恋の決闘は魔法と見た目と詭弁と

イスコ

文字の大きさ
6 / 6

演じ続けた先に残ったもの

しおりを挟む
魔法舞踏会当日。

セラ=レニスは静かにドレスの裾を整えた。
ドレスの色は――月光のような白銀。
だが、前回の舞踏祭とは違い、フィンとは一切打ち合わせをしていない。

彼が何色を着てくるかも知らない。
何を思っているかも、予測していない。
演出も、分析も、捨てた。

(今日は、演技を捨てる日。
 ……でも、“素直になる”とは言ってない)

会場に入ったセラの前に、フィン=クラウドが現れる。

彼のタキシードの色は、深い銀青――月光の夜に溶けるような青。
セラはその色に、一瞬だけ目を伏せた。

(……打ち合わせなしで、合わせてきた?)

何も言わず、二人は手を取り、舞踏の列へ。

ワルツが始まる。
ふたりの動きは、あまりにも自然で、まるで呼吸のようだった。

「……綺麗だな」とフィンが呟いた。

「舞踏会の装飾のことかしら?」
セラはすぐに返す。視線は外したまま。

「いや、君の……」
言いかけて、フィンは言葉を濁した。

「……手袋が、よく似合ってる。魔力制御も見事だ」

セラは微笑んだ。
手袋に言及して、褒めた。
でも、それは恋ではない。皮肉でもない。ただの評価。

けれど――それだけで心が揺れる。

(ああ、これが“素の言葉”だ。
 駆け引きでも、皮肉でも、誘導でもない。ただの一言)

セラは軽くため息をつきながら言う。

「ねえ、フィン。
今日、あなたが私に告白してきたら、**“負け”ってことでいいのかしら?」
「……ああ。君がしてきたら、僕の勝ちだろうな」

「じゃあ、お互いに、言わないままで終わりましょうか」

「同感だ」

その後、ふたりはただ踊り続けた。

言葉を交わさず、視線を交わし、距離を詰め、距離を離し、
まるで舞踏そのものが新たな駆け引きのようだった。

そして曲が終わる頃、
セラはふと、ほんの少しだけ力を入れて――

フィンの手を強く握った。

それは、明確な意思表示ではない。
だけど、“演出”ではなかった。

フィンは、言葉ではなく――握り返すことで返事をした。

恋愛の駆け引きは終わらない。
それは、勝ち負けを越えて、**“続いていく関係”**へと変わる。

告白の代わりに、視線を。
口づけの代わりに、手の温度を。
言葉の代わりに、沈黙の信頼を。

二人はこれからも、“告白しない恋”を続けていく。

だってそれが、この恋の“ルール”だから。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

悪役令息の婚約者になりまして

どくりんご
恋愛
 婚約者に出逢って一秒。  前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。  その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。  彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。  この思い、どうすれば良いの?

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

きっと、貴女は知っていた

mahiro
恋愛
自分以外の未来が見えるブランシュ・プラティニ。同様に己以外の未来が見えるヴァネッサ・モンジェルは訳あって同居していた。 同居の条件として、相手の未来を見たとしても、それは決して口にはしないこととしていた。 そんなある日、ブランシュとヴァネッサの住む家の前にひとりの男性が倒れていて………?

処理中です...