恋の決闘は魔法と見た目と詭弁と

イスコ

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告白したくなる状況に追い込む

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学院裏手、星見の丘。

学園で唯一、魔法の干渉が届かない静寂の地――
魔力干渉を遮断する天然石が埋まっており、**“言葉だけで勝負が決まる場所”**と呼ばれている。

今日、ここでセラ=レニスは“勝負”を仕掛けた。

(あの男を、ここに呼び出した時点でリスクはある。
 だが、ここなら演出も魔法も使えない。
 言葉だけで彼を“告白寸前”まで追い詰められる。)

フィン=クラウドが現れる。
空色のマント。いつもの皮肉な微笑み。

「君がここを選んだということは、今日は“本音”で勝負、ということか」

「ええ。でも勘違いなさらないで。
 わたくし、あなたと“真剣な話”をしたいのではなく――あなたを“焦らせたい”だけですもの」

フィンは眉をわずかに上げる。

「……はじまったな」

セラは一歩踏み出す。

「あなたは、私が他の男と話していたとき、表情がほんの一瞬だけ強張った。
それを、私は“あなたが私に好意を持っている証拠”と捉えても?」

「……それは、魔術的観察では証明できないが、君の論法なら“攻めに転じる根拠”にはなるな」

「では、さらに詰めましょう。
あなたは、“私が他の人間に好かれているかもしれない”と想像することを――不快に思いますか?」

フィンの沈黙が答えだった。

セラはとどめを刺すように、視線を逸らして言った。

「わたくし、来週から“貴族選抜舞踏会”に招かれておりますの。
 ……正式なエスコートは、まだ決めていません」

一瞬、風が止まる。

フィンは答えない。
ただ、静かに拳を握っていた。

「言え……言うか……?」
「今、“行くな”と言ったら、それはもう――告白だ!」

観客はいない。だが、この空間全体が、二人の心情の実況者だった。

セラは振り向かずに背を向けて歩き出す。
彼女の心臓は、音を立てて跳ねていた。

(言って。止めて。
 ……あなたが先に気持ちを吐露すれば――私の勝ち)

しかしその背に届いたのは――

「……気をつけて行けよ。君が誰と踊ろうが、君らしくあることが一番だ」

「は――ああああああああっ!?」
「言わなかった!?言わなかったぁ!?」
「でも言い方が……切ない……!」

セラは静かに微笑んだ。

(あなた、今……わたくしの勝ちを、“逃がした”のですわね?)

つまり、
勝たせなかったことで、負けなかった。
そしてそれは、逃げたというより、引き分けを選んだこと――

セラの勝利条件は「彼に告白させること」。
だがフィンは、それをギリギリで拒みながら、心を見せてきた。

これは、戦いの終わりではない。

**

夜、セラの部屋で。
手紙が一通、届く。

【正式なエスコートが決まっていないなら、付き合ってはくれないか。
あくまで社交儀礼として――名誉あるペアとして。
……これは告白ではない。断じて。
           フィン・クラウド】

**

セラはふっと笑う。

「ならば、わたくしもお返事いたしますわ。
“あなたと踊るのは、社交のため。ただの戦術的選択です”って――
……そう、断じて、恋などではなくてよ」

**

でもその返信には――
ドレスの香水を、一滴だけ垂らしておいた。

恋の勝負は終わらない。
勝ったふり、負けたふり、逃げたふり、受け入れたふり。
全部が**“演出”の可能性**。

そして、演出に本音が紛れてしまった時――
本当の“告白”が、生まれる。
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