恋の決闘は魔法と見た目と詭弁と

イスコ

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あなたの好みなど興味ありませんの、ええ、断じて

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翌朝、魔術学院フォル=アヴァロン。
教室に掲示された「魔法適性診断結果」に生徒たちが群がる。

セラ=レニスは“美の属性魔法”適性100%。
見る者の視覚・嗅覚・感情に影響する補助魔法において、学院トップ。

一方で、フィン=クラウドは“分析系魔術”において絶対的な成績を持つ。
一度見た魔術、見せた表情、動きの軌道、香りの強さ――すべてを“好み”として数値化し、誰が誰を意識しているかを冷酷に特定する技術を持っていた。

そして今日、授業のテーマは――

《魅了魔法を通じた心理の可視化:演習形式での実技対決》

魔法で相手に“意識”させた瞬間、印が浮かび上がる。
完全に恋心を自覚させれば、額に《❤》の刻印が浮かぶという、
極めて羞恥的な魔法実技。

セラとフィンは、ペアを組まされる。
互いに向かい合い、20秒ずつ交互に魔法を使う。

「これ、どちらかに《❤》が浮かんだら“先に惚れた”証拠じゃないか!?」
「公開処刑だぞ、これ!」

観客はざわつく。だが――

「その恥を相手に負わせた方が、“勝ち”なのよ」

と、セラは平然と微笑む。

まずはセラの番。
彼女は魔力で香りを調律しながら、髪に手を添えた。

《微香操作・視線誘導補助・感情増幅フィルター発動》

風が揺れ、ふわりとした香りがフィンを包む。

セラは何気ない声色で言う。

「あなたのような分析屋の方には、この程度の香りの差など意味がないのでしょうけれど」

その瞬間――フィンの首筋に、ほんのりと光の痕。

「ああっ!? ハート印が…!」
「いや、まだ完全に浮かんでない!半透明だ!」

セラの表情に、わずかに勝ち誇った笑み。

(“あなたの好みを見透かしてます”という態度で、逆に“意識させた”わ)

しかし次はフィンの番。

彼は、魔力で何も演出しない。ただ、真っ直ぐに言葉を放った。

「セラ=レニス。君はどういう男が好みなんだ?」

セラは鼻で笑った。

「言うわけありませんわ。……ええ、断じて。あなたに知られて得など――」

言いながら、視線がわずかに逸れる。

《分析魔術:視線微動トラッキング、声調傾斜判定、脈拍ノイズ検出、照れ隠し確率計測》

フィンは淡々と告げた。

「強がる声の抑揚。語尾の硬直。視線の先にいる男子生徒との相関値はゼロ。
つまり、その返答は僕に対して特異的に反応している――君の好みは、僕だ」

その瞬間――

「うわあああっ!? セラの額に! ハート印、浮いたぁ!!」

セラは一瞬、息を呑む。

だが、次の瞬間、魔力でその印をかき消す。

「……お忘れなく。これは“魅了魔法の実技”ですわ。
あなたの言葉に、魔法で反応しただけ」

そう、これは恋ではなく、“魔法反応”による偽陽性。

そう言い切ることで、セラは立て直す。

フィンもまた言う。

「ならば僕の視線も、ただの確認だったということにしよう。
好意など、断じて、ない」

二人とも、“なかったことにした”――それが、最大の攻防。

教室の外、掲示板の下。

観客たちはつぶやく。

「どっちが勝ったんだ…?」
「どっちも先に落ちたように見えたけど、どっちも否定してる…」
「もはや恋心を否定しきれた方が勝ち、って次元じゃない?」

だが本人たちは、それぞれ心の中で思っていた。

セラ「あそこで見抜かれたのは……く、屈辱。でも嬉しかったのも事実」
フィン「あそこで浮いた印は、確かに可愛かった……いや違う、これは興味ではない」

――どちらが先に“認める”か。
恋はまだ、駆け引きの中。
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