを包む。
セラは何気ない声色で言う。
「あなたのような分析屋の方には、この程度の香りの差など意味がないのでしょうけれど」
その瞬間――フィンの首筋に、ほんのりと光の痕。
「ああっ!? ハート印が…!」
「いや、まだ完全に浮かんでない!半透明だ!」
セラの表情に、わずかに勝ち誇った笑み。
(“あなたの好みを見透かしてます”という態度で、逆に“意識させた”わ)
しかし次はフィンの番。
彼は、魔力で何も演出しない。ただ、真っ直ぐに言葉を放った。
「セラ=レニス。君はどういう男が好みなんだ?」
セラは鼻で笑った。
「言うわけありませんわ。……ええ、断じて。あなたに知られて得など――」
言いながら、視線がわずかに逸れる。
《分析魔術:視線微動トラッキング、声調傾斜判定、脈拍ノイズ検出、照れ隠し確率計測》
フィンは淡々と告げた。
「強がる声の抑揚。語尾の硬直。視線の先にいる男子生徒との相関値はゼロ。
つまり、その返答は僕に対して特異的に反応している――君の好みは、僕だ」
その瞬間――
「うわあああっ!? セラの額に! ハート印、浮いたぁ!!」
セラは一瞬、息を呑む。
だが、次の瞬間、魔力でその印をかき消す。
「……お忘れなく。これは“魅了魔法の実技”ですわ。
あなたの言葉に、魔法で反応しただけ」
そう、これは恋ではなく、“魔法反応”による偽陽性。
そう言い切ることで、セラは立て直す。
フィンもまた言う。
「ならば僕の視線も、ただの確認だったということにしよう。
好意など、断じて、ない」
二人とも、“なかったことにした”――それが、最大の攻防。
教室の外、掲示板の下。
観客たちはつぶやく。
「どっちが勝ったんだ…?」
「どっちも先に落ちたように見えたけど、どっちも否定してる…」
「もはや恋心を否定しきれた方が勝ち、って次元じゃない?」
だが本人たちは、それぞれ心の中で思っていた。
セラ「あそこで見抜かれたのは……く、屈辱。でも嬉しかったのも事実」
フィン「あそこで浮いた印は、確かに可愛かった……いや違う、これは興味ではない」
――どちらが先に“認める”か。
恋はまだ、駆け引きの中。
教室に掲示された「魔法適性診断結果」に生徒たちが群がる。
セラ=レニスは“美の属性魔法”適性100%。
見る者の視覚・嗅覚・感情に影響する補助魔法において、学院トップ。
一方で、フィン=クラウドは“分析系魔術”において絶対的な成績を持つ。
一度見た魔術、見せた表情、動きの軌道、香りの強さ――すべてを“好み”として数値化し、誰が誰を意識しているかを冷酷に特定する技術を持っていた。
そして今日、授業のテーマは――
《魅了魔法を通じた心理の可視化:演習形式での実技対決》
魔法で相手に“意識”させた瞬間、印が浮かび上がる。
完全に恋心を自覚させれば、額に《❤》の刻印が浮かぶという、
極めて羞恥的な魔法実技。
セラとフィンは、ペアを組まされる。
互いに向かい合い、20秒ずつ交互に魔法を使う。
「これ、どちらかに《❤》が浮かんだら“先に惚れた”証拠じゃないか!?」
「公開処刑だぞ、これ!」
観客はざわつく。だが――
「その恥を相手に負わせた方が、“勝ち”なのよ」
と、セラは平然と微笑む。
まずはセラの番。
彼女は魔力で香りを調律しながら、髪に手を添えた。
《微香操作・視線誘導補助・感情増幅フィルター発動》
風が揺れ、ふわりとした香りがフィンを包む。
セラは何気ない声色で言う。
「あなたのような分析屋の方には、この程度の香りの差など意味がないのでしょうけれど」
その瞬間――フィンの首筋に、ほんのりと光の痕。
「ああっ!? ハート印が…!」
「いや、まだ完全に浮かんでない!半透明だ!」
セラの表情に、わずかに勝ち誇った笑み。
(“あなたの好みを見透かしてます”という態度で、逆に“意識させた”わ)
しかし次はフィンの番。
彼は、魔力で何も演出しない。ただ、真っ直ぐに言葉を放った。
「セラ=レニス。君はどういう男が好みなんだ?」
セラは鼻で笑った。
「言うわけありませんわ。……ええ、断じて。あなたに知られて得など――」
言いながら、視線がわずかに逸れる。
《分析魔術:視線微動トラッキング、声調傾斜判定、脈拍ノイズ検出、照れ隠し確率計測》
フィンは淡々と告げた。
「強がる声の抑揚。語尾の硬直。視線の先にいる男子生徒との相関値はゼロ。
つまり、その返答は僕に対して特異的に反応している――君の好みは、僕だ」
その瞬間――
「うわあああっ!? セラの額に! ハート印、浮いたぁ!!」
セラは一瞬、息を呑む。
だが、次の瞬間、魔力でその印をかき消す。
「……お忘れなく。これは“魅了魔法の実技”ですわ。
あなたの言葉に、魔法で反応しただけ」
そう、これは恋ではなく、“魔法反応”による偽陽性。
そう言い切ることで、セラは立て直す。
フィンもまた言う。
「ならば僕の視線も、ただの確認だったということにしよう。
好意など、断じて、ない」
二人とも、“なかったことにした”――それが、最大の攻防。
教室の外、掲示板の下。
観客たちはつぶやく。
「どっちが勝ったんだ…?」
「どっちも先に落ちたように見えたけど、どっちも否定してる…」
「もはや恋心を否定しきれた方が勝ち、って次元じゃない?」
だが本人たちは、それぞれ心の中で思っていた。
セラ「あそこで見抜かれたのは……く、屈辱。でも嬉しかったのも事実」
フィン「あそこで浮いた印は、確かに可愛かった……いや違う、これは興味ではない」
――どちらが先に“認める”か。
恋はまだ、駆け引きの中。
0
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
きっと、貴女は知っていた
mahiro
恋愛
自分以外の未来が見えるブランシュ・プラティニ。同様に己以外の未来が見えるヴァネッサ・モンジェルは訳あって同居していた。
同居の条件として、相手の未来を見たとしても、それは決して口にはしないこととしていた。
そんなある日、ブランシュとヴァネッサの住む家の前にひとりの男性が倒れていて………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる